第20回(1999)青龍賞
概要
韓国映画振興と大衆文化発展のために『スポーツ朝鮮』が毎年主催している青龍映画賞。第20回の1999年は朝鮮日報社と文化放送が後援し、テサン・グループの協賛により開催されます。受賞式は、12月14日(火)17時からソウルの国立劇場大劇場で開かれ、MBC TVを通じて全国生中継されます。部門は、最優秀作品賞,監督賞,男女主演賞,男女助演賞,撮影賞,脚本賞,技術賞,新人監督賞,男女新人賞,人気スター賞,韓国映画最高興行賞,チョン・ヨンイル映画評論賞,シナリオ大賞(新しいシナリオの公募)の16部門。
この賞の面白い所は、映画ファンの投票も参考にして候補作を決定し、その後の審査結果や審査の進行過程を全て新聞で公表するという点。投票できるのは、最優秀作品賞,監督賞,男女主演賞,男女助演賞,新人監督賞,男女新人賞,男女人気スター賞で、対象作品は 1998年12月から1999年11月20日までに上映された韓国映画。投票の締め切りは11月30日で、抽選で1等から5等までの豪華賞品があたります。インターネットでの投票は青龍賞のホームページにある「投票コーナー」でできます。
|青龍映画賞出品作リスト|
各賞候補作品|
受賞作品/人物|
青龍映画賞候補作上映祭
期間 |
12月4日(土)〜12日(日) |
場所 |
延世大学100周年記念館 地下鉄2号線「新村」駅下車徒歩10分。 |
入場料 |
3,000ウォン |
上映作品 |
『美術館の隣の動物園』,『太陽はない』,『ドクターK』
『シュリ』,『我が心のオルガン』,『北京飯店』,『イエローヘア』
『リング』,『ユリョン』,『NOWHERE 情け容赦無し』,『愛のゴースト』
『ラブ 最愛の人』,『ホワイトクリスマス 恋しくて、逢いたくて』
『アタック・ザ・ガス・ステーション!』,『虹鱒』,『カル』
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お問い合わせ 電話予約 |
延世大学100周年記念館(TEL 02-361-3819)
チケット・パーク(TEL 02-538-3200)
フィノス・チケット(TEL 02-3462-8444)
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特記 |
候補作上映祭で見た映画のチケット半券3枚以上を 延世大学100周年記念館キップ売場に持っていけば、 青龍映画賞受賞式招待券2枚と交換。 |
葉書、インターネット、パソコン通信などによる合計97,327人の読者投票を総合した結果、各部門の候補作&候補者が決定されました。これらの候補作は、12月4日(土)〜12日(日)まで開かれる青龍映画賞候補作上映祭で9人の審査委員により審査されます。もちろん一般観客の鑑賞も可。
人気スター賞は読者投票だけで決まります。ハン・ソッキュは1997年の第18回から3年連続受賞。シム・ウナは去年に続き2回目。チョン・ウソンとチョン・ドヨンは、これが初受賞となります。
ハン・ソッキュは1997年の『グリーンフィッシュ』と『接続』以降、シム・ウナは1998年の『八月のクリスマス』と『美術館の隣の動物園』以降、連続受賞していると考えればいいです。その後の活躍を考えれば2人ともあまりに当然な受賞。チョン・ウソンの初受賞というのは意外な気もしますが、従来ティーン・エイジャーを中心とした人気だったのが、今年『太陽はない』,『ユリョン』,『ラブ 最愛の人』の3本に出演、それぞれ違った配役を演じ、映画ファンに広く受け入れられたというところでしょうか。実力派のチョン・ドヨンも初受賞。ここ2年間の女王争いは人気でも実力でもシム・ウナとチョン・ドヨンのマッチ・レースとなっています。
最高興行賞は言うまでもなく韓国映画史上最高の興行成績をあげた『シュリ』。1999年は『シュリ』以外にも『NOWHERE 情け容赦無し』,『アタック・ザ・ガス・ステーション!』,『カル』など大ヒット作が目白押しでしたが、『シュリ』の成績は文字どおり「ケタ」が違います。なお、『シュリ』をはじめとする大ヒット作の連発により、1999年の映画市場における韓国映画の市場占有率(観客動員数による)は40%に迫る勢い。1本で韓国映画市場の構造を変えてしまった『シュリ』は日本をはじめアジア諸国へも輸出されており、各地での興行成績も好調なようです。
私の受賞予想は、こんな感じです。
【最優秀作品賞】『シュリ』
【監督賞】パク・チョンウォン
【男優主演賞】パク・チュンフン
【女優主演賞】チョン・ドヨン
【男優助演賞】チャン・ハンソン
【女優助演賞】ヨム・ジョンア
【新人監督賞】ミン・ビョンチョン
【新人男優賞】イ・ソンジェ
【新人女優賞】キム・ユンジン
● ちょっと一言
最優秀作品賞候補には、『シュリ』,『ユリョン』,『NOWHERE 情け容赦無し』,『カル』と1999年の大ヒット作品がずらっと並びました。作家性の強い作品が、第12回(1999)東京国際映画祭で審査員特別賞をとった『虹鱒』だけというのはちょっと寂しい気がします。『スプリング・イン・ホームタウン』がノミネートもされていないのは意外の一言ですが、この作品はイメージ的には1年前の作品。映画賞側としても今年の春先に開催された大鐘賞・映画評論家協会賞・百想芸術大賞と差別化を図りたい訳で、そうするとどうしても最近の作品のノミネートに偏ってしまうのは致し方ないのかもしれません。逆に、候補作選定の直前に公開され大ヒットの『カル』は、最優秀作品賞・監督賞・男優主演賞・女優主演賞・男優助演賞・女優助演賞の主要6部門すべてにノミネートされています。
男優主演賞にノミネートされませんでしたが、数多くの映画に出演して活躍した男優が何人かいます。『太陽はない』,『ユリョン』,『ラブ 最愛の人』のチョン・ウソン、『スプリング・イン・ホームタウン』,『美術館の隣の動物園』,『NOWHERE 情け容赦無し』のアン・ソンギ、『美術館の隣の動物園』,『愛のゴースト』,『アタック・ザ・ガス・ステーション!』のイ・ソンジェ、それに目立たない俳優ですが、『A+生』,『建築無限六面角体の秘密(=ミステリー・オブ・ザ・キューブ)』,『疾走』のイ・ミヌ。チョン・ウソンは主演した3作品のパートナー(イ・ジョンジェ、チェ・ミンス、コ・ソヨン)が全員主演賞にノミネートされましたが、彼は候補から外れてしまいました。また、アン・ソンギも『NOWHERE 情け容赦無し』の殺人鬼役はものすごい存在感でよかったと思うのですが、今回はノミネートされず。イ・ソンジェは新人男優賞にまわったのでよいとして、この2人がノミネートされていないのはちょっとかわいそうな気がします。
女優主演賞は、『我が心のオルガン』で17歳の小学生役を見事に演じきったチョン・ドヨンが受賞すると予想しましたが、それ以外でも、コ・ソヨンが『陽が西から昇ったら』,『恋風恋歌』,『ラブ 最愛の人』の3作品で、シム・ウナも『美術館の隣の動物園』,『イ・ジェスの乱』,『カル』の3作品で主演し大活躍しました。年初に韓国の週刊映画雑誌『シネ21』が、「チョン・ドヨン、コ・ソヨン、シム・ウナの3人が今後の韓国映画界を引っ張っていく女優」として特集していましたが、その評価に恥じぬ活躍といえます。また、2000年に日本映画『うずまき』で日本進出を果たすシン・ウンギョンも『建築無限六面角体の秘密(=ミステリー・オブ・ザ・キューブ)』,韓国版『リング』の2作品に主演。彼女と『虹鱒』でノミネートされたカン・スヨンは、第12回(1999)東京国際映画祭で来日しており、今後日本でも注目の女優として紹介されることでしょう。蛇足ですが、『愛のゴースト』,『ホワイトクリスマス 恋しくて、逢いたくて』に主演し、夏場に話題を呼んだキム・ヒソンですが、今回はどの賞にもノミネートされませんでした。まだまだ映画俳優というよりドラマで活躍するタレントといったイメージが強いのでしょうか。
新人監督賞の3人は誰が受賞してもそれぞれ納得できるようなノミネートになっています。ただ、1999年も新人監督が大挙デビューしているのですが、ノミネートが3人だけというのは少々寂しい。1998年は本来5人ノミネートのところ7人がノミネートされ、しかも2人が受賞するという盛況振りだったのですが。
新人男優賞はイ・ソンジェで決まりでしょう。『美術館の隣の動物園』,『愛のゴースト』,『アタック・ザ・ガス・ステーション!』と3作品で主演し、すべてヒット。1年を通した活躍は特筆物です。彼が受賞しないなんて考えられない。『ペパーミント・キャンディー』でソル・ギョングがノミネートされていたら対抗馬として面白かったのですが、この作品は映画賞開催時点では未公開なため選定対象からはずれています。
新人女優賞は順当に行けばキム・ユンジン。ただ、『イエローヘア』に続いて、映画賞授賞式直前に公開される『世紀末』でもその脱ぎっぷり(=演技)が光るイ・ジェウンも捨て難い。受賞者はこの2人のうちのどちらかだと思いますが、目立たないところで、『ホワイトクリスマス 恋しくて、逢いたくて』のキム・ヒョンジュと『太陽はない』のハン・ゴウンも印象に残る演技をしています。『ホワイトクリスマス 恋しくて、逢いたくて』は一応キム・ヒソン主演作となっていますが、「本当の主演女優はキム・ヒョンジュ」との声もあります。また、『太陽はない』出演後、テレビでの活躍が目立っているハン・ゴウンも熱烈な支持者を獲得しています。
【賞名】 |
【受賞作品名/人物】 括弧内は対象作品名 |
最優秀作品賞 |
『NOWHERE 情け容赦無し』 |
監督賞 |
カン・ジェギュ(『シュリ』) |
男優主演賞 |
イ・ジョンジェ(『太陽はない』) |
女優主演賞 |
チョン・ドヨン(『我が心のオルガン』) |
男優助演賞 |
チャン・ドンゴン(『NOWHERE 情け容赦無し』) |
女優助演賞 |
イ・ミヨン(『我が心のオルガン』) |
新人監督賞 |
イ・ヨンジェ(『我が心のオルガン』) |
新人男優賞 |
イ・ソンジェ(『アタック・ザ・ガス・ステーション!』) |
新人女優賞 |
イ・ジェウン(『イエローヘア』) |
脚本賞 |
イ・ジョンヒャン(『美術館の隣の動物園』) |
撮影賞 |
チョン・グァンソク,ソン・ヘンギ(『NOWHERE 情け容赦無し』) |
技術賞 |
チョン・ヨンフン(美術:『ユリョン』) |
チョン・ヨンイル映画評論賞 |
ヤン・ユンモ(映画評論家) |
シナリオ公募大賞 |
キム・ソンミ(『我が人生のヒロイン』)
ファン・グムチャン(『シークレット・デイ』) |
韓国映画最高興行賞 |
『シュリ』 |
人気スター賞 |
チョン・ウソン,ハン・ソッキュ
シム・ウナ,チョン・ドヨン |
審査委員 |
委員長 |
チョン・イルソン(撮影監督) |
委員 |
キム・ユジン(監督) |
シン・ガンホ(評論家) |
ユン・ジョンヒ(俳優) |
ウン・ヒギョン(小説家) |
イ・チャンセ(記者) |
イム・ウンギュン(声楽家) |
チョン・ジェヒョン(評論家) |
チョン・ジュンホン(評論家) |
勝手な講評
1999年の青龍賞授賞式は12月14日、ムン・ソングンとキム・ヘスの司会で賑々しく執り行われました。
日本でも話題の『シュリ』を押さえて最優秀作品賞を受賞したのは、中堅イ・ミョンセ監督の『NOWHERE 情け容赦無し』。最近、新人監督の台頭著しい韓国ですが、中堅以上の監督の作品が作品賞を受賞するのは実に3年ぶりのことです。『NOWHERE 情け容赦無し』は他にも撮影賞と男優助演賞を受賞し、トリプル受賞となりました。なお、9人の審査委員中、5人が『NOWHERE 情け容赦無し』に、4人が『シュリ』に投票。僅差で最優秀作品賞を逃した『シュリ』は監督賞と韓国映画最高興行賞を受賞しました。
1999年の福岡アジア映画祭でグランプリを受賞した『情事』の主演男優イ・ジョンジェが、チョン・ウソンと共演したアクション映画『太陽はない』の演技で主演男優賞を受賞しました。1998年の『情事』で一躍注目を浴びるようになった彼も、1999年に入り『太陽はない』と『イ・ジェスの乱』に主演。また現在新作の『Interview』が撮影中とすっかり映画界の顔になりました。
主演女優賞はシム・ウナと並ぶ若手女優の代表格であるチョン・ドヨンが受賞。1997年の『接続』でデビューした彼女は、『我が心のオルガン』で担任の先生に初恋をする小学生役を違和感なく演じるという離れ業をやってのけ、見事栄冠に輝きました。特に9人の審査委員の満票を得ての受賞は特筆もの。シム・ウナは、『八月のクリスマス』の演技で1998年の青龍賞を、そして『美術館の隣の動物園』の演技で1999年の大鐘賞を受賞しましたが、当時と雰囲気が似てきました。『我が心のオルガン』の演技で今回青龍賞を射止めたチョン・ドヨンは新作『ハッピーエンド』の演技で2000年の大鐘賞を受賞することができるでしょうか? いずれにせよ、人気・実力の双方でシム・ウナとチョン・ドヨンのツー・トップ体制は当分揺るぎそうにありません。なお『我が心のオルガン』は女優助演賞と新人監督賞も受賞。今回の映画賞で影の主役となっています。
あいち国際女性映画祭'99で上映され、好評を博した爽やかな恋愛ドラマ『美術館の隣の動物園』は脚本賞を受賞しました。『美術館の隣の動物園』は第18回(1997)青龍賞でシナリオ公募大賞を受賞したのがきっかけで映画化された作品で、シナリオを執筆したイ・ジョンヒャンが自らメガホンをとっています。この映画でデビューしたイ・ソンジェは「第二のハン・ソッキュ」とも評される注目株ですが、今回の青龍賞では1999年秋に大ヒットしたコメディ『アタック・ザ・ガス・ステーション!』の演技で新人男優賞を受賞しました。これで、イ・ソンジェは全ての賞で新人男優賞を受賞。これは『美術館の隣の動物園』、『愛のゴースト』、『アタック・ザ・ガス・ステーション!』と1年間で3本の作品に主演し活躍し続けた結果で、偉業と言えます。
新人女優賞を受賞したのは『シュリ』のキム・ユンジンではなく、『イエローヘア』と『世紀末』で果敢にヌードを披露した子役出身のイ・ジェウン。イ・ジェウンはその眩しい裸体もさる事ながら、清純派の多い韓国映画界において、今までの女優にはない独特の目色と雰囲気を持った女優で、これから先の活躍が楽しみです。
技術賞は『シュリ』を越える特撮で話題となった韓国初の潜水艦映画『ユリョン』が受賞しました。
最後にシナリオ公募大賞を受賞した二人を簡単に紹介しておきましょう。『我が人生のヒロイン』の女流作家キム・ソンミ(30)は、1997年の釜山国際映画祭で『Shall we ダンス?』を見たのがきっかけでこの作品のシナリオ執筆を決心したとか。以前は漫画のストーリー作家として働いていましたが、韓国シナリオ作家協会付設映像作家教育院で本格的にシナリオの勉強を始め、1996年の卒業後にシナリオ創作集団「創作時代」でシナリオ・ライターとして活躍し始めます。1997年に開催された第2回『シネ21』シナリオ公募では『今、愛する人と生きてますか?』が当選。また、1999年には姜帝圭(カン・ジェギュ)フィルムのシナリオ作家公募に当選し、カン・ジェギュ監督がプロデュースする『燃ゆる月』のシナリオ執筆にも参加しています。『シークレット・デイ』のファン・グムチャン(29)は、1999年に東国大学教育学科を卒業した人物。ただし「夢」は昔から映画で、大学時代から映画サークルで16o映画撮影に参加し、卒業後にシナリオ執筆を開始。今回の青龍映画賞シナリオ公募大賞にはなんと5作品を出品し、そのうちの1つが受賞する運びとなりました。青龍賞は、1997年のシナリオ公募大賞を受賞した『美術館の隣の動物園』が実際に映画化され、今回、脚本賞を受賞するという成果をあげました。キム・ソンミとファン・グムチャンの将来がどうなるか楽しみです。
文責:ソチョン 1999/12/20
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