虹鱒
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都会からやってきた5人の人間が、自らの地位も名誉も通用しない山奥に閉じ込められ、次第に卑怯で利己的で欺瞞に満ち、衝動的で貪欲な人間の本性があらわになる過程を描く。題名の『虹鱒』は、澄んだ水に住みながら、ちょっとした刺激にもストレスを感じて自殺してしまう虹鱒特有の習性からとっている。今までにないストレスを感じたとき、都会の人間がとる行動は?
1993年の映画振興公社シナリオ公募で当選したキム・デウの『氷の魚』をパク・チョンウォン監督が脚色。パク・チョンウォンの過去3作品は、いずれも小説を映画化したものだが、今回はオリジナルである点が異なる。製作はパク・チョンウォンの独立プロダクションである鱒プロダクション。
人里離れた田舎で虹鱒の養殖をしているチャンヒョン(ファン・インソン)。ある日、同窓生ミンス(ソル・ギョング)とビョングァン(キム・セドン)が、妻のヨンスク(カン・スヨン)とジョンファ(イ・ハンナ)、それにヨンスクの妹セファ(イ・ウンジュ)を連れて彼を訪ねる。チャンヒョンは、ヨンスクの昔の恋人だったのだが、それを知る者はいない。そして、チャンヒョンに恋心を抱くヨンスクの妹セファ。一方で田舎の少年テジュ(キム・イングォン)はセファに興味津々。そこに粗野な猟師達が入り交じり、楽しいはずの2泊3日の旅行は、意外な方向に向う・・・
監督がシナリオ『氷の魚』を映画化する決心をしたのは1997年だが、それから完成までには紆余曲折を経た。4回の脚色を終え、韓脈エンターテイメントの製作で、ファン・インソン,キム・セドン,シム・ヘジン,チョ・ジェヒョン,イ・ヘヨンらをキャスティング。ところが、韓脈エンターテイメントが企画から降りたため(経済不況のためか?)、監督自ら鱒プロダクションを作り、映画振興公社の1998年下半期版権担保融資3億ウォンを得てなんとか製作。ただし、度重なる製作延期と製作費の縮小により出演俳優は大幅に変更された。このような『虹鱒』の製作過程・秘話は、監督が執筆した『シナリオからスクリーンまで −虹鱒製作ノート−』(集文堂)に詳しい。
イ・ウンジュは、SBSドラマ『白夜3.98』でシム・ウナの子供時代を演じ、同局のドラマ『KAIST』へも出演している女優。キム・セドンは『自転車』,『春春』,『春風の妻』,『ビニールハウス』,『白馬江の月夜に』などの演劇で活躍し、東亜演劇賞主演男優賞の受賞経験もある演劇俳優。イ・ハンナは、ロシア国立シェーフキン演劇大学の修士号を持つ学究派俳優。演劇『底辺で』,『モスクワの殺人』,『田舎の女』,『私に会いに来て』,『結婚前夜』などに出演している。新人のキム・イングォンは、東国大学演劇映像学部の事務所で『虹鱒』のオーディションを知り、「ホン・ギョンイン似の顔で、田舎のイメージ」という条件に飛びついたという。なお、彼は『ペパーミント・キャンディー』,『アナーキスト』にも出演している。
第12回(1999)東京国際映画祭コンペティション部門、第4回(1999)釜山国際映画祭「韓国映画パノラマ」部門、第23回(1999)モントリオール世界映画祭ワールドシネマ部門、第18回(1999)ハワイ映画祭コンペ部門、第22回(2000)モスクワ国際映画祭National Hits部門、2000年にデンマークのコペンハーゲンで開催された "Film from the South" 韓国映画セクション部門出品、第12回(1999)東京国際映画祭審査員特別賞、第36回(2000)百想芸術大賞女子最優秀演技賞(カン・スヨン)受賞作品。
初版:1999/11
最新版:2000/12/9
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【ソチョンの鑑賞ノート】
美しい自然をバックに、非日常的な空間であらわになった人間の本性を冷たくコミカルに描いた作品。あえてジャンル分けすればブラック・コメディか?
友人に会いに来た5人の都会人。彼らは自らの社会的地位などが全く通用しない山奥で猟師達の横暴にあい、フラストレーションを感じる。猟師達の野卑な暴力の前に屈したミンスとビョングァンだが、セファをのぞきみていた田舎の少年テジュに対しては圧倒的な暴力で答える。一方、昔の恋人チャンヒョンと妹セファが関係したことを知り怒るヨンスク。そして、猟師に胸をまさぐられるも無抵抗なジョンファ。権力と暴力、そして性欲がむき出しとなり、崩壊していく人間関係。しかし、ソウルへの帰路、何もなかったように普段の生活を取り戻す都会人達。
非日常の中で、人間の本性をさらけださせるという意図はよく分かるし、いかにも面白そうな設定なのだが、個人的にはのれなかった。車がパンクしたから、脱出できなかったはずなのにラストでは何もなかったように走る車。(^^; そういうテクニカルな問題もあるのだが、好きになれない決定的な理由は、猟師達を筆頭とする田舎の人々のキャラクターの中に、私が苦手とする濃厚な韓国的要素がぎっしりてんこ盛りになって詰っているからだ。そういう要素も楽しめる人には、なかなか興味深い作品ということになるが、駄目な人にはどうにも理解できない作品と映る可能性が高い。その意味では、一般受けする作品とは言い難いですね。人間の「嫌な面」をさらけださせるという意味では、『豚が井戸に落ちた日』,『家族シネマ』に通じるものがあるようにも感じました。
また、次第に過激な行動をとっていく都会人の心の揺れの描き方が説得的であったとはいえず、人間の深層心理を巧みについた演出を期待していた私には少々拍子抜けでした。
1999年11月8日執筆
投稿者:T.Uさん 投稿日:1999年12月14日(火)00時34分07秒
日本語のタイトルは『虹鱒』だけれど、韓国では漢字で『松魚』と書くそうだ。僕は『松魚』と読むのが好きです。
『われらの歪んだ英雄』を見たとき、原作の持ち味を殺すことなく、見事な作品に仕上げた監督の腕前に感心していました。だからこの『松魚』も、ちょっと期待して見たのです。
で、どうだったかと言うと・・・ うん、なかなかでした。澄み渡った初秋の山の大気、驟雨の立ち込める中でのラブシーン、チェーホフの演劇を思わせるような、行き違ってばかりの人々・・・
人里はなれた山奥の、濃厚で残酷な人間のドラマ。
私のおすすめです。
【評価:★★★★】
投稿者:SUMさん 投稿日:2002/5/26 21:49:51
今までのパク・チョンウォンの描写の繊細さはどこへいったのか?と思うくらい、韓国臭い。
【評価:★★★】
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