ユリョン
題名 英題 原題 ハングル |
ユリョン Phantom, The Submarine 幽霊 유령 |
製作年 |
1999 |
時間 |
103 |
製作 提供 |
ウノ・フィルム イルシン創業投資 |
監督 |
ミン・ビョンチョン |
出演 |
チェ・ミンス チョン・ウソン ユン・ジュサン ソン・ビョンホ コ・ドンオプ ハン・バンド パク・キルス ソル・ギョング チョン・ウンピョ キム・ヨンホ |
日本版 Video DVD |
字幕版Video 吹替版Video DVD チョン・ウソン 特別ジャケット版DVD |
|
総製作費23億ウォン。CG&特撮を駆使した韓国初の潜水艦映画。映画の90%は核潜水艦の中で進行する。邦題の『ユリョン』は韓国語で『幽霊』の意味。「幽霊」と日本の潜水艦の対決シーンなどビジュアル面が強調されるが、「韓国が自主権を守るために核を保有するという事態になったら?」という国際政治問題を問い掛けた問題作でもある。
海軍エリート将校イ・チャンソク(チョン・ウソン)は、韓米合同訓練中に魚雷を発射しようとした艦長を射殺してしまったため軍法会議で死刑判決を受け、銃殺刑となる。記録の上では死んだことになったチャンソクだが、彼は生きて核潜水艦「幽霊<ユリョン>」に乗船する。海上強国を夢見て極秘裏にロシアから手に入れた韓国初の核潜水艦「幽霊」。その存在は周辺諸国にも知られていない極秘事項で、乗務員は皆住民登録上死亡者となっている人物ばかり。彼らはお互いの過去を知らず、名前のかわりに番号で呼ばれる。そして、密命をうけて太平洋に出港する「幽霊」。だが、艦長(ユン・ジュサン)だけが知る極秘指令の内容が『「幽霊」の存在が諸外国に知られ、国際紛争の火種になったため「幽霊」を自爆させる』ことだと察知した民族主義者の副艦長202(チェ・ミンス)は艦長を殺害。クーデターを起す。そして、核ミサイルで日本を攻撃しようとする202と、これを阻止しようとするチャンソク(431)。深海に潜む潜水艦内で男達の葛藤と対立のドラマが繰り広げられる。
潜水艦の航行シーンは、水のかわりに照明と特殊スモッグを利用して深海を表現する "Dry For Wet" という方法で撮影。新人監督のミン・ビョンチョンはシンシネが製作した015Bのミュージックビデオ『21世紀モノリス』を作って話題となった人物で、TVドラマ『白夜3.98』の特撮監督も担当していた。この映画の特殊撮影で一躍注目を浴びた撮影監督ホン・ギョンピョは、『哀愁のハーモニカ』(1994)の米国ロケ担当を始まりに、最近作では『ハウドゥン(夏雨燈)』,『ディナーの後に』の撮影を担当した人物。音楽監督はイ・ドンジュン。脚本は、チャン・ジュナン、後に『ほえる犬は噛まない』で監督デビューするポン・ジュノ、そしてキム・ジョンフンの3人。脚色はク・ソンジュと監督のミン・ビョンチョン。製作はチャ・スンジェ。
公開後、ソウルで30万名程の観客を動員し、ロサンジェルスでも公開された。
第4回(1999)釜山国際映画祭「韓国映画パノラマ」部門、イタリアの第14回(2000)Far East映画祭、東京国際ファンタスティック映画祭2000、第23回(2001)モスクワ国際映画祭特別部門「スクリーンという鏡に照らしてみた朝鮮半島」出品作品。
第37回(2000)大鐘賞男優主演賞(チェ・ミンス)・新人監督賞(ミン・ビョンチョン)・照明賞(ソ・ジョンダル)・編集賞(コ・イムピョ)・音響技術賞(キム・ソグォン)・映像技術賞(ユ・ドンニョル)、第20回(1999)青龍賞技術賞(美術:チョン・ヨンフン)、第20回(2000)映画評論家協会賞技術賞(ユ・ドンニョル)受賞作品。
初版:1999/8
最新版:2000/12/2
|
投稿者:T.Uさん 投稿日:1999年9月27日(月)02時22分41秒
『NOWHERE 情け容赦無し』、『愛のゴースト』、『ユリョン』の三本のうち、どれを見ようかと迷って、結局この『ユリョン』にした。
でもこれが大正解、映像もかっこいいし、主人公の二人も熱演です。でも僕は、ものすごく残酷な殺され方をされちゃう料理番のひとが忘れられません。
ストーリーはどっかで聞いたことあるような話で(ジーン・ハックマンとデンゼル・ワシントンが出てた潜水艦の映画、名前が思い出せない)、だいたい展開が読めちゃうのがなんだけど、僕はけっこういい映画だと思います。
でも、日本の潜水艦が沈められちゃうシーンにはちょっとドキドキ。新村で見てたんですが、当然周囲は韓国人、日本語がわかるのはたぶん僕だけ、そんな状況で日本の乗組員達が「たすけてくれー」と絶叫しながらぶくぶく沈んで行くのを見るのはなんとも言えない気分でした。なかなか貴重な経験でしょ?
【評価:★★★★】
【注】 文中にある「ジーン・ハックマンとデンゼル・ワシントンが出てた潜水艦の映画」とは、『クリムゾン・タイド』です。なお『ユリョン』は『レッド・オクトーバーを追え!』と比較されることもあります。
【ソチョンの鑑賞ノート】
主役の2人、チェ・ミンスとチョン・ウソンの大熱演と特撮が魅力。チョン・ウソンは、今まで一本調子の演技が多かったように思うのですが、この映画の演技は迫力があってなかなかいいです。特撮も非常にこなれていてGOOD! 言ってしまうと、本当に技術&資金が必要なショット、例えば潜水艦が海面上に浮上するシーンなどは避けてまして、現在の技術と資金力で可能な映像に絞っているんですが、それでもこの特撮は韓国映画史上随一でしょう。
テーマ的に『クリムゾン・タイド』,『レッド・オクトーバーを追え!』と比較されることが多いようですが、「国際政治の舞台で力を持たない国が核を保有したら?」「国家の主権とは?」といった内容から、私はかわぐちかいじの漫画『沈黙の艦隊』を思い出しました(後日読んだ監督インタビューによると実際、同作を参考にしたとのこと)。残念だったのは、チェ・ミンス演じる副艦長がなぜ日本にミサイルを打ち込みたがるのか?というのがよく分からなかったこと。途中うとうとした時間帯があったので、単に見逃しただけかもしれませんが、この辺の理由を骨太に語ってくれているのなら、更に面白い映画だろうと思います。最近の韓国映画はメロ的な要素が入ることが多くて、『シュリ』もアクションといいながら悲恋物の要素が強いのですが、『ユリョン』はそういった要素を完全に排除して国際政治論を骨太に語っている(かも知れない)のが好きです。
個人的には同じ軍事映画でも『シュリ』よりこの『ユリョン』のほうが好きですね。ちなみに、この手のアクション映画では韓国は日本の上を行ってると思います。日本でこの種の映画を作ると、なぜか嘘っぽい、ちゃちい映画になることが多いので。
1999年11月6日執筆
【追記】
東京国際ファンタスティック映画祭2000で字幕付を鑑賞。
いやはや、この映画が持つ特有の緊迫感と迫力は、パンテオンの大画面によく映えます。どういう形で日本公開されるかは分かりませんが、可能な限り大スクリーン&音響の良い映画館でご覧下さい。
字幕なしで見たときは「どんな風に国際政治論を語っているのかしら?」と想像しながら見ていたのですが、ラストのチェ・ミンスとチョン・ウソンの対決は、一般的な国際政治論というより、「踏みにじられた朝鮮半島の歴史」うんぬんの話しだったのですね。でも、「(不謹慎な書き方になるかもしれませんが)これでこそ韓国映画!」といたく納得しました。この映画のラストの二人の対決は『シュリ』のハン・ソッキュとチェ・ミンシクの対決とタメはってます。お見事!
ただ二回目ともなると粗も目立ちました。色々なサブ・キャラクターが出てくるのですが、彼らの人間描写がイマイチというか、後半の盛り上がりに特に直結してこないんですね。同じく東京国際映画祭で見た『ほえる犬は噛まない』はありとあらゆる登場人物が有機的に物語に絡んでいる素晴らしい脚本だったのですが、同じポン・ジュノが脚本執筆に参加している割には、『ユリョン』の人間描写はちょっと物足りなかったのが残念でした。
とまれ、大迫力の映像と音楽が一気にラストまで引っ張って行ってくれます。それだけでも十分満足。
2000年12月2日執筆
【Another View】 Text by ソチョン 2001/2/27
ロシアの原潜クルスクの大惨事、海上自衛隊員がロシアに内部機密をリークしていた事件、そして現在進行形のえひめ丸事件。海軍、とりわけ隠密性に優れる原潜についての謎めいた事件が頻発する昨今。「何が起っても不思議はない」と思っていた矢先に、韓国原潜が日本に核ミサイルを打ちこもうとするデンジャラスな潜水艦映画が日本上陸。
韓国で最初に見たときは(もちろん日本語字幕なし)、チェ・ミンス演じる副艦長が「なぜあぁも日本にミサイルを打ち込みたがるのか?」がよく分からなかったが、字幕付きを見て我納得。
外国から蹂躙され続けた朝鮮半島。その踏みにじられた歴史にピリオドを打つべく反乱を起こした副艦長。標的は日本! 一方、「そんな事をしても何も変わらない」と副艦長の暴挙を食い止めようとするチョン・ウソン演じるチャンソク。2人の対決は、クーデターを起こして南北統一を図るチェ・ミンシクと正論でそれを説き伏せるハン・ソッキュ、そうあの『シュリ』のワン・シーンを思い出させる緊迫度。
南北分断と、踏みにじられた朝鮮半島の歴史は表裏一体。その意味では『シュリ』と兄弟関係にある作品と言っても良いだろう。エンターテイメントとして楽しむもよし、東アジアを舞台とした政治映画として勉強の教材にするもよし、民族に宿る恨(ハン)を思い知るために見るもよし。
戦争や民族紛争をテーマにした外国映画を見る場合、日本人は対岸の火事としてノホホンと鑑賞できることが殆どだけれど、この映画の場合はそうはいかない。見ていて辛くなるシーンもあるが、日本も国際社会の中に身を置いていることを肌で感じながら見ることが出きる数少ないエンターテイメント作品。これって、結構貴重です。
先に「『シュリ』と兄弟関係にある作品」と書きましたが、それは製作過程からも読み取れます。
'90年代に入り、それまで土着資本でほそぼそと製作されていた韓国映画界に財閥系の大企業や金融産業が大挙資本を投資し始めます。この事実は、近年の韓国映画のエンターテイメント化を説明する重要な一要因ですが、『ユリョン』に投資したイルシン創業投資が金融会社として初めて韓国映画に投資を決定したのが'95年。その作品名は『銀杏のベッド』。ご存知『シュリ』のカン・ジェギュ監督デビュー作です。
イルシン創業投資の首席審査役キム・スンボム氏(当時)は拙インタビューの中で次のように語ってくれました。
「投資を決定したのは'95年の6月でしたが、当時は『なぜ韓国映画なんかに投資するのか、韓国映画なんて映画館で見るものじゃない』という雰囲気でした。韓国映画に対する関心が低かったんですね。『銀杏のベッド』が失敗したら僕も首でした(笑)。」
(『キネマ旬報』2000年1月下旬号(No.1300),p.40)
'95年当時、韓国でも人気のなかった韓国映画に新たに投資を始めるというのは、まさしく一大決心だった訳ですが、『銀杏のベッド』(1996)は公開された年に韓国映画としては第二位の興行成績をたたき出し、以後、イルシン創業投資は、『モーテルカクタス』,『接続』,『八月のクリスマス』,『クワイエット・ファミリー』,『ソウル・ガーディアンズ 退魔録』などに投資。その多くは興行的に成功し、日本でも公開されるに至ります。
さて、『銀杏のベッド』で輝かしいデビューを飾ったカン・ジェギュは次に製作費30億ウォンという当時としては破格の大作映画を企画します。その題名は『シュリ』。カン・ジェギュは、シナリオをまずデビュー作で縁のあるイルシン創業投資のキム・スンボムに持って行きますが、今回は資本提供を断られてしまいます。そして、やり手のプロデューサーであるキム・スンボムが、『シュリ』を蹴って投資を決定したのが、この『ユリョン』なのです。
ちなみに、『銀杏のベッド』を親として、枝分かれした『シュリ』と『ユリョン』ですが、音楽監督は3作品とも同じイ・ドンジュン。『シュリ』の音楽にメロメロになった人は『ユリョン』にも大満足することでしょう。
【評価:★★★★】
Copyright © 1998-
Cinema Korea, All rights reserved.
|