第36回(1999)大鐘賞
概要
韓国のアカデミー賞といわれる大鐘賞。第36回は4月8日国立劇場大劇場にて授賞式を開催。主催は韓国映画人協会とSBS、主管は大鐘賞映画祭執行委員会とSBSプロダクション、後援は文化観光部、映画振興公社、韓国映画製作協同組合、韓国映画製作家協会、全国劇場連合会、ソウル劇場協会、ソウル特別市、韓国馬舎会(?)、LGインターネット。
|本選進出作|受賞作品/人物|
本選に進出したのは下記の17作品。
- 『ディナーの後に』
- 『八月のクリスマス』
- 『太陽はない』
- 『スプリング・イン・ホームタウン』
- 『家族シネマ』
- 『情事』
- 『女校怪談』
- 『美術館の隣の動物園』
- 『男の香り』
- 『オルガミ 〜罠〜』
- 『ソウル・ガーディアンズ 退魔録』
- 『クワイエット・ファミリー』
- 『約束』
- 『マヨネーズ』
- 『恋風恋歌』
- 『シュリ』
- 『カンウォンドの恋』
【賞名】 |
【作品名/人物】 括弧内は対象作品名 |
最優秀作品賞候補作 |
『八月のクリスマス』
『スプリング・イン・ホームタウン』
『シュリ』
『美術館の隣の動物園』
『カンウォンドの恋』
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監督賞候補 |
ホ・ジノ(『八月のクリスマス』)
イ・グァンモ(『スプリング・イン・ホームタウン』)
カン・ジェギュ(『シュリ』)
イ・ジョンヒャン(『美術館の隣の動物園』)
ホン・サンス(『カンウォンドの恋』)
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男優主演賞候補 |
ハン・ソッキュ(『八月のクリスマス』)
イ・ジョンジェ(『太陽はない』)
シン・ヒョンジュン(『ソウル・ガーディアンズ 退魔録』)
パク・シニャン(『約束』)
チェ・ミンシク(『シュリ』)
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女優主演賞候補 |
イ・ミスク(『情事』)
シム・ウナ(『美術館の隣の動物園』)
チョン・ドヨン(『約束』)
キム・ヘジャ(『マヨネーズ』)
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助演男優賞候補 |
シン・グ(『八月のクリスマス』)
チョン・ジニョン(『約束』)
ソン・ガンホ(『シュリ』)
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助演女優賞候補 |
ソン・オクスク(『スプリング・イン・ホームタウン』)
イ・ミヨン(『女校怪談』)
ナ・ムニ(『クワイエット・ファミリー』)
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新人監督賞候補 |
ホ・ジノ(『八月のクリスマス』)
イ・グァンモ(『スプリング・イン・ホームタウン』)
イ・ジェヨン(『情事』)
イ・ジョンヒャン(『美術館の隣の動物園』)
キム・ジウン(『クワイエット・ファミリー』)
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新人男優賞候補 |
イ・イン(『スプリング・イン・ホームタウン』)
イ・ソンジェ(『美術館の隣の動物園』)
パク・ヨンウ(『オルガミ 〜罠〜』)
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新人女優賞候補 |
キム・ヨジン(『ディナーの後に』)
ミョン・セビン(『男の香り』)
キム・ユンジン(『シュリ』)
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脚本賞候補 |
オ・スンウク(『八月のクリスマス』)
イ・グァンモ(『スプリング・イン・ホームタウン』)
イ・ジョンヒャン(『美術館の隣の動物園』)
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脚色賞候補 |
ウ・ビョンギル(『家族シネマ』)
チョン・ヘソン(『マヨネーズ』)
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撮影賞候補 |
ユ・ヨンギル(『八月のクリスマス』)
キム・ヒョング(『スプリング・イン・ホームタウン』)
キム・ヨンチョル(『情事』)
パク・ヒョンチョル(『ソウル・ガーディアンズ 退魔録』)
キム・ソンボク(『シュリ』)
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照明賞候補 |
キム・ドンホ(『八月のクリスマス』)
イ・ガンサン(『太陽はない』)
イム・ジェヨン(『情事』)
チェ・ソンウォン(『ソウル・ガーディアンズ 退魔録』)
ウォン・ミョンジュン(『シュリ』)
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編集賞候補 |
キム・ヒョン(『太陽はない』)
コ・インピョ(『クワイエット・ファミリー』)
パク・コッチ(『シュリ』)
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音楽賞候補 |
チョ・ソンウ(『八月のクリスマス』)
ウォン・イル(『スプリング・イン・ホームタウン』)
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美術賞候補 |
MBC美術センター(『スプリング・イン・ホームタウン』)
チョ・ファソン,シム・サンウク(『ソウル・ガーディアンズ 退魔録』)
オ・サンマン(『シュリ』)
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音響技術賞候補 |
カン・デソン(『女校怪談』)
イ・ギュソク(『ソウル・ガーディアンズ 退魔録』)
イ・ビョンハ,キム・ソグォン(『シュリ』)
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企画賞候補 |
チャ・スンジェ(『八月のクリスマス』)
白頭大幹(『スプリング・イン・ホームタウン』)
カン・ジェギュ,ビョン・ムリム(『シュリ』)
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衣装賞候補 |
キム・ソン,ナ・ハンギル(『太陽はない』)
MBC美術センター(『スプリング・イン・ホームタウン』)
キム・ユソン(『ソウル・ガーディアンズ 退魔録』)
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新人技術賞候補 |
カン・ジョンイク(『ソウル・ガーディアンズ 退魔録』)
キム・ユニ(『恋風恋歌』)
キム・ヨンチョル(『カンウォンドの恋』)
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予選審査委員 |
委員長 | シン・ウシク(大韓言論人会副会長) |
委員 | キム・ジョンウォン(清州大演劇映画科教授,映画評論家) |
パク・ヨンジュン(コリアリサーチ社長) |
ペク・ミョンジン(ソウル大映像デザイン科教授) |
ソン・ギラン(シナリオ作家) |
アン・サンウ(韓国教育技術院院長) |
イ・ミニョン(映画監督) |
チョン・ヨンタク(韓国映画学会会長) |
チュ・ジンスク(中央大演劇映画学科教授) |
ホ・ムニョン(『シネ21』韓国映画チーム長) |
勝手な講評
第34回の時には未完成作『エニケーン』が『つぼみ(原題:花びら)』,『美しき青年 全泰壱』など一般公開され高い評価を受けていた作品を押しのけて最優秀作品賞を受賞するなど、審査過程の不透明さが指摘されていた大鐘賞。そして、1998年には不況のためスポンサーが見つからず開催延期と、その権威と存続が危ぶまれていた大鐘賞ですが、映画振興公社の支援とSBSの補助を得てやっと開催にこぎつけました。授賞式の翌日には各新聞が大鐘賞の授賞式の話題を大きく報じるなど「韓国映画のアカデミー賞」と呼ばれる権威と注目度の高さを印象づけましたが、一方では授賞式当日に8個部門の受賞者が欠席するなど、現役映画人の参加が低調であったことはまだまだ権威が回復しきっていないことを感じさせる出来事でした。
さて、最優秀作品賞を受賞したのは朝鮮戦争時の銃後の悲劇を静謐な映像で綴った『スプリング・イン・ホームタウン』。この作品は既に国際映画祭で数多くの受賞をしており、大鐘賞でも最有力候補の一つでした。まずは順当な受賞と言えましょう。この作品は他にも監督賞・撮影賞・音楽賞・美術賞・衣装賞と合計6部門で受賞しています。
『スプリング・イン・ホームタウン』が作品性で勝負なら、南北分断の悲劇をモチーフとしたスパイ・アクション映画『シュリ』は商業性と話題性で勝負。こちらは最優秀作品賞こそ逃しましたが、男優主演賞・新人女優賞の他、技術的完成度と企画力を認められて、照明賞・編集賞・音響技術賞・企画賞を受賞。『スプリング・イン・ホームタウン』と同じく6部門での受賞となりました。中でも中堅俳優チェ・ミンシクはこの映画で圧倒的な存在感と演技力を披露しており、彼の男優主演賞の受賞には納得です。
日本人に大好評の『八月のクリスマス』ですが、審査委員特別賞・新人監督賞・脚本賞を受賞しました。ホ・ジノ監督の新人監督賞受賞はあまりに順当。この監督はこれからの韓国映画界を支え、そして日韓映画関係をその作品によってより円滑なものにするという大きな役割を担ってくれるに違いありません。審査委員特別賞というのは、最優秀作品賞と同等、ひょっとしたらそれ以上の意味を持っているかもしれない重要な賞です。今回の大鐘賞はハン・ソッキュが『八月のクリスマス』で主演男優賞を取る最後のチャンスだったのですが、またしても受賞できず。結局この映画でハン・ソッキュは一つも主演男優賞を取れませんでした。彼のファン、そして『八月のクリスマス』ファンには全くもって納得できない結果だと思いますが、一つには1997年の『グリーンフィッシュ』で主演男優賞を総なめにしたので「今年は別の人を」という意志が審査委員の中にあったのかもしれません。今回の大鐘賞に限って言えば、やはり公開から1年以上経っていたというのも不利な材料でした。しかし、そんな彼もファンの投票による人気賞は受賞。さすがですね。
さて、ハン・ソッキュは不運でしたが、同じ『八月のクリスマス』で彼と共演したシム・ウナは女優主演賞を見事に受賞。彼女は『八月のクリスマス』の演技で1998年の国内映画賞を総なめ。そして今回の大鐘賞では『美術館の隣の動物園』で女優主演賞を受賞。完全に、韓国を代表する若手ナンバー1女優の座を射止めたといってよいでしょう。加えて、1999年には韓仏合作で海外配給も噂されるパク・クァンス監督の『イ・ジェスの乱』と、1999年秋最高の話題作であるチャン・ユニョン監督の『カル』に出演。当分、彼女の勢いは止まりそうにありません。
シム・ウナの魅力満載の映画『美術館の隣の動物園』は他に、新人監督賞・新人男優賞も受賞。『美術館の隣の動物園』と『八月のクリスマス』は「韓国メロ映画の水準をワンランク引き上げた」との評もあり、『美術館の隣の動物園』の監督イ・ジョンヒャンの評価もうなぎ上り。またシム・ウナの相手役でデビューしたイ・ソンジェも各種映画賞で新人男優賞を総なめにしています。
『スプリング・イン・ホームタウン』と『八月のクリスマス』と一緒に1998年のカンヌ映画祭に出品された『カンウォンドの恋』は新人技術賞のみの受賞に終わりました。また、1998年の夏場に話題となった恐怖映画3本(『クワイエット・ファミリー』,『女校怪談』,『ソウル・ガーディアンズ 退魔録』)ですが、こちらも『女校怪談』が助演女優賞を受賞するにとどまりました。他には、『約束』で印象的な演技をしていたチョン・ジニョンの助演男優賞受賞と、柳美里の原作を映画化したオール日本語の韓国映画『家族シネマ』の脚色賞受賞が目立ちます。
さて、『スプリング・イン・ホームタウン』と『シュリ』が6部門ずつを独占し、二人勝ちに終わった今回の大鐘賞。1998年は開催されなかったため今回の選定対象は1997年10月から1999年2月までに公開された作品だった訳ですが、最近公開された作品が受賞している傾向は否めませんね。他の賞との差別化を図ろうとすればするほど、最近作から受賞作を決めることになりますし、この傾向は大鐘賞に限ったことではないので、しょうがないと言えばしょうがないですが... でも名撮影監督ユ・ヨンギルの遺作となった『八月のクリスマス』が撮影賞を受賞できなかったのだけは納得しかねます。
とまれ、受賞した皆さん、おめでとうございます。
文責:ソチョン 1999/4/20
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