グリーンフィッシュ
画像提供:クロックワークス、ドラゴンキッカー(以下、同じ)
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香港とも日本とも異なる「味のある」韓国ノワール映画の傑作。家族の絆を望む一人の青年がふとした事からやくざの世界へ入っていき、やがて悲劇的な結末を迎える。1997年上半期の作品中、韓国映画関係者一押しの映画。国内の映画賞を総なめするにとどまらず、海外の国際映画祭にも出品され高い評価を受けている。なお、ハン・ソッキュはこの作品で主演男優賞を総なめにし、演技派としての地位を確立した。
軍隊を除隊して汽車で故郷へ向っていたマットン(ハン・ソッキュ)は、偶然ミエ(シム・ヘジン)と出会い、彼女のバラ色スカーフを拾う。都会で仕事を探していたマットンはナイトクラブで歌を歌っていたミエと再会し、彼女はペ・テゴン(ムン・ソングン)を通して彼に働き口を紹介してやる。ミエはペ・テゴンの女。そしてペ・テゴンは暴力団のボス。マットンの行く末は...
ミョン・ゲナム(ペ・テゴンの抗争相手のボス=キム・ヤンギル役で出演している)、ヨ・ギュンドン、ムン・ソングン、イ・チャンドンの4人が設立したイースト・フィルムとカン・ウソク監督が代表を勤めるシネマ・サービス映画社が共同制作した作品。当初、イースト・フィルムが企画した時点では資金が集まらず映画化が危ぶまれたが、カン・ウソクがシナリオをみて「製作費全額を投資する」と申し出て完成した。シナリオは監督のイ・チャンドンと『八月のクリスマス』の脚本も手掛けているオ・スンウク。音楽監督はイ・ドンジュン。製作はヨ・ギュンドン。
第20回(1997)黄金撮影賞銀賞(ユ・ヨンギル)・人気男優賞(ハン・ソッキュ)・人気女優賞(シム・ヘジン)、第33回(1997)百想芸術大賞作品賞・男子演技賞(ハン・ソッキュ)・女子演技賞(シム・ヘジン)・新人監督賞(イ・チャンドン)・脚本賞(イ・チャンドン)、第17回(1997)映画評論家協会賞最優秀作品賞・男子演技賞(ハン・ソッキュ)・新人監督賞(イ・チャンドン)・脚本賞(イ・チャンドン)、第35回(1997)大鐘賞審査委員特別賞・主演男優賞(ハン・ソッキュ)・主演女優賞(シム・ヘジン)・脚本賞(イ・チャンドン)・音楽賞(イ・ドンジュン)、第18回(1997)青龍賞最優秀作品賞・男優主演賞(ハン・ソッキュ)・監督賞(イ・チャンドン)・技術賞(イ・ドンジュン:音楽)、韓国芸術評論家協会「映画部門 97 最優秀芸術人賞(イ・チャンドン)」、第2回女性文化芸術企画「女性観客が選んだ今年最高の映画賞」、第3回シネ21映画賞今年の映画賞新人監督賞(イ・チャンドン)、第16回(1997)バンクーバー国際映画祭龍虎賞(The Alcan Dragon & Tiger Award)、第27回ロッテルダム国際映画祭NETPAC賞審査員特別賞受賞作品。映画振興公社選定「1997年良い映画」。
第5回(2003)ブエノスアイレス国際独立映画祭招待作品。
主演男優ハン・ソッキュの役名「マットン」は「末っ子」の意味。なお、彼の実兄でありマネージャーでもあるハン・ソンギュ氏が、この映画で「マットン」一家の2番目の兄として登場している。
NEO KOREA 韓国新世代映画祭'99では、『グリーン・フィッシュ』という題名で上映された。
初版:1998
最新版:2001/7/27
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投稿者:SUM さん 投稿日:1998年10月7日(水)20時01分00秒
ハン・ソッキュ、本当にいい俳優です。そしてユ・ヨンギル撮影監督。この二人の力は大きいですね。
彼の映像、ちっとも鮮烈じゃないのに、ずば抜けた「センス」をまったく感じないのに、瞳に写った映像がそのまま、シーンがそのまま自分の中に入ってくるような、そんな感覚を覚えます。スクリーンの中の絵が、すぐ自分の隣にあるように感じてしまう。絵を絵として浮き立たせないで、そこに写っている(モノではなくて)雰囲気を確実に伝える彼の技量に改めて感動しました。
落ち着いた脚本、その他のキャストももちろん十分な出来です。そして、ハン・ソッキュ。
表情に出さないでうちに秘めた感情を表現しているような気がします。『八月のクリスマス』では「悩み」と「暖かさ」が、何もしなくても伝わってきましたが、『グリーンフィッシュ』でも流されていく自分に、それに前向きな自分もいて後ろめいく感じている自分もいて、そして今を生きている自分を表現しています。
彼には「今」を複雑な思いの中で選んで生きている男というのが似合うのでしょうか??
【評価:★★★★】
【ソチョンの鑑賞ノート】
字幕付きビデオで鑑賞した後、NEO KOREA 韓国新世代映画祭'99で鑑賞。
改めてスクリーンで観てみると、緑を基調とした映像の重厚さに圧倒される。そして、ハン・ソッキュの演技。普通の若者が人を殴るシーン、殺すシーン、そのどれもがヒーローというには程遠い情けなさなのだが、これが実に良い。情けない若者の姿に逆にリアリティを感じることができるのだ。この映画の演技で彼が主演男優賞を総なめにしたというのもよく分かる。
ストーリーはマットンの家族、そして彼がはまり込んでいくやくざ世界の話の2つから構成されている。そしてラストのシークエンスで2つのストーリーが混ざり合う。肉親としての家族、いわゆるファミリー意識のある家族としてのやくざ組織。いずれもがとても韓国的な家族観によって描かれている。その意味で「香港とも日本とも異なる韓国ノワール映画の傑作」と評した次第。
子供の頃の家族と一緒の楽しい思い出を象徴する「緑の魚」。家族の絆を願うマットンの死なくして、彼の家族の再生はありえなかったのだろうか? 個人的にやくざ映画はあまり好きでないので星3つという評価になってしまうが、考えさせる味わい深い作品であることに間違いない。
1999年8月8日執筆
投稿者:大西康雄さん 投稿日:2001/10/13 13:04:20
この映画は表面的に要約すると一人のチンピラの生き様を描いたやくざ映画に見える。しかしこの映画の本質はそこにあるのではない。
この映画を見ると、この映画のメッセージは実はラストシーンに集約されており、それまでの全てのシーン、ハン・ソッキュの熱演さえも、ラストシーンに至る前ふりに過ぎないことが分かる。この映画のテーマとは、あの素晴らしいラストシーンのカタルシスの比類無い表現に集約されるのではないだろうか。すなわち
「人生を悼むカタルシスと悼まれる人生の意味」
にあるように思われる。この点でこの作品は極めて構成的な作品といえるが、しかしこのようなメッセージや構成が誰にでも「了解可能」なものではない、という点も認めなければならないだろう。
事実、イ・チャンドン監督は、次の作品である『ペパーミント・キャンディー』では、時間軸を逆転してクライマックスであるラストシーンから出発して、描かれる男の人生や生きた時代を回顧するという構成をとっている。これは極めて意識的な、より明示的な技巧を使って、『グリーンフィッシュ』に描かれたようなテーマ性をより分かりやすく提示しようとしたのではないかと思われる。実際、観客動員数面を見ても、監督の狙いは当たったといえるだろう。しかしこのようなテーマ性がより顕在的な技巧を使わずに描かれた『グリーンフィッシュ』のほうが、より作品として味わい深いように、私には思われる。
また、イ・チャンドン監督の作品のテーマは、現在までに発表されたニ作を見る限りでは、日本の是枝裕和監督が追求するテーマ、これは是枝監督がインタビュー等で本人自身明示的に述べている "grief work" に極めて近いように思われる。
とはいえこの両者は手法的には極めて対照的である。是枝監督が極力人為的な演出を排し、偶然性やその人の持つ固有のキャラクターを引き出すところから物語を構築しようとするのに対し、イ・チャンドン監督は徹底した物語の構成力で勝負しようとしているようである。TVドキュメンタリー作家から入った是枝監督に対し小説家から出発したイ・チャンドン監督という二人の作風の対比もなかなか興味深いのではないだろうか。
ともあれ本作は韓国映画最高傑作の一本として強く推奨したい。
【評価:★★★★★】
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