朴正煕(パク・チョンヒ)政権下の1970年、劣悪な労働環境に抗議して、22歳で焼身自殺を遂げた青年労働者、全泰壱(チョン・テイル)の生きざまを描いた作品。物語はチョン・テイルの時代(白黒)と、彼についての本を執筆中の作家キム・ヨンス(ムン・ソングン)の時代(1975年頃:カラー)が交錯しながら進んでいく。キム・ヨンスもまた同じパク・チョンヒ政権下で、権力の目を逃れながら労働運動を手助けしていたのだ。
チョン・テイルという青年の極々普通の若者らしい部分と、焼身自殺をするまでに至った心の内がうまく描けている。とはいうものの、とてつもなくヘヴィーなテーマ。映画の出来云々よりテーマにどこまで共感できるかがポイントか。この映画を最初に見たのは第1回釜山国際映画祭でだが、その時隣に座っていた大学生と思しき男性が、終映後に小学生くらいの子供にチョン・テイルの存在の歴史的意義を説明していたのが印象的だった。1997年暮れからの経済危機で労働者の解雇をし易くする法案をめぐって労使が対立したが、チョン・テイルの時代と今現在と何が変わって何が変わっていないのだろうか?
チョン・テイルを演じるのは、『われらの歪んだ英雄』の餓鬼大将オム・ソクテで同じみのホン・ギョンイン。撮影監督はユ・ヨンギル。脚本は、監督のパク・クァンスほか、イ・チャンドン、キム・ジョンファン、イ・ヒョイン、ホ・ジノの5人による共同執筆。また、後に『私にも妻がいたらいいのに』で監督デビューするパク・フンシクが演出部で働いている。
エンド・クレジットでは映画製作の資金をカンパした人の名前が延々と続く。釜山映画祭では、エンド・クレジットのあまりの長さに途中からティーチ・インを始めようとした司会を、監督が遮って最後までエンド・クレジットを見るよう促したのが印象的だった。
1995年度映画振興公社選定「良い映画(下半期)」、第32回(1996)百想芸術大賞シナリオ賞(イ・チャンドン他4人)・新人演技賞(キム・ソンジェ)・技術賞(MBC美術センター)、第34回(1996)大鐘賞企画賞(企画時代)、第16回(1995)青龍賞最優秀作品賞・監督賞(パク・クァンス)・撮影賞(ユ・ヨンギル)、第6回(1995)春史映画芸術賞最優秀作品賞(企画時代)・監督賞(パク・クァンス)・男優主演賞(ホン・ギョンイン)・撮影賞(ユ・ヨンギル)・照明賞(キム・ドンホ)受賞、第46回(1996)ベルリン国際映画祭本選コンペ部門進出作品。
初版:1998/8/8
最新版:2001/2/1
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