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つぼみ


題名
英題
原題
ハングル
つぼみ
A Petal
花びら
꽃잎
製作年 1996
時間 101
製作 ミラシン・コリア
大宇シネマ
監督 チャン・ソヌ
出演 イ・ジョンヒョン
ムン・ソングン
イ・ヨンナン
チュ・サンミ
ミョン・ゲナム
ソル・ギョング
パク・チョルミン
ナ・チャンジン
パク・クァンジョン
ホ・ジュノ
リュ・テホ
日本版
Video
DVD
なし

 光州事件で精神的ダメージを受けた一人の少女を描く。韓国での公開時期が、事件に関わりのある全斗煥(チョン・ドゥファン)・盧泰愚(ノ・テウ)前大統領の逮捕・裁判と重なり大変な話題に。

 1980年5月。光州。銃声の中で死んでいく母親(イ・ヨンナン)。気が動転した15才の少女(イ・ジョンヒョン)は母親を見捨てて逃げてしまう。数え切れない人間の死と血の匂い。少女は半狂乱となり、唯一心の支えであった兄を探して全国を歩きまわる。そんなある日、工事現場の人夫チャン(ムン・ソングン)に出会い、彼こそ兄だと思い込んだ少女は彼の薄汚い小屋に住みつく。

 キム・チュジャの主題歌『つぼみ(花びら)』は一度聞いたら耳から離れない旋律。主役の現役高校生俳優イ・ジョンヒョンが歌う。他にチョ・ヨンピルの『窓の外の女』も多用されている。劇中使用される韓国国楽と西洋音楽を融合させた独特な音楽はウォン・イルの手による。第11回(1997)福岡アジア映画祭では『光州事件/花びら』という題名で上映。

 チェ・ユンの原作をチャン・ムニルとチャン・ソヌが脚色。撮影監督はユ・ヨンギル

 第17回(1996)青龍賞男優主演賞(ムン・ソングン)・新人女優賞(イ・ジョンヒョン)、第16回(1996)映画評論家協会賞撮影賞・新人演技賞(イ・ジョンヒョン)、第33回(1997)百想芸術大賞技術賞(ユ・ヨンギル)、第34回(1996)大鐘賞審査委員特別賞・音楽賞(ウォン・イル)・新人女優賞(イ・ジョンヒョン)、第1回(1998)バンコク国際映画祭アジア映画部門最優秀劇映画賞、第41回(1996)アジア太平洋映画祭最優秀女優助演賞(イ・ヨンナン)受賞作品。映画振興公社選定「1996年良い映画」。第26回(1998)ロッテルダム国際映画祭、第54回(1997)ヴェネチア国際映画祭、第16回(1998)アムネスティ国際映画祭出品。

初版:1998/8/21



投稿者:SUMさん 投稿日:1999年8月12日(木)23時06分44秒

 光州事件を描いたその回想シーンの力と、イ・ジョンヒョンの体当たり演技が、人を感動させる。

 イ・ジョンヒョンが抱えている要素、悲劇をくぐり抜けた人間という点と、ムーダンであるという点がやや分裂ぎみで、荒っぽく力で感動させられた、と感じてしまう点がないでもない。事件を体験したキャラクターを描いた映画というのと、ムーダンとしての偶像的・抽象的な映画という両立の、このバランスがこの映画の良さではあるのだけれども、ドラマ然として人間描写に力を注ぐか、いっそ『旅人は休まない』のように撮ってしまうのも、手だったような気がしてならない。

 それでも、このバランスで人を十分に感動させるのが、チャン・ソヌの才能なのかもしれない。

【評価:★★★★】


【ソチョンの鑑賞ノート】

 字幕なしを見てから、NEO KOREA 韓国新世代映画祭'99 で日本語字幕付きを鑑賞。

 最初に見たときは、その衝撃的な映像とテーマ、それにイ・ジョンヒョンのぶっ飛んだ演技にぼこぼこに打ちのめされてしまったのですが、2回目はじっくり構えて鑑賞することができました。この映画もなかなか良い作品ですね。特に映像と俳優陣の演技がグーです。思わず、★3つの評価を4つに変えたくなりました。が、やっぱり止めときます。見終わった後に頭ではなくハートで「いいな」と思えた作品に「4」を付けることにしているので。

 『五月−夢の国』という作品があります。『つぼみ』と同じく光州事件を扱っており、独立映画集団チャンサンコンメの作品です。1988年製作で多分、この映画が光州事件を扱った最初の映画だと思います。この映画の主人公は光州事件の惨劇から逃げてきた情けない大学生なのですが、映画全編を通してイジイジイジイジ悩んでいるんです。その悩みっぷりに実に共感できる。学生が作った16mmインディ映画ですので、映画のテクニックは全くもって稚拙なんですが、「何かを伝えよう」という意志が感じられ、それがストレートに伝わってくる佳作です。この『五月−夢の国』と比べると『つぼみ』は、映像テクニックはそれはそれは素晴らしいです(特に回想シーン)。でも、僕はこの映画の主人公に共感できませんでした。イ・ジョンヒョンは銃弾に倒れた母親の腕から時計のようなものを引きちぎるように奪い、そのまま逃げます。そして、自分の母親を見捨てて逃げた事に対する罪責感に囚われて(もちろん光州事件のショックもあるのでしょうが)、憑依したムーダンのようになってしまいます。彼女はなぜ母親の腕から時計のようなものを奪ったのか? この点が妙に引っかかって、僕はイ・ジョンヒョンのキャラクターに思い入れすることができませんでした。単に気が動転したと解釈する? それ程悲惨な事件だったということ? それとも母親に対してあのような仕打ちをする伏線が描かれていたのだろうか? のべつまくなしイ・ジョンヒョンを犯しまくるムン・ソングンのキャラクター設定もどうも腑に落ちません。全般的にテクニックは優れているものの、登場人物の誰にも思い入れすることができないため観客の共感を得られにくい作品になっているような気がします。チャン・ソヌは最近こういうタイプの映画をよく作るので、わざとそうしているのか?とも思いますが。

 ちなみに題名は『つぼみ』となってますが、映画の中では「こんにっぷ」は全て「花びら」と訳されていましたね。なぜ題名だけわざわざ『つぼみ』としたのでしょうか???

1999年8月14日執筆

【追記(2001/2/7)】

 鑑賞ノートの

 「イ・ジョンヒョンは銃弾に倒れた母親の腕から時計のようなものを引きちぎるように奪い、そのまま逃げます。」

の部分に関して、読者の方から、

 「母親が子供の腕をしっかり握っていて離さなかったので子供は逃げるために、自分の腕から母親の指を引き剥がしているように見えました」

とのご指摘を受けました。そして、字幕なしビデオで確認したところ、確かにそのように見えました。ご指摘ありがとうございます。

 なお、私が主人公達に感情移入できない理由の一つとして挙げた、このシーンが見間違えていたとなると文章全体を書きなおさないといけないのですが、イ・ジョンヒョンの役にせよムン・ソングンの役にせよ、どうも共感できなかったことだけは事実ですので、例証不足ではありますが、(間違った記述をした自分に対する戒めの意味も込めまして)原文のまま「鑑賞ノート」を公開させていただきます。


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