モーテルカクタス
画像提供:アート・キャップ(以下、同じ)
題名 英題 原題 ハングル |
モーテルカクタス Motel Cactus モーテル・サボテン 모텔 선인장 |
製作年 |
1997 |
時間 |
91 |
製作 配給 製作投資 |
ウノ・フィルム 韓国映像投資開発 イルシン創業投資 |
監督 |
パク・キヨン |
出演 |
チョン・ウソン チン・ヒギョン パク・シニャン イ・ミヨン キム・スンヒョン ハン・ウンス キム・エラ シン・ドンファン イ・スナム チェ・ソンジュン |
日本版 Video DVD |
字幕版Video DVD |
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1997年10月の釜山国際映画祭に出品され、最重要コンペ部門である「新しい波」部門(アジア新人監督の作品部門)でグランプリにあたる「新しい波賞」を獲得。その後の韓国内での封切りでは興行的な成功は収められなかったものの(「1997年韓国映画興行成績」)、バンクーバー映画祭、サンフランシスコ映画祭、サンダンス映画祭、イェテボリ映画祭、ロッテルダム映画祭、ベルリン映画祭、第1回(1998)台北国際映画祭と名だたる国際映画祭に出品され話題となった。
「モーテルカクタス」という名のホテル(韓国風に言えば「サボテン荘」)を舞台に起こる男女の愛憎劇を全4話のオムニバス形式で描いた作品。ウォン・カーウァイ作品の撮影監督でお馴染みのクリストファー・ドイルが撮影を担当しており、その耽美的な映像は一見の価値あり。一方では「カメラとセックスだけの映画」という評もあるが、果たして?
1996年に大ヒットした『銀杏のベッド』でミダン王女を演じた美しきチン・ヒギョン、1998年の正月に大ヒットした『手紙』でチェ・ジンシルの夫役を好演したパク・シニャン、1998年上半期最高のヒット作となった『女校怪談』に主演しているイ・ミヨン、『KUMIHO/千年愛』で日本でもお馴染みのチョン・ウソンなど、多彩なキャスティングも魅力。後に『ほえる犬は噛まない』で監督デビューするポン・ジュノがシナリオの共同執筆と助監督を担当している。製作はチャ・スンジェ。
第27回(1998)ロッテルダム国際映画祭国際批評家連盟賞特別国際批評家連盟表彰、第2回(1997)釜山国際映画祭新しい波賞、フリブール国際映画祭審査委員賞受賞作品。映画振興公社選定「1997年良い映画」。
初版:1998/8/7
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■ チョン・ウソン合同記者会見
『モーテルカクタス』の日本公開に先立って、1998年10月14日にキャピタル東急(赤坂)日光の間で主演男優の一人チョン・ウソンの合同記者会見が行われました。記者会見の模様はこちら。
投稿者:SUM さん 投稿日:1998年10月7日(水)20時01分00秒
【評価:★★★】
『モーテルカクタス』のみどころ
Text by 藤田知子(さよ)
『モーテルカクタス』はソウルのモーテル・カクタス407号室を舞台にして、4組の男女の話がパズルのように組み合わせられています。それぞれの男女はいくつかの共通点で結ばれています。
先日記者会見でお会いしたチョン・ウソンさんは、愛が終わろうとする男女の話という言葉を使ってました。第一話ではチェ・ヒョンジュ(チン・ヒギョン)がイ・ミンク(チョン・ウソン)と2人で誕生日のケーキを用意して愛の時を過ごすのですが、すでにイ・ミンクの心が冷めていることをチェ・ヒョンジュは密かに察します。彼の心を取り戻そうと一生懸命になるその女らしい行ないが、女性としてみていて心痛むものがありました。
ソウルではデモがあったり事件で人が倒れパトカーのサイレンが鳴り響く、その様子はリアルには映し出されていませんが、一瞬それに気がつかせるような形で観客に知らせています。
この映画にでてくる4組のカップルはどれひとつとっても幸せなカップルはいません。愛すれば愛するほど孤独と悲しみに陥ってしまう男女の姿は、けっして見ていて幸せな気分になれません。でも、なぜか現実ってそんなもんさって開き直り、悲しいとも思えないところが不思議です。
この映画でもっとも注目したいところは、役者がそれぞれすばらしいこと。チョン・ウソンがモデル出身の超ハンサムな男性であれば、チン・ヒギョンもモデル出身の美しい女性。4話のイ・ミヨンも高校時代ミス・ロッテに選ばれた美人で、ご主人は『コルセット』にでていたキム・スンウ。このような役者たちの愛の場面は絵になるし、それをC・ドイルが撮影しているから、非常に美しいです。ネオンや布団の原色が見事に映し出されていたし、シャワーの水やガラス越しの撮影などは美しかったです。
第3話ではキム・ソクテ(パク・シニャン)がバーの女相手に賑やかに話をしています。そのうちバーの女は立ち去り、一人で酒を飲んでいる女性チェ・ヒョンジュ(チン・ヒギョン)に気づきます。2人はその後泥酔状態でモーテル・カクタスの407号室に行きます。
チェ・ヒョンジュはイ・ミンクとの愛の終わりを感じ、孤独を紛らわすために、キム・ソクテと思い出の407号室を訪れるのですが、その2人はめちゃくちゃにはしゃいだり、時には乱暴になったりします。
キム・ソクテはかつて大学時代に別れた女性がいて、その女性が別れた後中絶し結婚後も不幸であったことを知ります。彼も過去を捨て切れない寂しい男です。
チェ・ヒョンジュは寂しさを紛らわすためにキム・ソクテと一時の遊びをするのですが、その部屋にはイ・ミンクとの思い出の絵が飾られており、その絵を一瞬見て涙ぐんでしまいます。
この映画は若い男女の話なのですが、それとは対照的に一人の老女が登場します。カップルが帰ったあと、食べ残したお菓子の紙屑などを片付けたりするのですが、殆ど顔もみえないほどです。実は私はこの女性が大好きなのです。キム・エラさんといい、『八月のクリスマス』で家族と一緒に写真を撮りにきたおばあさんで、その時の笑顔が印象に残ってます。家族合同写真を撮った後、もう一度一人で美しいチマチョゴリを着て遺影を撮りに来た時、ハン・ソッキュに「眼鏡をとるとずっといい。若い時は美人だったでしょ」といわれ、ニッコリする場面があります。この場面では、なんだか涙がでてしまいました。
また、『灼熱の屋上』という映画では、アパートから身投げをした不幸なおばあさんを演じています。これは、笑顔のない悲しい役でしたので、『八月のクリスマス』の時とは同じ人には見えませんでした。
『モーテルカクタス』では2回目に部屋に入ってくる時に、正面の鏡に少し自分の姿が映っているのをみます。部屋を片付け部屋を出る時にも一瞬こちらを向きますが、殆ど映像としては残りません。でも、若い人たちと対照的にそのイメージを十分残してくれます。
第2話は、他の3つの話とのつながりはありません。映画の勉強をしているソン・ジュンキ(ハン・ウンス)が学校の課題のビデオ撮影をするために407号室へやってきます。そこへ女友達のユン・ソギョン(キム・スンヒョン)がモデルとしてやってきます。カメラマンがなかなか来ないので、彼は彼女をモデルにして撮影をはじめます。
この映画ではいくつかの遊びがあります。部屋が改装前、または改装後であったり、そして第1話での思い出の絵が各場面、置かれてありそれがある意味を持っていたり、また移動中の場所からとった海の寒々しい風景が一瞬ですが、各話に共通してでてきます。イ・ミンクが悲しむ場面などに映し出されるその海の風景は、孤独や寂しさを象徴するような心象風景のようです。
室内の改装については、よく見てみると、4話ともちょっと違ってます。第1、3話は改装前で壁紙がヨーロピアン調の柄であり、第2話は改装中、第4話は改装後でシンプルな壁紙と浴室のガラスに女性の柄が入っています。第2話では窓をあけると、上の階の工事中の火花が落ちてきて窓を閉めるシーンがあります。
第3話ではキム・ソクテ(パク・シニャン)は酒場で出会った女性とこの部屋を訪れ、一時の遊びをした後、別れたのですが、第4話で彼は再び407号室にやってきます。彼が風呂に入っている時、大学時代の元恋人ミン・ヒス(イ・ミヨン)がやってきます。第3話ではチェ・ヒョンジュとメチャクチャに騒いでいたのですが、4話の2人は始めのうち殆ど言葉を交わしません。
かつてキム・ソクテと別れた後、幸せではなかったミン・ヒスは話をしているうちに泣き出してしまい口論をします。そのうち、彼女はしばらく黙っていたキム・ソクテの肩にそっと手をかけます。
映像としてもっともいいアングルで美しく撮られていたのはこの4話だと思いました。2人の姿を上から撮っているシーンや、布団で彼女がうつ伏せに寝ている横で、キム・ソクテが寝煙草をしているシーン等は美しいです。寝煙草をしている彼は灰皿の中の紙に何回か火をつけ、その度に一瞬明るくなり、そうしているうちに彼女は眠ってしまいます。その後、映し出される海の寂しい風景はキム・ソクテの心境でしょうか。
1998年10月23日受領
【ソチョンの鑑賞ノート】
1999年1月22日、東京キネカ大森にて鑑賞。
ウォン・カーワイ作品の撮影監督として有名なクリストファー・ドイルの映像を中心に雰囲気を味わう作品。「雰囲気を味わう映画」というのはどちらかというと苦手なのですが、この映画に関してはずいぶんと楽しめました。映像の美しさ、俳優の素晴らしさ、合間合間に入る印象的な音楽、時折入る謎めいた映像。これらが相乗効果を生み出して私を飽きさせませんでした。
字幕なしビデオで見た時は、ドイルのカメラワークも初めてビデオ持った高校生のお遊びのように見えてあまり評価していなかったのですが、スクリーンで観るとその映像美やカメラワークには魅了されます。やはり映画は映画館で観なければと再確認した次第。ハングルを文字としてではなく、模様のように捉えているように感じられ(ドイルはハングルを読めるのだろうか?)、そういう点からも韓国人撮影監督の作品とは異なる「何か」を感じました。
全四話のオムニバスですが、1・3・4話は俳優が一人ずつ交替して登場しており、かろうじて全体を通したストーリーのようなものがあります。
| 男優
| 女優
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第1話 |
チョン・ウソン |
チン・ヒギョン |
第3話 |
パク・シニャン |
チン・ヒギョン |
第4話 |
パク・シニャン |
イ・ミヨン |
しかし、明確なストーリーを観客に対して「語る」映画ではないので、薄ぼんやりとしたストーリーの中で映像に現れない部分を観客が想像力で補って行く必要がある作品です。ドイルの耽美的な映像を楽しみながらそういう作業ができる人は、かなり楽しめる作品だと思います。逆に入れ替わり立ち代わり登場する主人公達が同一人物であるのか、異なる人物であるのかを判別できない観客には少々退屈で辛い作品かも知れません。最低限のストーリーを理解するためには俳優を識別できる能力が必要でしょうから。そして、それを韓国人俳優をほとんど知らない日本の観客に求めるのは酷な気がします。決して悪い出来ではないこの作品が東京で興行的に苦戦したという理由の一つがそこにあるのかも知れません。
あらかじめパンフであらすじを読んでから鑑賞することをお勧めします。
1999年2月13日執筆
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