友へ/チング
画像提供:シネカノン
題名 英題 原題 ハングル |
友へ/チング Friend 友人 친구 |
製作年 |
2001 |
時間 |
116(韓国公開版) 117(国際映画祭版) 118(日本公開版) |
製作 提供・配給 共同提供
共同製作 製作協助 |
シネライン2 コリア・ピクチャーズ コエル創業投資 Zemiro シムマニ・エンタ・ファンド JRピクチャーズ 釜山映像委員会 |
監督 |
クァク・キョンテク |
出演 |
ユ・オソン チャン・ドンゴン ソ・テファ チョン・ウンテク キム・ボギョン チュ・ヒョン キ・ジュボン イ・ジェヨン |
日本版 Video DVD |
字幕版Video 吹替版Video 関西弁吹替版Video DVD |
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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』を彷彿とさせるコリアン・アクション・ノスタルジック・ノワール。韓国現代史が揺れ動いた1976年から1993年までを背景に、幼い頃から苦楽を共にしてきた釜山出身の四人の男の友情を描く。前半は、セピアがかった映像による四人の男友達の成長物語。そして、後半はそのうちの二人がヤクザになって対立する悲劇となる。邦題に使われている「チング」は韓国語で「友人/友達/親友」の意。
ジュンソク(ユ・オソン)、ドンス(チャン・ドンゴン)、サンテク(ソ・テファ)、ジュンホ(チョン・ウンテク)の四人は釜山で一緒に遊びまわっていた幼なじみ。同じ高校に入学した四人は、アマチュア・ロックバンドのボーカル、ジンスク(キム・ボギョン)に一目惚れするなど楽しい毎日を送っていた。しかし、父親の職業のことで教師から侮辱されたジュンソクとドンスは学校に来なくなる。ジュンソクの父親(チュ・ヒョン)は有名なヤクザ、一方のドンスは、貧しい葬儀屋という父親の職業に劣等感を抱いていたのだ。そして、四人は、映画館で他の高校の学生と大立ち回りを演じ、ジュンソクとドンスの二人は退学にされてしまう。数年後、平凡な家庭で育ったサンテクは優等生になり、ジュンホと共に大学生になっていた。そして、ジュンソクは父親の死により暴力団のナンバー2になり、ドンスはジュンソクと対立する暴力団に入っていた。
監督が自らの体験を元にシナリオを執筆した自伝的作品で、劇中の登場人物には実在のモデルがいる。特に主役のジュンソクのモデルとなった人物はクァク監督の友人で現在懲役10年で服役中という。ちなみに、監督自身の分身的キャラクターであるサンテクを演じたソ・テファ(徐泰和)は、漢陽大学音楽学部声楽科を卒業し、マンハッタン音楽大学で修士を取得した男優。彼は、音楽家を夢見ていたニューヨーク留学時代に、当時ニューヨーク大学に籍をおいていたクァク・キョンテク監督と知り合い、クァク監督の卒業作品『営倉物語』(1995)に出演したのがきっかけで、俳優となる。その後も、クァク監督の長編『オクスタン』、『ドクターK』をはじめ、『チャン』、『ファースト・キス』、『アウトライブ −飛天舞−』、『私にも妻がいたらいいのに』などに出演し、『オクスタン』では第18回(1997)青龍賞男優助演賞にノミネートされている。
撮影は『オクスタン』でデビューしたファン・ギソク。セット製作はオ・サンマン。『リベラ・メ』などと同じく釜山フィルム・コミッション(釜山映像委員会)の支援のもと、釜山でオール・ロケされた作品だが、郷愁を呼ぶ街並みや釜山なまりなどが話題になった。特に、撮影現場となった釜山では、劇中の登場人物のファッションが流行ったり、ロケ地となった食堂の客足が倍増したり、釜山なまりが流行語になったり、ロケ地を「チングの道」と呼んで観光地化するなど、「チング・シンドローム」とも呼ぶべき現象が発生した。
なお、「チングの道」は国鉄・地下鉄「凡一洞」駅から西へ向かってすぐのところにある。この周辺には高校生時代に大乱闘を演じた映画館や主人公の四人が猛ダッシュしながら走りぬける陸橋、ドンスの最後のシーンのロケに使われた国際ホテルなどがある。その他、チャガルチ市場、釜山高校などでもロケが行われた。
音楽は1964年生まれのチェ・スンシクと1966年生まれのチェ・マンシク兄弟。復古調の曲を選曲したサウンド・トラックが発売され、『JSA』を軽く超える3万枚以上の売上を記録し、話題に。
チャン・ドンゴンは成長した後にヤクザになり、友人のユ・オソンと対立するドンスを熱演。ユ・オソンは高校生の顔を作るために一時間あまりに及ぶレスキレン(シリコンに似たもので、注入後六ヶ月程度で汗や尿として排泄されるとか)注入手術を敢行。主役四人の息の合った演技とリアルな釜山なまりが話題となった。特に主役のユ・オソンとチャン・ドンゴンの演技は「『JSA』のソン・ガンホとイ・ビョンホンに匹敵する」と高い評価を受け、ユ・オソンは「第2のソン・ガンホ」とまで評された。チョン・ウンテク(鄭雲宅)は、1975年生まれの演劇俳優で、これまで『セールス・マンの死』、『ガラスの仮面』、『6号線』、『誕生日パーティー』などの演劇に出演している男優。ジンスクを演じる紅一点は、『カ』に続いてこれがスクリーン第二作となるキム・ボギョン。彼女は、1976年生まれのソウル芸術大学演劇科卒。1996年に化粧品CMモデルとして芸能界にデビューし、KBSのドラマ『招待』で注目を浴び、同じくKBSドラマ『学校4』などに主演した女優。
シネライン2創立作品。総製作費は28億ウォン(純製作費18億ウォン+マーケティング費10億ウォン)だが、純製作費の半分以上にあたる10億ウォンという破格の宣伝費を投入し、大規模な試写会やマーケティングを展開したのが話題に。ちなみに『シュリ』の総製作費は31億ウォン、『JSA』は45億ウォン。
完成度の高いシナリオが企画段階から話題に。また、試写会では生き生きとしたキャラクターが話題となり、「韓国式ノワール映画の新しいスタイルを創造した」との高い評を得る。そして、「『シュリ』や『JSA』が公開される前の雰囲気に似てきた」と期待が高まる中、2001年3月31日に歴代最多記録となる全国117館・160スクリーン(ソウル41館・62スクリーン)で公開され、大ヒット。最終的には『シュリ』、『JSA』の動員数を遥かに上回る、全国8,181,377名、ソウル2,678,846名を動員する記録的な大ヒットとなる。
2001年7月27日に上映終了するまでの119日間で『友へ/チング』が樹立した新記録は下記の通り。
- 歴代最多前売り券販売記録(77,291枚) ちなみに、『シュリ』の前売り券販売数は23,000枚、『JSA』は50,000枚
- インターネットを通じて1億ウォン分の投資者を一般公募したところ、受付開始から締切まで史上最短の1分で終了
- 歴代最多記録となる全国117館・160スクリーン(ソウル41館・62スクリーン)で封切り
- 『タイタニック』以降、深夜上映までチケットが完全に売り切れた最初の映画(於ソウル劇場)
- 封切り直後の週末2日間最多観客動員記録(ソウル223,246人,全国582,902人) ちなみに、『シュリ』の封切り直後の週末2日間の動員数はソウル89,000人、『JSA』は同166,000人
- 封切りから二日で損益分岐点突破(総製作費28億ウォン)
- 全国100万人動員突破最短記録(封切りから6日目) ちなみに、これまで記録は『JSA』の7日目
- 全国200万人動員突破最短記録(封切りから9日目) ちなみに、これまで記録は『JSA』の15日目
- 全国500万人動員突破最短記録(封切りから30日目)
- 全国600万人動員突破最短記録(封切りから38日目)
- 封切りから42日目となる5月11日に全国観客6,221,639人(ソウル観客2,099,888人)を動員し、『シュリ』の全国観客6,208,846人の記録を破る
- 全国700万人動員突破最短記録(封切りから52日目)
- 封切りから65日目となる6月3日に、ソウルで観客2,516,023人(全国7,604,954人)を動員し、それまで『JSA』が持っていた2,513,540人という記録を更新
内容的には男性向けの映画だが、主演のユ・オソン、チャン・ドンゴンの熱演が女性観客をひきつけ、また、重厚に描かれた男の生き様や友情、そして過去20年間の郷愁を呼ぶ描写が、20代から50代までの幅広い年齢層を集客。老若男女の足を映画館に向けさせ、問答無用の大ヒットとなった。そして、あまりのヒットに在韓外国人も映画館に押し寄せ、シネコンのメガボックスでは英語字幕付プリントによる上映も行われた。
公開後に出版されたノベライズ小説『友人(チング)』(タリ・メディア刊)は、クァク・キョンテク監督自らが執筆したもので、映画には含まれていない四人の友人達の物語、それにジュンソクやドンスのモデルとなった実在の人物達の写真も掲載されている。また、2001年6月からは全10巻の漫画版を一ヶ月に2巻ずつ出版。映画が(公開後に)漫画化されるのは韓国では初めてのこと。2002年夏にはミュージカル化の計画もある。韓国映画がミュージカルになるのは(実現すれば)初。
史上初の全国800万人動員を記念して、サントラに未公開シーンや撮影現場を収録したVideo-CDを追加した2枚組みの「800万観客突破記念アルバム」がリリースされた。また、監督のクァク・キョンテクもオールド・ポップスを集めたCD2枚組のコンピレーション・アルバム『記憶−映画監督クァク・キョンテクのメモリー・アイランド』を発表。
『友へ/チング』に投資をしたコリア・ピクチャーズのキム・ドンジュ代表は、韓国映画人としては初めて『タイム』誌の「話題の人物」で紹介された。
日本ではノベライズ小説が文春文庫から発売されている。日本版ビデオ&DVDでは、ユン・ソナがジンスク役の吹き替えに挑戦。
第5回(2001)富川国際ファンタスティック映画祭メイド・イン・コリア部門、第25回(2001)モントリオール世界映画祭オフィシャル・コンペティション部門、第20回(2001)バンクーバー国際映画祭「龍虎(Dragon and Tigers)」部門、2001年AFI映画祭、第21回(2001)ハワイ国際映画祭、第45回(2001)ロンドン国際映画祭、第22回(2002)Fantasporto国際映画祭プレミア&パノラマ部門、第6回(2001)釜山国際映画祭「韓国映画パノラマ」部門、2002年フィラデルフィア映画祭「ニュー・コリアン・シネマ」部門、第4回(2002)Udine Far East Film Festival招待作品。
第46回(2001)アジア太平洋映画祭主演男優賞(ユ・オソン)・助演男優賞(チャン・ドンゴン)、第21回(2001)映画評論家協会賞特別功労賞、第22回(2001)青龍賞韓国映画最高興行賞、第9回(2001)春史羅雲奎映画芸術祭最優秀作品賞・監督賞(クァク・キョンテク)・主演男優賞(ユ・オソン)、第38回(2002)百想芸術大賞新人男子演技賞(チョン・ウンテク)受賞作品。
初版:2001/4/7
最新版:2002/4/7
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■ チャン・ドンゴン 舞台挨拶
『友へ/チング』のプロモーションで来日したチャン・ドンゴンの初日舞台挨拶リポートはこちら。
■ コラム
「レビュー&リポート」に尹春江さんの「『友へ/チング』が韓国人の情緒に熱く訴えたもの」が登録されています。
投稿者:カツヲうどんさん 投稿日:2001/4/5 16:36:28
この映画を見てまず感じたのは、韓国は変わり過ぎてしまい、20年前の情景をリアルに描くのは、今の韓国では既に困難になってしまったのだな、ということです。
この作品、少年時代をいかに魅力あるものに描けるかがポイントなのですが、それがさっぱりダメで致命的。映画自体は、韓国人の同感と好評を得ている様ですけど、子供時代の魅力のなさが、外国人にはマイナス評価になってしまうのが残念。
ヤクザ編になってからは、主演の魅力もありそこそこですが、なんだか二十年前の東映ヤクザ映画で、魅力がとても薄い。どうせなら、もっと新感覚で作って欲しかった、意欲空回り作品。
【評価:★★】
投稿者:トナカイさん 投稿日:2001/5/18 13:57:26
四月に韓国に出張する機会があり、仕事もそっちのけで『友へ/チング』を見てきました。
ハングル検定四級レベルの私にも、映像および俳優たちの演技力で全体の流れを理解させてくれる優れた映画だと思いました。ユ・オソンの鬼才ぶりは期待通り。そして、この作品以前は「ただルックスがよいだけ」ととらえていたチャン・ドンゴンも、方言を立派に駆使し、よい演技をしていました。
『JSA』ほどの感動ではないものの、私からは星四つを進呈。
なお、四月末の時点では、『友へ/チング』のオリジナル・サウンド・トラックを購入すると、もれなくポスターとコースター(いずれもニ種)がついてきました。音楽も素晴らしかったです。
【評価:★★★★】
【ソチョンの鑑賞ノート】
2001年7月28日執筆
画像提供:シネカノン
2001年7月、ソウルの映画館で鑑賞。
韓国では、全国800万人観客動員突破記念に、未公開シーン、カット、メイキングを収録した Video CD とサントラのセットが販売されていました。今、Video CD を見ながら書いていますが、主役四人の素の顔を見られる映像あり、チャン・ドンゴンの「最後」のシーンのメイキングありと、なかなか充実しています。あと、主役四人が高校生時代に釜山の街を走り回るシーンのメイキングもあるのですが、これなどはロケ地を割り出すのに役立ちそう。
さて、映画本編ですが、面白かったです。
いわゆるヤクザ映画かと思っていたのですが(特に後半)、そうではなかったです。本編を見ると、この映画はずばり韓国語そのままに『チング』という邦題にしたくなりますね。「チング」という単語は、「友人」、「友達」、「親友」といった日本語に翻訳することができますが、この映画の中の人間関係は本当にコリアンなそれなので、中途半端な翻訳を拒否したくなります。
日本ではちょうど2001年7月27日に『グリーンフィッシュ』のビデオ&DVDがリリースされましたが、この作品が、肉親としての家族と、ファミリー意識のある家族としてのヤクザ組織を対比させ、そのいずれもを韓国的な家族観によって描き、ノワール映画の体裁をとりながらも「家族」の問題を描いたのに対し、『チング』は一見ノワール映画のようでありながらも主題は文字通りコリアンな「チング」の関係。
結構なバイオレンス・シーンもありますが、『グリーンフィッシュ』が好きな人には特にお勧めです。『チング』のチャン・ドンゴンの「最後」に、『グリーンフィッシュ』のハン・ソッキュの「最後」をダブらせる人もいるかも。
また、親友同士が、外的要因によって引き裂かれ、対立せざるを得ない状況に置かれるというストーリーからは『JSA』を、主役の死の後に重厚なエピローグが待っていて、そこで主人公達の真の思いが綴られ観客の涙を誘う点では『シュリ』を思い出させます。
まさにここ数年の韓国映画の名作のいいとこどりをした内容。それゆえの大ヒット・・・なのかも知れません。
俳優に関して言うと、それまでどちらかというと異色俳優とみなされていたソン・ガンホが『JSA』で演技派として高い評価を受け、また、それまで映画界では今ひとつパッとしなかったイ・ビョンホンが同じく『JSA』で完全に映画俳優として認知されたのと同様に、『チング』ではユ・オソンが完全にブレイクし、チャン・ドンゴンが単なる美形ではないことをはっきり証明したという類似点も見逃せません。
『チング』のビデオは韓国で2001年8月1日にリリースされます。字幕なしでもオッケーな方は是非ご覧になってみてください。
投稿者:LAURA さん 投稿日:2002/1/17 02:43:32
暴力シーンが多く、ちっとも良いと思いませんでした。
でもなぜか最後の面会シーンでぐっと来てしまって、いつの間にか頬を涙が伝っていました。なぜでしょう。自分でもわかりません。「感動した」わけでも「悲しかった」わけでもないのに。
不思議な映画です。
【評価:★★★】
【鑑賞ノオト】 Text by 月原万貴子(月子) 2002/4/9
最初、四人の男優が詰襟を着ている韓国版ポスターを見たときの印象は、「これはきっと『岸和田少年愚連隊』みたいなアクション・コメディなんだろうな。だって、三十男の無理矢理学生服、ほとんど竹内力だもん」でした。が、違ってましたねえ。熱くって、やがて悲しき男の友情物語でした。
小学校時代の悪ガキ四人組が高校で再会するという設定がうまい。
中学生という微妙な時期を別々に過ごしたことで、それぞれの内面に、以前と変わらない部分と、変わってしまった部分があって当然だし、高校生ともなれば自分が置かれている社会的立場も分かるようになっているから、子供の頃のようにただの仲良しではいられないのだ。
大物ヤクザの息子ジュンソク(ユ・オソン)と貧しい葬儀屋の息子ドンス(チャン・ドンゴン)は高校を中退してヤクザになり、ごく平凡な家庭の息子で成績の良いサンテク(ソ・テファ)と、密輸成金の息子ジュンホ(チョン・ウンテク)は大学へ進学する。やがて、同じ道を選んだはずのジュンソクとドンスも、敵と味方に分かれてしまい、悲しい結末を迎える。
ユ・オソンとチャン・ドンゴンの熱演が見もの。
嫌悪しつつも極道の世界から逃れられないジュンソクが、サンテクという「普通の」親友を持つことに救いを求める気持ちも、常にジュンソクの側にいながら、一番の親友にはしてもらえず「かわいさ余って憎さ百倍」みたいに敵対する道を選ぶドンスの追い詰められた気持ちも、どっちも分かるわぁという気分にさせられたのは、彼らの演技が的確だったからだと思う。
私は主人公たちと同様に1980年代初頭に高校生活を過ごした口ですが、当時の日本は『BE-BOP HIGH SCHOOL』や横浜銀蝿を初めとする「つっぱり」ブームで、男の子たちはパンチパーマに剃り込みを入れていたものでした(眉毛もなかったしね・笑)。それと比べると主人公たちの不良ぶりは10年古い感じで(あくまでも不良であって、つっぱりではない)、風俗の違いも面白かったです。
【評価:★★★】
投稿者:大西康雄さん 投稿日:2002/4/12 01:38:39
最近の韓国映画はヤクザものばやりである。その中でもヤクザと学歴競争社会が対比で語られる映画が目立つ。例えば『新羅の月夜』(2001)では、優等生がヤクザになり、劣等生が高校の体育教師になるという秩序/コンプレックスの逆転が笑いの原点だし、『ビート』(1997)では学歴競争からドロップアウトしてヤクザと堅気の境界線にいる主人公に、ベッドを共にしたヒロインが「私も大学へ行くから、あなたも大学へ行って」と迫って堅気に戻るように説得する(しかし結局主人公はヤクザの世界へ向かい、二度と還ってこない)。未見だが『マイ・ボス マイ・ヒーロー』(2001)もヤクザと学歴コンプレックスをテーマにしたコメディのようだ。
『友へ/チング』を見てほとんど確信したのは、学歴競争社会とヤクザの世界は同根であり、ヤクザの世界は学歴社会のパラレルワールドになっている、だから学歴競争の厳しい韓国でかくもヤクザものが流行るのだ、ということである。
ドンスは葬儀屋の息子だが、彼がヤクザの世界に足を踏み入れたのは自分が生まれ育った環境からの脱出願望からである。それは、大学へ進学しアメリカへ留学するサンテクとて全く同じだ。結果的に父の後を継いでヤクザの世界に足を踏み入れたジュンソクとて同じであり、サンテクに「同じ中学に行っていたら、俺も大学を目指しただろう」と語っている。しかし彼は脱出に失敗し代理願望をサンテクに託すことで彼らの友情が成立する。
一方、ジュンソクとドンスの関係は微妙だ。ドンスにとって見ればヤクザは上昇の手段だが、ジュンソクにとってみれば、脱出したくても抜けられなかった環境に過ぎない。その点でドンスはジュンソクに対し劣等感を抱く。しかし、ドンスにとって見れば同じ土俵で勝負している近しい存在でもあり、彼の抱く「相対的剥奪(*)」が彼らの関係を破局に導いていく。しかし、彼らはいずれも表面的な違いはありながらも結局は同じ一つ穴の狢(むじな)なのだ。
(*) 相対的剥奪(Relative Deprivation)
人々が抱く剥奪(不満)感は、到達水準の絶対的な高低で決まるのではなく、準拠集団(自分が比較したり、目標にする対象となる人々)との相対的水準格差によって決まるとする社会学概念。
一般に準拠集団は自分にとって身近であったり、到達可能範囲と思われる相手が選ばれる傾向にあるので、その結果、絶対的到達水準が比較的低い人々にあっても、必ずしも剥奪感が高まるとは限らない一方、準拠集団に選ばれにくい格差の大きい上位の相手に対する剥奪感よりも、身近な相手との小さな格差に対する剥奪感の方が大きくなるという現象を招きがちである。
この現象は、言い換えれば、自分と格差の大きい優位な相手に対しては、相手の優位を比較的素直に受け止められるのに対し、格差の小さい(身近な)優位な相手に対してはなかなか素直に認められず、ねたみ、悔しさやコンプレックスの感情が大きくなるということであり、ドンスのジュンソクに対する感情と、サンテクやジュンホに対する感情の温度差はこのような現象の典型例。
このように見ていくと本作の描く世界は貧しい1970年代から豊かな1990年代への脱皮という386世代の時代的リアリティを背景としながらも、競争社会における友情の軋轢という普遍的テーマを描いており、それは加熱する学歴競争社会へのメタファーとも読める。ノスタルジーこそ描かれてはいるが、実は政治などの具体的な歴史状況の変化の表現が注意深く排除されているのもそれ故ではないか。
韓国では、学歴競争の過熱に対する問題点の指摘は行われながらも、結局儒教的秩序観に整合性の高い学歴競争の正統性自体は実は疑われていないのではないかと思える。だからこのような競争の軋轢を描くのにヤクザというメタファーを使わざるを得ないのではないだろうか。それだけに事態はより深刻だといえる。
それはちょうどわれわれ日本社会が『友へ/チング』に描かれる社会状況と似ていた1960年代〜1970年代初頭の学生運動の時代に、劇映画として直接描くことが困難であった故に、学生たちの反乱の気持ちを東映任侠路線の「健さん(高倉健)」映画に託したり、その後の内ゲバ時代の気分を、実録ものを標榜した深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズに反映せざるを得なかったように。
本作を見てどう感じるかは、日本人であるわれわれにとって、その人の個人的経験に応じてずいぶん変わると思う。とはいえ、どう感じるかはともかく、今の韓国をよりよく知るためには見る必要のある映画だろう。しかし、個人的には韓国映画に対して、男の友情を描くのにそろそろ(1)ヤクザ、(2)軍隊、(3)ノスタルジーの三種の神器を脱した映画を求めたい気もする。
【評価:★★★★】
投稿者:iwakoさん 投稿日:2002/4/12 13:36:42
全体的な印象でいえば、かちっとひきしまったいい映画でした。
高校生の喧嘩のシーンやヤクザの暴力シーンはスピード感があって迫力ありましたね。暴力の理由もサイコパスだのというのではなく、報復というわかりやすいものでよかったです。これはもう堂々のヤクザ映画としてみたらいいでしょう。
ユ・オソンはかっこよかったです。こういうタイプも嫌いではありません。映画がもりあがっていると、いい俳優もたくさん出てきてファンとしてはとっかえひっかえ(下品な表現ですが)、楽しみも増えるってわけです。主役以外の俳優にもそれなりのおっかなそうな人が出てましたね。
高校までの喧嘩では、かばいあったり協力してきたけれど大人になるとできなくなるということなんですかね。かばわれる方もそこにおさまっていたくないという気持ちもおきるだろうし、これはジュンソクとドンスの関係。自分にないものを持っているということでお互いひかれあうジュンソクとサンテク。ジュンホはみんなの潤滑油みたい。なんだけれど、もしかすると一番心が辛いのかも。
否定されるだろうけれど、ホモセクシャルな匂いがありますね、やはり。
【評価:★★★★】
投稿者:たいしゅうさん 投稿日:2002/6/16 04:09:30
誰か教えてください。『友へ/チング』に出てくる女の子バンド「レインボー」のメンバーたちが、首にサロンパスのようなものを貼っているのが見えます。演奏会ではベースの子が、ボーカルのジンスクも、主人公と部屋で二人っきりになるときに貼っているのが見えます。あれは当時韓国の若い不良たちの間で流行ったものなのでしょうか? 気になります。
感想ですが、ただただ美しい青春を描いた前半は満点、やくざ話になってしまった後半はイマイチです。
【評価:★★★★】
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