Q: |
『バンジージャンプする』を撮るに至った経緯をお聞かせください。 |
監督: |
『春香伝』まで、長い間イム・グォンテク監督の助監督をやっていたんですけれども、その後、今回の製作会社から監督の依頼があったんです。それがきっかけです。最初にシナリオを渡された時は、タイトルが『バンジージャンプする』なのでスポーツ映画かと思い、「自分には合わない」と読まずに置いてきてしまったんです。そうしたら、この話を紹介してくれた友達から「スポーツ映画ではないから絶対一度読んでみてくれ」と言われ、読んでみたらメロ・ドラマだった。それでこれだったら出来るのではないかと思い、手がける事になりました。 |
Q: |
脚本家は女性の方でしたが、男性の理想とする女性像が見事に描かれていたように感じます。脚本には監督の意向もかなり取り入れられているのでしょうか。 |
監督: |
すべての映画に言えることだと思うのですけれども、もちろんシナリオを基本にして映画を作るわけですが、映像化する過程において、監督の色だとか意見というものは反映されるべきだと思うんですね。この映画に関しても、実際、私は1980年代に学校に通っていて、恋の経験もしました。その頃の切なさとか、懐かしさといったものがイ・ウンジュさんを通して出てきたのではないかと思います。 |
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Q: |
キム監督は10年もの長い間、助監督として経験を積んでこられたわけですが、そのことが他の同世代の監督達にはない強みになっていると思いますか? |
監督: |
それはケースバイケースだと思うんです。必ずしも時間が長いからといって特別な強みを持っているということではなくて、どういう監督のもとで一緒に仕事をしたか、どういう作品の作業に参加したか、あとは自身の態度にもよりますが、経験というものは誰かに直接教わるのではなくて、自分で習得していくものだと思うんですね。私の場合は、チョン・ジヨン監督の『ホワイト・バッジ』に始まり、イム・グォンテク監督の作品の中でも、本当に素晴らしい宝石のような作品群、『祝祭』や『娼』、それに『春香伝』といった良い作品・監督に巡り会えたので、その辺はすごくラッキーだったと思います。特にイム・グォンテク監督を通じては、どうすれば良い映画を作る事が出来るかということではなく、韓国で映画監督としてどう生きるべきか、どうやって生き残っていけばよいのか、という監督としての生き方、価値観、映画に対する心構え、姿勢などを学ぶ事が出来たので、それは、他の人には味わえない本当に宝石のような経験だったと思います。 |
Q: |
イ・ウンジュさんにお聞きします。『虹鱒』のパク・チョンウォン監督、『秘花 〜スジョンの愛〜』のホン・サンス監督と、すでに実績のある監督達との仕事のあと、初監督であるキム・デスン監督との仕事だったわけですが、やってみてどのように感じられましたか? |
イ: |
パク・チョンウォン監督やホン・サンス監督の時は、以前の作品をビデオで観ながら、「この監督はこういう色が好きなんだな」というように事前に研究をする事が出来たんですね。ですが、今回のキム監督の場合は初めての作品でしたので一緒に意見交換しながら撮影に臨みました。ホン監督やパク監督より年齢が自分に近いこともあり、以前の二作品の時より、もうちょっと繊細な感情の交感が出来たのではないかと思います。ですから不安などはありませんでした。 |
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Q: |
テヒの生まれ変わりであるヒョンビンを演じるヨ・ヒョンスさんの起用について、韓国での公開時に、賛否両論が沸き起こったようですが。 |
監督: |
たしかに評論家の中には、公然と「これは絶対にミスキャストだ!!」という酷い言い方をされる方もいました。もちろん、御覧のとおり、彼は体格も良く、背も高くて、どちらかというと美少年ではないですよね。それにもかかわらず、外見に左右されずに魂だけで本当に好きになる事が出来るか?ということを問いかけたかったんです。私としては絶対にミスキャストではない、と思います。批判をする評論家こそ、この映画を誤解しているのではないでしょうか。 |
Q: |
撮影は1980年代編から順に撮影したのでしょうか? ヨ・ヒョンスさんはイ・ウンジュさんの演技を見てから、現代の生まれ変わりを演じられたのですか? |
監督: |
撮影条件などもあり、順撮りはできませんでした。ですから、ヨ・ヒョンスさんにはその時その時で細かく指示をだし、時には怒ったりなだめたりしつつ撮りました。 |
Q: |
イ・ウンジュさんもヨ・ヒョンスさんと役について話される事はなかったのですか? |
イ: |
ほとんどなかったです。映画の中で1シーンだけ、ヨ・ヒョンスさんが私に変わるシーンがあるんですが、その時でさえ一緒には撮らなかったんです。 |
監督: |
「小指を持ち上げる」というしぐさ以外に、イ・ウンジュさんとヨ・ヒョンスさん演じるキャラクターに重なる部分が全くないので、敢えて一緒にする必要もなかったし会わせて話をさせる必要もなかったんです。もし二人を会わせて、共通したところをわざと作り上げ、そういった演技をさせていたならば、見ている客の方でもミステリアスな要素が薄くなってしまい、逆に面白みがなくなってしまったのではないかと思います。 |
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Q: |
「輪廻転生」を題材としたお話ですが、お二人はどうお考えですか? |
監督: |
自分は仏教徒ではないので、輪廻に関してはよく分からないんです。この作品では生まれ変わりというモチーフを借りただけで、本当に一番伝えたかったことは、自分の大切な人が、どのような形になっても、どんなに時間が経っても、それでも永遠に愛する事が出来るか、ということだったんです。 |
イ: |
私も仏教徒ではないのですが、撮影しながらすごく共感できました。たとえば自分が前世に好きだった配偶者であるとか、恋人など、そういう人たちが生まれ変わって今周りにいるかもしれないですよね。映画の中ではその事に主人公が気付いたわけですが、現実の世界でも、私達が気付いていないだけで、そういう可能性は充分にあると思います。 |
Q: |
キム監督、次の取材の時間になりましたので、最後に次回作の予定と日本のファンへのメッセージをお願いいたします。 |
監督: |
次回作に関しては、ちょうど今シナリオを執筆中なんです。1900年から1945年までの日韓の間に不幸な歴史があった時代を背景に、愛しあう恋人たちを主人公にした作品です。日本の皆さんへのメッセージですが、私はよくこういう話をしているんです。千人の方が映画を観れば千通りの感想がある、と。ですからそれぞれの方が自分の心の中にしまっておいた、切ない恋を思い出していただき、また、今恋をしている方達には、自分の恋に対して確信が持てるような、そういう映画になれたらいいなと思います。映画、楽しんでください。 |
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Q: |
キム監督、ありがとうございました。イ・ウンジュさんには引き続きお話を伺いたいと思います。ピアノを小さい頃から14年間もやってきて、ピアニストを目指されていたそうですが、それが『虹鱒』に出演する事により、女優をやっていこうと決心されたと伺っております。なぜピアニストの夢をあきらめてまで女優の道を選んだのですか? |
イ: |
5歳から19歳までずっとピアノのレッスンを受けていて、経済的にも結構な負担をかけ、自分への投資をしてきたわけです。けれども、高校三年生になり大学入試の学科を選ぶ時期に参加した、パク・チョンウォン監督の『虹鱒』で、映画の共同作業の雰囲気にどっぷりはまってしまい、演劇科を選択することになったんです。撮影現場の家族的な雰囲気がすごく好きなんですね。ピアノは専攻は止めたわけですけれども、たとえば『永遠の片想い』のサントラにピアノで参加したり、『秘花 〜スジョンの愛〜』でもピアノを弾くシーンが出てくるんですね。ですから一つの特技としてこれからも活かしていきたいと思います。志望を切り替えた事に関して後悔はしていません。 |
Q: |
当初はテレビ・ドラマのお仕事もされていましたが、最近は映画中心のスタンスをとっていらっしゃいますよね。映画とテレビの違いは何なのでしょうか。映画の現場の雰囲気の方がご自身に合っているとお考えですか。 |
イ: |
映画の現場はドラマに比べるともうちょっと家族的で、たとえば1シーン撮るのに一日中かかるとしても、監督や演出部の人たちとコミュニケーションを取って、自分の出した意見が映画に反映されたりする。それが自分にも勉強になるし、一つの作品をとても丁寧に撮っていく、そういう感じがすごく好きなんです。ですから、ドラマと映画を両方やっていらっしゃる方もいると思うんですけれども、私はこれからも多作は無理でもいいから、作品性があり丁寧に撮っていける、映画での共同作業をやっていきたいと思います。 |
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Q: |
若い俳優さんの中には、作品を通して自分をアピールしようと、役を超えて俳優である自分を印象付けようとする人が多いように感じる事があります。映画を観た観客に、「この映画良かったね」ではなく、「この俳優良かったね」と言ってもらいたい、言わせたい、のではないかと。しかしイ・ウンジュさんの場合は、あくまでも作品の中の役柄であろうとしていて、女優イ・ウンジュが映画から飛び出してこない。作品中を生きる人物として、その映画の中に留まっている、そんな気がするのですが。 |
イ: |
個人的には、映画という仕事、そして作品そのものに関してはすごく欲張りなタイプなんですが、だからといって映画の中で自分の存在を引き立たせようだとか、綺麗に映りたい、といった願望はあまりないんですね。普通、一つの役を貰い、3、4ヶ月かけて映画を撮るんですが、その間はずっと役になりきって、登場人物そのものになろうと、いつも心掛けているんです。ですから、映画の撮影が終わってからも、ひと月、ふた月くらい後遺症が残って役から抜け出せなくなるので、自分には多作は無理だろうと思います。昨日の舞台挨拶でペ・チャンホ監督が、「アン・ソンギさんが無色で、どんな色でものせやすい」、という話をなさっていましたが、まさに自分もそういう無色の女優になりたいんですね。どんな役を貰ってもスポンジのように吸収できるような女優になりたい。そう思っています。 |
Q: |
韓国映画界では、20代の女優にしかなかなか良い役がつかなくて、30代で結婚して引退、というケースが多いように見えるのですが。イ・ウンジュさんは、今後どのように韓国映画界の中で生きていこうとお考えですか。 |
イ: |
本当にそうですね。ハリウッドでは、メリル・ストリープとかジーナ・デイビス、男優だとクリント・イーストウッドなど、年配の方でも味のある演技をされる方が多いですけれども、韓国では、20代にたくさんの役をやって、その後影が薄くなっていくという、特に女優の場合はそうなんですね。私はそれを破ってみたい、という願望があるんです。一気にたくさんの作品をやりすぎてしまうと、自分が消耗してしまう気がするので、少ない作品数でも、少しずつ少しずつ自分が変化していく姿を、お客さん、ファンの皆さんが、楽しみに待っていて下さるような、そういった女優を目指していきたいです。でも昔に比べれば、韓国の女優さんで、30代をこえても活躍している方が数人は出てきているんですよ。そういう女優に私もなりたいですね。 |
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Q: |
イ・ウンジュさんの作品選びの目の確かさを見ていると、いずれはご自身で製作もしてみたいというお気持ちもあるのではないか、と思うのですが。 |
イ: |
それは本当に遠い先の話です。俳優という職業は魅力的な職業ですし、また俳優が演技をする場を提供してくれる、製作やスタッフの仕事も、大変魅力的だと思うので、ゆくゆくは自分もそういう立場に立ってみたいなとは思っています。けれども、まだまだ実力・能力が足りないので、これからですね、これから(笑)。 |
Q: |
最後に日本のファンへメッセージをお願いします。 |
イ: |
個人的に日本文化がすごく好きなんです。ですから、日本の皆さんにもイ・ウンジュという韓国の女優を覚えていただければ嬉しいです。それから、日本映画もとても好きなんですけれども、日本の皆さんも韓国映画にこれからもずっと関心を寄せてくだされば、と思います。 |
Q: |
ありがとうございました。 |
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