韓国で一部に熱狂的なマニアがいるキム・ギドク監督第4作。妖艶な女と水と釣り池が織りなす耽美的でアーティスティックな映像、そして哲学的ともいえるラスト・シーンが秀逸。言葉ではなく、セックスで自分と他人の心の傷を癒す女性と、逃避行を続ける男の猟奇的な愛を描く。台詞が極端に少ない作品だが、中でも女性主人公のソ・ジョンは一言も発せず、目と表情だけであらゆる感情表現をしているのがスゴイ!
人里離れたところにある釣り池。神秘的な雰囲気の漂うこの釣り池の女主人ヒジン(ソ・ジョン)は、一言も言葉を発することなく、昼は釣り人に食べ物を売り、夜は彼らに体を売って生活している。ある日、浮気をした恋人を殺して逃げてきた元警察官のヒョンシク(キム・ユソク)が釣り池にやってくる。心に傷を持ったヒョンシクが拳銃で自殺しようとしているのに気づいたヒジンは、それを思いとどまらせ、二人は互いにひかれ合うようになる。やがて、セックスを通じて一つになる男と女。しかし、ヒジンの情念ともいえる彼への愛情は、新たなる悲劇を生み出してしまう。
釣り針を飲み込んで自殺しようとする場面、女性器に釣り針を入れるシーンなど衝撃的映像がお目見えする。性器に関する描写という意味では、同時期に韓国で公開されていた大島渚監督の『愛のコリーダ』と比較され話題となった。また、過激な女性器に関する描写がフェミニストの攻撃対象となった。
この映画で挑発的なセクシーさを披露しているソ・ジョンは、インディペンデント映画の『脱−純情地帯』、『涙』(『ラクリマ』という題名で第10回(2001)東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映)、『2 1 セックス』、『アクア・レクイエム』(第21回(1999)ぴあフィルムフェスティバルで上映)などの他、長編劇映画では『ペパーミント・キャンディー』にも出演しており、個性派女優として注目を浴びている人物。キム・ユソクは『カンウォンドの恋』に警官役で出演していた俳優。彼は数多くの演劇に主演しているが、ロシアのシェーフキン国立大学で演技教育を受け、国際公認演技者資格証明を取得している学究派でもある。キム・ギドク作品の『鰐 〜ワニ〜』と『ワイルド・アニマル』に主演したチョ・ジェヒョンは、この作品ではヒョンシクに好意を寄せる娼婦(パク・ソンヒ)を連れ戻しに来る売春斡旋の男役で「義理出演」している。また、同監督の『悪い女 青い門』や、『カル』に出演していたチャン・ハンソンも、女性と釣り池にやってくる中年男を演じている。
製作者はイ・ウン。脚本と美術も監督のキム・ギドクが担当。インディペンデント映画界の雄キム・ギドクが、大企業のCJエンターテインメントをスポンサーにし、大手プロダクションであるミョン・フィルムで製作した作品だが、監督や俳優・スタッフは成功報酬方式で契約しており、それにより人件費の削減を達成しているため総製作費はたったの4億3千万ウォン(同時期の平均的な韓国映画の製作費は10億ウォンを越える)。こういった製作方式により、監督・俳優・スタッフは利益が出た場合のインセンティブが期待でき、製作配給会社は興行性に乏しいと思われる映画のリスクを軽減することができる訳で、低予算映画の可能性を示す作品としても注目された。
ポスターやサントラのジャケット・デザインでソ・ジョンのオール・ヌードが使用され、話題となった。また、この映画の公開に先立って「キム・ギドク映画祭」がソウルで開催され、監督の全作品が上映された。
第57回(2000)ヴェネチア国際映画祭コンペ部門進出作品。韓国映画がヴェネチア国際映画祭の本選に進出したのは、『シバジ』、『LIES/嘘』に続いて3作目。ヴェネチアでは、試写会で観客2名が衝撃的なシーンを見て失神し話題となった。この映画祭でアジア映画賞(NETPAC賞)スペシャル・メンションを受賞。また、第6回(2001)モスクワ映画祭(「愛」をテーマにした作品だけを上映する映画祭で、一般に知られている「モスクワ国際映画祭」とは別の映画祭)では「最もショッキングはラブ・ストーリー」に授与される審査委員特別賞を、第21回(2001)Fantasporto国際映画祭では公式コンペ部門に招待され、主演女優賞(ソ・ジョン)と審査委員特別賞(キム・ギドク監督)を、第19回(2001)ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭ではグランブリにあたるGolden Ravenを受賞している。
その他、2001年サンダンス映画祭ワールド・シネマ部門、第25回(2000)トロント国際映画祭「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」部門、サン・セバスチャン国際映画祭コンペ部門、シッチェス国際カタルーニャ映画祭、第30回(2001)ロッテルダム国際映画祭、第25回(2001)香港国際映画祭、第1回(2000)全州国際映画祭「韓国映画長編」部門、第4回(2000)富川国際ファンタスティック映画祭メイド・イン・コリア部門、第36回(2001)Karlovy Vary国際映画祭回顧展「ニュー・コリアン・シネマ」、第20回(2002)ベルギー・シネマノボ映画祭「カルト! 」部門に招待されている。
国内では、第37回(2001)百想芸術大賞新人女子演技賞(ソ・ジョン)、第24回(2001)黄金撮影賞新人女優賞(ソ・ジョン)・新人撮影賞(ファン・ソシク)を受賞している。
初版:2000/5/8
最新版:2001/8/24
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