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魚と寝る女


題名
英題
原題
ハングル
魚と寝る女
The Isle

製作年 2000
時間 90
製作
提供
ミョン・フィルム
CJエンターテインメント
監督 キム・ギドク
出演 ソ・ジョン
キム・ユソク
パク・ソンヒ
(→ ソ・ウォン)
チョ・ジェヒョン
チャン・ハンソン
イ・ソンジン
ソン・ミンソク
チョン・ソヌァ
日本版
Video
DVD
字幕版Video
吹替版Video
DVD

 韓国で一部に熱狂的なマニアがいるキム・ギドク監督第4作。妖艶な女と水と釣り池が織りなす耽美的でアーティスティックな映像、そして哲学的ともいえるラスト・シーンが秀逸。言葉ではなく、セックスで自分と他人の心の傷を癒す女性と、逃避行を続ける男の猟奇的な愛を描く。台詞が極端に少ない作品だが、中でも女性主人公のソ・ジョンは一言も発せず、目と表情だけであらゆる感情表現をしているのがスゴイ!

 人里離れたところにある釣り池。神秘的な雰囲気の漂うこの釣り池の女主人ヒジン(ソ・ジョン)は、一言も言葉を発することなく、昼は釣り人に食べ物を売り、夜は彼らに体を売って生活している。ある日、浮気をした恋人を殺して逃げてきた元警察官のヒョンシク(キム・ユソク)が釣り池にやってくる。心に傷を持ったヒョンシクが拳銃で自殺しようとしているのに気づいたヒジンは、それを思いとどまらせ、二人は互いにひかれ合うようになる。やがて、セックスを通じて一つになる男と女。しかし、ヒジンの情念ともいえる彼への愛情は、新たなる悲劇を生み出してしまう。

 釣り針を飲み込んで自殺しようとする場面、女性器に釣り針を入れるシーンなど衝撃的映像がお目見えする。性器に関する描写という意味では、同時期に韓国で公開されていた大島渚監督の『愛のコリーダ』と比較され話題となった。また、過激な女性器に関する描写がフェミニストの攻撃対象となった。

 この映画で挑発的なセクシーさを披露しているソ・ジョンは、インディペンデント映画の『脱−純情地帯』、『涙』(『ラクリマ』という題名で第10回(2001)東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映)、『2 1 セックス』、『アクア・レクイエム』(第21回(1999)ぴあフィルムフェスティバルで上映)などの他、長編劇映画では『ペパーミント・キャンディー』にも出演しており、個性派女優として注目を浴びている人物。キム・ユソクは『カンウォンドの恋』に警官役で出演していた俳優。彼は数多くの演劇に主演しているが、ロシアのシェーフキン国立大学で演技教育を受け、国際公認演技者資格証明を取得している学究派でもある。キム・ギドク作品の『鰐 〜ワニ〜』『ワイルド・アニマル』に主演したチョ・ジェヒョンは、この作品ではヒョンシクに好意を寄せる娼婦(パク・ソンヒ)を連れ戻しに来る売春斡旋の男役で「義理出演」している。また、同監督の『悪い女 青い門』や、『カル』に出演していたチャン・ハンソンも、女性と釣り池にやってくる中年男を演じている。

 製作者はイ・ウン。脚本と美術も監督のキム・ギドクが担当。インディペンデント映画界の雄キム・ギドクが、大企業のCJエンターテインメントをスポンサーにし、大手プロダクションであるミョン・フィルムで製作した作品だが、監督や俳優・スタッフは成功報酬方式で契約しており、それにより人件費の削減を達成しているため総製作費はたったの4億3千万ウォン(同時期の平均的な韓国映画の製作費は10億ウォンを越える)。こういった製作方式により、監督・俳優・スタッフは利益が出た場合のインセンティブが期待でき、製作配給会社は興行性に乏しいと思われる映画のリスクを軽減することができる訳で、低予算映画の可能性を示す作品としても注目された。

 ポスターやサントラのジャケット・デザインでソ・ジョンのオール・ヌードが使用され、話題となった。また、この映画の公開に先立って「キム・ギドク映画祭」がソウルで開催され、監督の全作品が上映された。

 第57回(2000)ヴェネチア国際映画祭コンペ部門進出作品。韓国映画がヴェネチア国際映画祭の本選に進出したのは、『シバジ』『LIES/嘘』に続いて3作目。ヴェネチアでは、試写会で観客2名が衝撃的なシーンを見て失神し話題となった。この映画祭でアジア映画賞(NETPAC賞)スペシャル・メンションを受賞。また、第6回(2001)モスクワ映画祭(「愛」をテーマにした作品だけを上映する映画祭で、一般に知られている「モスクワ国際映画祭」とは別の映画祭)では「最もショッキングはラブ・ストーリー」に授与される審査委員特別賞を、第21回(2001)Fantasporto国際映画祭では公式コンペ部門に招待され、主演女優賞(ソ・ジョン)と審査委員特別賞(キム・ギドク監督)を、第19回(2001)ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭ではグランブリにあたるGolden Ravenを受賞している。

 その他、2001年サンダンス映画祭ワールド・シネマ部門、第25回(2000)トロント国際映画祭「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」部門、サン・セバスチャン国際映画祭コンペ部門、シッチェス国際カタルーニャ映画祭、第30回(2001)ロッテルダム国際映画祭、第25回(2001)香港国際映画祭、第1回(2000)全州国際映画祭「韓国映画長編」部門、第4回(2000)富川国際ファンタスティック映画祭メイド・イン・コリア部門、第36回(2001)Karlovy Vary国際映画祭回顧展「ニュー・コリアン・シネマ」、第20回(2002)ベルギー・シネマノボ映画祭「カルト! 」部門に招待されている。

 国内では、第37回(2001)百想芸術大賞新人女子演技賞(ソ・ジョン)、第24回(2001)黄金撮影賞新人女優賞(ソ・ジョン)・新人撮影賞(ファン・ソシク)を受賞している。

初版:2000/5/8
最新版:2001/8/24


■ コラム

 「レビュー&リポート」に、『魚と寝る女』のプロモーションで来日したキム・ギドク監督の通訳をつとめた全雪鈴さんの『異端児と呼ばれる男キム・ギドク、その素顔』が登録されています。

 「レビュー&リポート」に、『魚と寝る女』のプロモーションで来日したソ・ジョンの通訳をつとめた尹春江さんの『女優ソ・ジョン −通訳から見た彼女−』が登録されています。



投稿者:カツヲうどんさん 投稿日:2001/9/8 17:44:09

 東京にて鑑賞。

 この作品を観て、清州の山奥の湖で食べた不味い鮒の煮付けの味を思い出した(笑)。そんな湖の匂いが漂う映画である。

 『受取人不明』に比べると舞台が限定された空間であるためか、テンポが鈍く感じられたが、構図の抜群さ、ロケーション撮影の巧みさ、自然美のとらえ方の上手さには、相変わらず感心。ほとんどのカットがフィックス撮影であり、手持ちや移動によるカットが少ないのは、構図にこだわる監督の本能的行動のように思えた。

 映画の物語は、シュールな作風とあいまって、勅使河原宏監督の『砂の女』を連想させるが、映画を見終わると、結局キム・ギドクにとって物語とは二次的、三次的な関心事でしかなく、そういったことを第三者が訥々と論じ合うことこそ、監督の「意地の悪い罠」に引っ掛かってしまうことなのではないだろうか? という疑問に捕われてしまった。

 キム・ギドクが国際的に知られるようになったきっかけであるこの作品。スキャンダラスな残酷描写や映像美ばかりが取り上げられる傾向にあるが、私は彼の独特なニヒリスト的で残酷な黒いユーモアに注目すべきだと思う。

 釣り針を飲み込んで自殺を図る一連のエピソードは、まさにキム・ギドク式ブラック・ユーモアの極致であり、あそこで怯えたり、反感を感じてムキになることこそ、監督の策略にはまってしまっているのだ、と言い切ってしまうのは果たして私の考えすぎだろうか?

 この作品も『受取人不明』同様、直感と感情を用いて挑む、監督と観客のゲームなのである。

 音楽の良さも光る。

【評価:★★★】



投稿者:SUMさん 投稿日:2002/1/4 19:57:03

 見ているだけでイタイ。えげつない。恐ろしい。女は怖い。魚がかわいそう。

 『愛のコリーダ』にこそ負けているが、キム・ギドクは予算上か機材上か、徹底した映像美でこの作品から、インディーズで光る作家から世界レベルの作家に仲間入りしたような気がする。

【評価:★★★★】



投稿者:たびこさん 投稿日:2004/5/16 21:05:54

 太宰治の『魚服記』を思い出した。

 炭焼きの父親と二人暮しの少女が、滝壷に落ちて亡くなった青年を、自身の傍に留まる存在として強く意識するようになる。この作品では「水」は再生の象徴でもあるのだが、『魚と寝る女』ではどうなのだろうか。主人公はほとんど言葉を発することはない。監督にとって言葉とはどういうものなのか。ラストシーンの意味は・・・?

 様々な疑問が湧くが、妙にのっぺりとした水の映像は中途半端な解釈を拒否しているようにも見える。掴めそうで掴めない、この不思議な感覚はしばらく頭から離れそうにない。

【評価:★★★】


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