受取人不明

　1970年代、駐韓米軍部隊が駐屯しているある村に、チャングク（ヤン・ドングン）、ジフム（キム・ヨンミン）、ウノク（パン・ミンジョン）という三人の若者がいた。チャングクは、西洋人相手の娼婦をしていた母親（パン・ウンジン）と米国黒人兵の間に生まれた混血児。彼の母親は、村人とうまく付き合うことが出来ず、チャングクと一緒に、村の入り口にある真っ赤なバスで暮らしている。そして、アメリカへ帰った夫へ20年近く手紙を送り続けているが、その手紙は「受取人不明」で返ってくるばかり。そんなチャングクの母親を理解し、愛している犬商人（チョ・ジェヒョン）、そして、朝鮮戦争で人民軍を三人殺して負傷したのが自慢のジフムの父（ミョン・ゲナム）。皆、朝鮮戦争の傷跡を背負って生きている人々だ。
　チャングクは、「混血児」という言葉に怒り、村人に対して英語でしゃべりかける自分の母親を足蹴にする荒っぽい性格だが、なぜかジフムとだけは仲が良い。そのジフムは、ウノク（パン・ミンジョン）が好きなのだが、幼い頃に片目を失ってしまった彼女は、ジフムの純粋な愛を受け入れることが出来ないでいた。そんなウノクの前に、ある日、目の手術をさせてあげるという米軍兵ジェームズ（ミッチー・マローム）が現れる。

　これまでのキム・ギドク作品は、抽象的な空間を舞台としたイメージ先行型の映画が多かったが、この『受取人不明』は韓国現代史の暗部にメスを入れているのが特長。残酷でカルト的要素が強かったキム・ギドク作品にあって、この作品は評論家からも支持を受けており、これまで持たれていた「キム・ギドク作品は、イメージは強烈だが、ストーリーが弱い」という評も払拭された。なお、監督の言によれば「映画の80％は実話で、チャングクは27歳で自殺した混血児の友人を、ウノクは片目が不自由な友人をモデルにした」とのこと。

　この映画の韓国公開に前後してソウルでは「キム・ギドク映画祭」が開催された。また、2001年6月の韓国公開時からヴェネチア国際映画祭への招待も噂され、評論家筋からも「キム・ギドクの代表作になるだろう」と評されるなど上々の評判だったが、他のキム・ギドク作品と同じく、興行成績は散々な結果に終わった。

　『チャン』，『ホワイト・バレンタイン』，『ダンスダンス』，『海辺へ行く』のヤン・ドングンが娼婦と米軍兵の間に生まれた混血児チャングク役を演じる。彼は Drunken Tiger を師と仰ぐラッパーでもあり、2001年4月に Druken Tiger が来日公演したときには同じステージに立っている。幼い頃、事故で片目を失明してしまったウノク役は8つの映画社が共同で行った「チャレンジ2000−史上最大のオーディション」で選ばれた新鋭パン・ミンジョンが、いじめにあうジフム役は同じオーディションによりキャスティングされたキム・ヨンミンが演じる。大人たちを演じるのは、演技力に定評のある中堅俳優、パン・ウンジン、チョ・ジェヒョン、ミョン・ゲナムら。

　『インシャラ』，『悪い女　青い門』，『Interview』のプロデューサー、イ・スンジェが独立して作ったLJフィルムが製作しており、製作費は10億ウォン。脚本と美術も監督のキム・ギドクが兼ねる。撮影はソ・ジョンミン。照明はシン・ジュナ。音楽はパク・ホジュン。セットはオ・サンマン。特殊メイクは『九老アリラン』に出演していた元女優ユン・エリョン。

　第58回(2001)ヴェネチア国際映画祭「ヴェネチア58」コンペ部門（中堅監督及び巨匠が対象のコンペ）招待作品。これで、キム・ギドクは『魚と寝る女』に続いて二年連続でヴェネチア国際映画祭のコンペ部門に招待されたことになる。第26回(2001)トロント国際映画祭「コンテンポラリー・ワールド・シネマ」部門、第34回(2001)シッチェス国際映画祭「Gran Angular」部門、第37回(2001)シカゴ国際映画祭、第6回(2001)釜山国際映画祭「韓国映画パノラマ」部門、第2回TOKYO FILMeX 2001コンペティション部門、第31回(2002)ロッテルダム国際映画祭、第4回(2002)ドーヴィル・アジア映画祭パノラマ部門、第20回(2002)ベルギー・シネマノボ映画祭コンペ部門、第17回(2002)マル・デル・プラタ国際映画祭"Point of View"部門、第15回(2002)シンガポール国際映画祭、第26回(2002)香港国際映画祭招待作品。

　第2回(2001)釜山映画評論家協会賞助演男優賞（チョ・ジェヒョン）、第21回(2001)映画評論家協会賞脚本賞（キム・ギドク）・新人男優賞（ヤン・ドングン）、第39回(2002)大鐘賞助演女優賞（パン・ウンジン）受賞作品。

　韓流シネマ・フィステバル2005上映作品。

初版：2001/6/16
最新版：2001/12/2