公共の敵
題名 英題 ハングル |
公共の敵 Public Enemy 공공의 적 |
製作年 |
2002 |
時間 |
138 135(釜山映画祭) |
投資・配給 |
シネマ・サービス |
監督 |
カン・ウソク |
出演 |
ソル・ギョング イ・ソンジェ カン・シニル キム・ジョンハク ト・ヨング アン・ネサン イ・ムンシク ユ・ヘジン ソン・ジル イ・ジョンホン ユン・ムンシク キ・ジュボン ヤン・ウニョン |
日本版 Video DVD |
DVD |
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アクション・コメディ映画。刑事と連続殺人犯の対決を通して、善と悪の軋轢から生まれる人間ドラマを描く。
元ボクシング選手の極悪刑事カン・チョルジュン(ソル・ギョング)は、算数もろくすっぽできない無学の徒。直感的に行動するのが玉に傷だが、悪い奴はとことん追いかけてその鉄拳で正義の鉄槌を下す。チョ・ギュファンはファンド・マネージャーを生業とするエリートだが、連続殺人事件の犯人というもう一つの顔を持つ。ある日、チョルジュンは金目当てで自らの両親を殺したギュファンが、ささいな理由で一般市民をも殺害していることを知る。法も正義も通用しない社会にあっては、刑事の暴力だけが頼りなのか?
ソル・ギョングはボクシング選手出身の役回りを演じるため、ボクシングの特訓を受け10kgほどウェイト・アップ。イ・ソンジェもこの映画のために自宅近くのスポーツ・センターに通ってウェイト・トレーニングを行い、筋骨隆々の体を作り上げた。カン・シニルら演劇出身俳優が演じる助演陣も好評。
製作・監督はカン・ウソク。最近では、すっかり製作者としての活躍が板についたカン・ウソクが四年ぶりに監督として現場復帰する。Koo & フィルムの代表ク・ボナンがカン・ウソクのために原案を構成し、それを四名のシナリオ作家(ペク・スンジェ、チョン・ユンソプ、キム・ヒョンジョン、チェ・ユンソク)が修正した。撮影はキム・ソンボク。編集はコ・イムピョ。音楽はチョ・ヨンウクとイ・ウジュン。武術監督はチョン・ドゥホン。特殊効果はチョン・ドアン。美術はオ・サンマン。
純製作費は23億ウォンだが、宣伝費に17億ウォンと通常の映画一本作れる金額を投入する。
コメディの中に社会批判を埋め込むカン・ウソク一流の手法と、ソル・ギョング、イ・ソンジェのリアルな演技が話題。2001年に大ブームとなったアクション・コメディ映画が作品性を捨てて商業性のみを追求したプログラム・ピクチャー型の作品群だったのに対し、『公共の敵』は娯楽性に加えて作品性・社会性をも追及しているのが異なる。
試写会では「カン監督作品の中では『トゥー・カップス』以降、最も完成度が高く面白いジャンル映画」、「ソル・ギョングの演技を見ているだけで時間が経つのを忘れる」と好評。現役刑事とその家族を招待しての試写会も開かれた。
第3回全州国際映画祭2002「韓国映画の流れ」部門、第4回(2002)Udine Far East Film Festival、第35回(2002)シッチェス国際映画祭「オリエント・エクスプレス」部門、第7回(2002)釜山国際映画祭韓国映画パノマラ部門、第29回(2003)シアトル国際映画祭韓国映画特別展、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2005韓国特集「日韓友情年コリアンシネマスペシャル」招待作品。第16回福岡アジア映画祭2002オープニング招待作品。第16回東京国際映画祭協賛企画コリアン・シネマ・ウィーク2003、“コリア映画祭”The Korean Film Festival in EXPO 2005上映作品。
第38回(2002)百想芸術大賞大賞(ソル・ギョング)、第39回(2002)大鐘賞男優主演賞(ソル・ギョング)、第10回(2002)春史羅雲奎映画芸術祭男子助演賞(カン・シニル)、第26回(2003)黄金撮影賞人気男優賞(ソル・ギョング)、第23回(2002)青龍賞主演男優賞(ソル・ギョング)受賞作品。
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投稿者:カツヲうどんさん 投稿日:2002/3/19 22:46:24
改めてカン・ウソクの円熟した演出手腕を証明した、安心して観られる作品。
古き良き韓国映画の伝統的礎(いしずえ)の上に、以前だったら描き難かったであろう、韓国の社会的タブーや問題点(両親殺し、警察官のモラル欠如、サイコパスなど)を絡ませて、韓国の広い層に受け入れられる映画になっている。
カン・ウソクの演出スタイルは、日本の周防正行監督と共通する頭の良さを感じさせ、観客に対して見所を上手に出し惜しみしてゆく。それゆえ、最近の韓国映画のスタイルに慣れた観客には物足りないかもしれないが、逆に意欲の空回りで実力が伴わない作品がやたら増殖中の韓国映画群の中では、その職人的手腕は地味だが光っている。
一見、コメディの形式をとってはいるものの、実はかなり真面目な社会派ドラマであり、警察官として生きることの光と闇、本音と建て前をテーマのひとつとして、前面に押し出して描いている。
映画は話の途中から、よくある「主人公 vs. 犯人」のドラマになってしまうのが残念だが、これは一般の観客に向けた、カン・ウソク一流のプロデューサーとしての判断であると解釈したい。
カン・ウソクには、今後もコンスタントに作品を撮ってもらいたいと思う。昔からの韓国映画ファンにもお勧めできる佳作である。
主演のソル・ギョングは、大幅に体重を増やし、まるで赤井英和と風間杜夫を足して二で割ったような風体になっていて驚かされる。その、あまりの汚さと太り具合に、最初は誰だかわからなかった程だ。
お約束の絶叫演技は、ここでも披露するが、どの役でも絶対に熱演過剰にならず、自己制御の効いた彼の芝居は、すでにベテランの風格を感じさせる。また、今回は彼の出演作で一番、下品かつ粗野で三枚目的な役柄といえるもので、ソル・ギョングの別の側面を観ることが出来て興味深い。
イ・ソンジェ演じるインテリの皮を被った殺人鬼は、日本人にも等身大の恐怖として、納得のゆくものとして描かれており、かつ、このキャラクターは韓国人そのものが大きく変わり始めている象徴のようでもある。
ただ、イ・ソンジェ自身は好演ではあるものの、観終わった後のイメージが「他の作品群と皆同じ」という印象が強く、俳優として越えなければならない壁に突き当たっているようにも見えた。
【評価:★★★】
投稿者:大西康雄さん 投稿日:2002/6/7 10:46:17
娯楽性の中に社会的問題提起を盛り込んできたカン・ウソク監督の最新作。2002年正月の話題作が早くもDVDで登場した。
本作を見ると非常に折り目正しい映画(決して楽しめないという意味ではない)という印象を受ける。これは一つは韓国の社会的文脈を考えながらアクション・コメディとしてのポイントを徹底的に計算し尽くしているためである。もう一つは『幸せは成績順じゃないでしょう』(1989)、『生寡婦慰謝料請求訴訟』(1998)を見る限り、カン・ウソク監督の作品はどちらかといえば既存の社会のあり方に批判的な「進歩主義」的映画との印象を持っていたのだが、本作は韓国社会の伝統的な倫理観に訴えるような作品に仕上がっているからである。
主役のカン刑事(ソル・ギョング)は元ボクサーという腕力を活かして地元のヤクザ、チンピラににらみを利かし金を巻き上げたり、麻薬取引に手を出したりと素行のよろしくない問題刑事。市民のために働こうという気はさらさらない。さすがに内部査察の手も伸びてきた。
一方、チョ・ギュファン(イ・ソンジェ)は辣腕投資トレーダー。一見家庭的にも社会的にも非の打ち所のない人物だが、実は突然切れるととんでもない人物。だがその裏面は家族も含め誰も知らない。このギュファンの投資トラブルをめぐる両親殺しの捜査をきっかけに、社会正義に目覚めたカン刑事が、その直情径行な行動が周囲の顰蹙を買いながらも、ギュファンを追い詰めていく。
実在の親殺し事件を契機に作られたという『ヒューマニスト』(2001)が実際には親殺しを描けなかったのにもかかわらず、本作ではそのタブーを破っているのは注目に値する。ひょっとすると韓国映画史上初めて親殺しを描いた作品か? もちろん、これは徹底的に極悪非道な罪悪として描かれ、さすがのカン刑事も倫理に目覚める契機として位置付けられる。
親殺しの次にギュファンが些細な動機で殺すのは、いかにも社会的地位と人望を備えていそうな50代くらいの好男子で、おそらく韓国の観客はますます「ギュファン許せん!」という気分が高められる一方、カン刑事の破天荒な行動に肩入れしたくなるところだろう。このあたりのドラマの盛り上げ方が非常にうまい。
と同時に、韓国社会の伝統的な倫理観・規範意識に非常に忠実なドラマである。親や年長者に対する敬意のあり方、職階上の上下関係と年齢上の上下関係の交錯における態度のとり方、下の者が正義を得て上の者を糾す描写などが、あたかも韓国社会に関する教科書を読んでいるかのようだ(深読みすれば、敢えて教科書的に描くことでさらに深い笑いを狙っているのか!?)。長澤雅彦監督の『ソウル』(2002)ではチェ・ミンスに無闇に「韓国は礼の国だ」と叫ばせていたが、本作を見るほうがはるかに韓国理解につながる。
しかし、カン・ウソク監督が伝統的な倫理観への立ち帰りを呼びかけるような本作を作ったことには、いろいろコメントしたくなる。
一つは「韓国社会が日本社会の後を追っていくのでは?」という憂慮があると思われる。映画の中で、最近の日本の中学生がスイッチブレード型ナイフをよく持ち歩いている、という話が出てくるように、カン・ウソク監督は日本社会の状況をよく見ている節がある。ギュファン的人物は、韓国でリアルになっているというよりも、おそらく教室でキレた中学生による教師刺殺事件といった日本のケースから人物造形を行っているのではないだろうか? 実際、殺人はオーバーにしても、おとなしいと思っていた人がいきなり切れたり、酒を飲ませたら180度人格が変わったという経験は日本人なら誰しも持っていよう。
また、今まで告発する側だったカン・ウソク監督も、いまや社会的立場も成し、守る側に回ったのかという見方もできよう。
ところで、本作を日本へ持って来たらどうなるだろうか。ソル・ギョングらの好演というプラス要素はあるにしても、ヒットは苦しいと思う。というのは無軌道刑事の活躍というパターンは、刑事ドラマとしては今やいささか古典的である。それを韓国観客のツボを押える形に仕上げたのがカン・ウソク監督の上手さだが、その部分が、尊属殺人罪ももはや違憲とされ刑法から削除された日本の観客にとっては頭の上では理解はできるだろうが・・・ 従ってセールスポイントの設定が難しい。しかし生きた韓国社会理解の好教材であることは間違いないので、ビデオ・リリースぐらいは期待したいところだ。
ちなみにDVDのデータは下記のとおり。
2002年5月、Cinema Service発行。BITWIN販売。カタログ番号:なし。2枚組(本編収録盤+特典映像盤、以下本編盤データ)、収録フォーマット:片面2層、スクイーズ16:9、シネマスコープ(1:2.35)サイズ。音声:韓国語、ドルビー5.1チャンネル。字幕:英語/韓国語。収録時間:本編138分。リージョンコード3。メーカー希望価格:25,000ウォン。
【評価:★★★★】
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