韓国・タイ・香港の有名三監督による共同製作オムニバス・ミステリー映画。豪華な監督・スタッフ・俳優は、さながらアジア映画のドリーム・チームといった趣。
アジア三ヶ国の資本と人材、ノウハウを結集して製作された本格的な汎アジア合作映画。『金枝玉葉〜君さえいれば』、『ラヴソング』のピーター・チャン監督が、新しい汎アジア映画のために人的資源と財源の組織化をめざして設立したアプローズ・ピクチャーズが企画。韓国からは『クワイエット・ファミリー』、『反則王』のキム・ジウン監督が、タイからは『ナンナーク』、『ジャンダラ』のノンスィー・ニミブット監督が、香港からはピーター・チャンが参加。三ヶ国のプロデューサーが共同で企画し、製作・投資・配給は各国で独自に行うが、韓国はポスターとホームページ製作を、タイはポスプロ作業を、香港は海外セールスとプロモーションを担当するなど、各国が得意とする分野は分業制にしているのが特徴。
第一話『メモリーズ(Memories)』は、韓国の映画社春が製作し、監督・脚本はキム・ジウン。プロデューサーはオ・ジョンワン。撮影はホン・ギョンピョ。美術はチョン・グホ。音楽は『マリといた夏』のイ・ビョンウ。
ごくごく平凡な夫であるソンミン(チョン・ボソク)は、新都市のアパートに妻(キム・ヘス)と娘と一緒に引っ越してくる。しかし突然妻が蒸発。一人残されたソンミンは彼女を探し始めるが、アパートでは次々と不思議な事件が起こる。一方、ソンミンの妻は、とある路上で目覚める。記憶を失ってしまった彼女にとって、手がかりは財布の中のクリーニング屋の領収書だけ。彼女は我が家を探しながら、少しずつ記憶を取り戻し始める。
現代韓国の象徴でもある新都市の描写が秀逸。また明るく元気なキャラクターのキム・ヘスが、初のホラー映画で既存のイメージとはまったく異なる演技を披露して話題に。チョン・ボソクは『秘花 〜スジョンの愛〜』で主演していた男優。
ノンスィー・ニミブットの手による第二話『ホイール(Wheel)』は、呪われた操り人形によって引き起こされる連続死を通じて、人間のとどまるところを知らぬ欲を描いた作品。タイで口伝されている伝説をもとにしており、映画に出てくる人形劇団は今でも存在する。タイの伝統人形劇の技術は親から子へと伝授されるものだったが、他人にそれを盗まれないように持ち主が人形に呪いをかけることがあったという。
タイの伝統仮面劇をするトンと、操り人形劇の名手タオ。二人は親戚だが、トンは貧しくタオは裕福だった。そして密かにタオをうらやむトン。病気にかかったタオは、人形の呪いを恐れて、妻と息子に人形を捨てさせようとするが、妻と息子は溺死。あくる日には、火事でタオも死んでしまう。タオの人形を盗んだトンに対して、タオの高弟だったカン(スウィニット・パンジャマワット)は「人形の呪い」を警告する。
ピーター・チャンの第三話『ゴーイング・ホーム(Going Home)』は、ミステリー・メロ。撮影はクリストファー・ドイル。音楽はチョ・ソンウ。
古ぼけたアパートに、刑事のウェイ(エリック・ツァン)と息子が引っ越してくる。ウェイの息子は、ある日、真っ赤な服の少女と出会い、やがて行方不明に・・・ 息子を探すウェイは、赤い服の少女の家を訪れるが、そこには漢方医フェイ(レオン・ライ)がいた。
ピーター・チャンが『八月のクリスマス』から大きな衝撃を受けたというのはよく知られた話だが、『ゴーイング・ホーム』に出てくる写真館は『八月のクリスマス』のそれを想起させる。
三作品とも幽霊・怪談物だが、そこには三ヶ国の文化や情緒、三人の監督の個性による違いが明確に現れていて面白い。
本作を企画したアプローズ・ピクチャーズ(香港)は、『春の日は過ぎゆく』に出資しているほか、香港映画『十二夜』、ノンスィー・ニミブットの『ジャンダラ』、オキサイド・パン&ダニー・パン兄弟の『The Eyes』を製作するなど、アジアをまたにかけた活動をしている会社。
本作は、アジア三ヶ国の映画人が力をあわせて、市場を広げることを狙いとして製作された。韓国・タイ・香港は、いずれも映画産業が盛んで、量的にも更なる成長をしたいが、自国市場が狭く成長には限界があるという共通点がある。三ヶ国オムニバスで製作し、自国の有名監督作品目当てで映画館に来た観客に、他の二国の作品も見てもらい、各々の国の映画に慣れ親しんでもらおうという狙いがある。ちなみに、韓国側プロデューサーであるオ・ジョンワンの言によれば、アジア映画の中で日本と台湾をメンバーに入れなかったのは、台湾に関しては自国映画市場が沈滞しており、日本には作品性と興行性を兼ね備えたニューウェーブ監督が見当たらなかったためとか。
まず2002年7月にタイで封切りし、同国映画史上興行三位となる大成功をおさめ、8月15日には香港で、8月23日には韓国で公開された。タイと香港では成功を収めた本作だが、韓国での興行は残念ながら振るわなかった。
第15回(2002)東京国際映画祭アジアの風部門、第21回(2002)バンクーバー国際映画祭龍虎賞(Dragons and Tigers)部門、第46回(2002)ロンドン映画祭、第7回(2002)釜山国際映画祭韓国映画パノマラ部門、2003年ブリュッセル国際ファンタジー映画祭、第7回みちのく国際ミステリー映画祭2003 in 盛岡招待作品。
第39回(2002)金馬獎(台湾)最優秀主演男優賞(レオン・ライ)・最優秀撮影賞(クリストファー・ドイル)、2003年香港金像賞最優秀新人賞(ユージニア・ユアン)受賞作品。
日本ではノベライズ『THREE/臨死』(林巧著)が角川ホラー文庫より出版されている。
日本劇場公開版は、レオン・ライがエンディングテーマを歌うスペシャルバージョン。
日本版Video&DVDは『THREE 死への扉』という題名で発売されている。
初版:2002/9/12
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