演劇俳優が一週間の旅行の中で経験する、女性二人との乾いた愛の物語。焼酎とセックスで、男女の本性が露わになる。『豚が井戸に落ちた日』、『カンウォンドの恋』、『秘花 〜スジョンの愛〜』のホン・サンス監督第四作。『秘花 〜スジョンの愛〜』では「記憶」がテーマだったが、今回のモチーフは「模倣」。
演劇界ではそれなりに名前を知られた俳優ギョンス(キム・サンギョン)は、知り合いの監督を信じて映画に出演するものの興行的に失敗。約束していた次回作の話もダメになってしまう。やることのなくなったギョンスはソウルを発ち、春川にいる先輩の家に向う。春川では舞踊家でギョンスのファンだという女性ミョンスク(イェ・ジウォン)と出会い、酒に酔った二人は一晩を共にする。ところがミョンスクは先輩が密かに好意を寄せていた女性だった。短い恋を終わらせたギョンスは、故郷である釜山へ向う列車に乗る。そして、車内で大学教授の妻ソニョン(チュ・サンミ)と出会い一目惚れ。今度は慶州の彼女の家を訪れる。
身長182cmのキム・サンギョンは、1972年6月1日生まれで、中央大学演劇学科卒。舞台を経験したあと、テレビ・ドラマ『Advocate』、『招待』などに出演した男優で、映画は本作が初出演となる(本作の後に大ヒット作『殺人の追憶』に出演し、一躍ブレイク)。『アナーキスト』のイェ・ジウォン(1976年2月6日生まれ、ソウル芸術専門大学放送演芸科卒)がミョンスク役を演じているが、彼女はSBSドラマ『ジュリエットの男』や『女子高時代』などにも出演している。『接続』、『ソウル・ガーディアンズ 退魔録』のチュ・サンミは人妻のソニョン役で出演。
イェ・ジウォンとチュ・サンミがベッド・シーンを披露するが、フィクス・カメラによるそのシーンは、あたかも眼前で繰り広げられているかのような生々しさ。偶然出会った男女がベッドを共にするわけだが、そのきっかけは酒。そのため、飲酒シーンが非常に多く、ホン・サンスは俳優に本当に酒を飲むことを要求。焼酎が体質に合わないチュ・サンミは他の酒で代用して演技をしたという。
総製作費は15億〜17億ウォン。シナリオはなく、長めのシノプシス(「トリートメント」と呼ばれるト書き状のもの)があるだけで撮影を開始。撮影現場で即興的に作った台詞を俳優に与え、かつ全体を時間順に順撮りしていったため、俳優はシナリオの空白を自らの想像力で埋め、自然と映画の中の人物になりきっていったという。そして、こういった撮影法が作品に独特のライブ感を生み出している。韓国人の恥部をチクチク付くような笑えないシチュエーションの数々、そしてユーモア感覚あふれる台詞の数々も好評。
製作はアン・ビョンジュ。脚本は監督のホン・サンスが執筆。撮影はチェ・ヨンテク。照明はチェ・ソッチェ。選曲はウォン・イル。編集はハム・ソンウォン。
作品を見ればたちどころにその作り手が誰であるか分かるような、そんな強烈な個性をもつ作家主義映画を生み出す若手監督としては、キム・ギドクと双璧をなすホン・サンスだが、この『気まぐれな唇』はこれまでの作品と比べた場合、大幅に大衆性がアップし分かりやすくなっているのが特徴。キム・ギドクは2002年に作家性に加えて大衆性もプラスした『悪い男』を発表し興行的にも大成功をおさめたが、本作もホン監督作品としては過去最高のヒットとなった。
韓国では、本作の公開と同時に2002年3月22日から4月9日まで、アート・ソンジェ・センターで「生活の発見−再見ホン・サンス」と題されたホン・サンス監督の特別展が開催され、監督の全作品が上映された。
第55回(2002)カンヌ国際映画祭では「ある視点」部門から招待されていたが、監督が『カンウォンドの恋』、『秘花 〜スジョンの愛〜』に続いて三回目の同部門への出品は意味がないと判断。招待を断ったという。
第27回(2002)トロント国際映画祭ナショナル・シネマ・プログラム部門、第40回(2002)ニューヨーク映画祭、第38回(2002)シカゴ映画祭ワールドシネマ部門、第21回(2002)バンクーバー国際映画祭龍虎賞(Dragons and Tigers)部門、第46回(2002)ロンドン映画祭ワールドシネマ部門、第51回(2002)マンハイム−ハイデルベルク国際映画祭コンペ部門、第7回(2002)釜山国際映画祭韓国映画パノマラ部門、第32回(2003)ロッテルダム国際映画祭、第5回(2003)ブエノスアイレス国際独立映画祭、第29回(2003)シアトル国際映画祭"Emerging Masters"部門、第12回(2003)ブリスベーン国際映画祭招待作品。
日本では「辛韓国映画祭2003」にて『TURNING GATE』という英題でプレミア上映された。
第47回(2002)アジア太平洋映画祭監督賞(ホン・サンス)、第12回(2003)ブリスベーン国際映画祭国際批評家連盟賞、第10回(2002)春史羅雲奎映画芸術祭女子助演賞(イェ・ジウォン)・男子新人俳優賞(キム・サンギョン)受賞作品。
日本版公式サイトはこちら。
初版:2002/3/25
最新版:2002/10/8
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