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復讐者に憐れみを


画像提供:ライス タウン カンパニー


題名
英題
原題
ハングル
復讐者に憐れみを
Sympathy for Mr. Vengeance
復讐は我がもの
복수는 나의 것
製作年 2002
時間 120
126(釜山映画祭)
117(日本公開版)
製作
提供
共同提供
 
 
スタジオ・ボックス
CJエンターテインメント
KTBエンターテイメント
ディスカバリー創業投資
東洋アイテック
監督 パク・チャヌク
出演 ソン・ガンホ
シン・ハギュン
ペ・ドゥナ
リュ・スンボム
イム・ジウン
ハン・ボベ
キ・ジュボン
イ・デヨン
キム・セドン
イ・ユンミ
オ・グァンノク
キム・イクテ
イ・グミ(特別出演)
リュ・スンワン(特別出演)
チョン・ジェヨン(特別出演)
日本版
Video
DVD
字幕版Video
吹替版Video
DVD

 娘を誘拐された父親の復讐劇を描いた悲壮感あふれる正統派ハード・ボイルド・ヒューマン・ドラマ。『JSA』のパク・チャヌク監督、ソン・ガンホ、シン・ハギュンが再びタッグを組んで製作したリアリズム追求型の作品。

 リュ(シン・ハギュン)は聴覚障害者で話すこともできない。たった一人の縁者である姉(イム・ジウン)は腎臓を病んでおり、そんな彼女をリュは工場で働きながら面倒をみている。姉が助かるには移植手術しかないことが分かった時、リュは自らの腎臓を姉に提供しようとするが、検査の結果は移植不適合。おまけに姉の看護をするために無断欠勤したのがあだとなり、リュは解雇されてしまう。思い余った彼は臓器密売組織に自分の腎臓を売って姉の手術費を得ようとするが、詐欺にあい、退職金の1,000万ウォンと自分の腎臓を盗まれてしまう。そんな時、病院から適合者が見つかったとの連絡が。八方塞になったリュは、昔学生運動をしていた恋人ヨンミ(ペ・ドゥナ)の「資本家の金を少しとって、緊急の用に使うのは罪じゃない」という言葉にそそのかされ、工場の社長ドンジン(ソン・ガンホ)の幼い娘ユソン(ハン・ボベ)を誘拐する。しかし、リュがドンジンから身代金を得たその日、彼の姉は自分のために弟が犯罪をしたという自責の念にさいなまれて、自殺。ドンジンの娘もまた水に溺れて死んでしまう。娘の死を知り復讐を誓うドンジン。一方、姉を失ったリュも臓器密売組織に復讐の念を抱いていた。

 主演の三人、ソン・ガンホ、シン・ハギュン、ペ・ドゥナの演技が素晴らしい。ソン・ガンホは、この映画のために10kgを越える減量を敢行し、冷酷な殺人鬼に変身。ちなみに、彼は『JSA』の撮影時からこの作品への出演を監督から依頼されていたが、あまりに残酷な復讐劇で、これまでの韓国映画にはないタイプの作品だったため、出演を二回断ったという。シン・ハギュンは、髪の毛を黄緑色に染めての熱演。台詞が一切なく、表情と目の演技によりすべてを表現し、チェ・ミンシクソル・ギョング、ソン・ガンホ、ユ・オソンら実力派男優の跡を継ぐ存在と、高く評価された。そして、ペ・ドゥナも拷問にあい苦悶の表情を浮かべる汚れ役を見事に消化した。蛇足だが、実生活でも恋人であることを明らかにしたシン・ハギュンとペ・ドゥナが、この映画でベッドシーンを演じているのが話題となった。シン・ハギュンはベッド・シーン初体験。ペ・ドゥナは『プライベートレッスン 青い体験』で濡れ場を演じているが、この時は代役を使うケースもあったので、代役なしのベッド・シーンは事実上今回が初とか。

 脇役陣も多士済々。リュ・スンワン監督がチャジャンミョンを届けに来た中華料理店の配達員役で、リュ・スンボムが誘拐犯を知らせる身体障害者役で、そしてチョン・ジェヨンがソン・ガンホの先妻の夫役で特別出演しているほか、人気アナウンサーのイ・グミがFM放送のDJ役で特別出演している。

 臓器密売組織の女ボスを演じているイ・ユンミ(52)は、ベテランの演劇俳優。映画は短編映画『理髪店の「異」氏』など二本に出演した経験があるが、長編劇映画はこれが初出演。彼女は、演劇俳優でもあるペ・ドゥナの母親キム・ファヨンの紹介でこの映画に出演することになったという。

 パク・チャヌク監督のデビュー作『月は... 太陽が見る夢』を製作したイム・ジンギュが中心となって設立されたスタジオ・ボックス製作作品。シナリオはイ・ジョンヨン、イ・ジェスン、パク・リダメの三人。撮影はキム・ビョンイル。照明はパク・ヒョヌォン。音楽はオオブ・プロジェクト。美術はチェ・ジョンファとオ・ジェウォン。セットはオ・サンマン。編集はキム・サンボム。

 『JSA』のパク・チャヌク監督、ソン・ガンホ、シン・ハギュン、そして20代の女優としては最も大きな期待を寄せられているペ・ドゥナの作品ということで、公開前から大きな話題となったが、あまりに悲惨な復讐劇のせいか、終映後、場内にはよどんだ重い空気が流れ、韓国では興行的に満足のいく成果を挙げられなかった。

 また、韓国の週間映画雑誌『シネ21』では、この映画の封切り後に、評論家による支持論・批判論が掲載された。

 第6回(2002)富川国際ファンタスティック映画祭メイド・イン・コリア部門、第28回(2002)シアトル国際映画祭、第27回(2002)トロント国際映画祭ナショナル・シネマ・プログラム部門、第15回(2002)東京国際映画祭アジアの風部門、第35回(2002)シッチェス国際映画祭「オリエント・エクスプレス」部門、第22回(2002)ハワイ国際映画祭Midnight Dark部門、第7回(2002)釜山国際映画祭韓国映画パノマラ部門、第12回(2002)フィルム・ノワール・フェスティバル(イタリア)、第53回(2003)ベルリン国際映画祭フォーラム部門、第21回(2003)コニャック・スリラー映画祭長編コンペ部門、第5回(2003)Udine Far East Film Festival、2003年フィラデルフィア映画祭、第6回(2004)ブエノスアイレス国際独立映画祭招待作品。

 第3回(2002)釜山映画評論家協会賞最優秀作品賞・監督賞(パク・チャヌク)、第22回(2002)映画評論家協会賞監督賞(パク・チャヌク)・脚本賞(パク・チャヌク)、第10回(2002)春史羅雲奎映画芸術祭音楽賞(オオブ・プロジェクト)・編集賞(キム・サンボム)、第1回(2002)MBC映画賞撮影賞(キム・ビョンイル)・編集賞(キム・サンボム)・照明賞(パク・ヒョヌォン)受賞作品。

 第12回(2002)フィルム・ノワール・フェスティバル(イタリア)審査委員特別賞、2003年フィラデルフィア映画祭the top prize for Best Feature Film受賞作品。第21回(2003)コニャック・スリラー映画祭では、メディアテック賞(Prix des Mediatheques)を受賞。

初版:2002/4/30



投稿者:Q さん 投稿日:2002/7/14 10:14:06

 2002年シアトル国際映画祭で、"Emerging Masters"の一人に選ばれたパク・チャヌク監督の最新作として上映された際、拝見いたしました。

 世界中から集まった、ありとあらゆる型破りな挑戦的シネマを見てきたはずであるシアトル映画祭の観客達も、この映画のあまりにも凄まじいパワーに圧倒されたようでした。上映終了後、パク監督とのQ&Aが始まるや否や、「どうしてここまで残酷な映画に仕上がったのか説明を聞きたい」と、本作の暴力描写に対する批判ともいえる質問が飛び出しました。パク監督は、これに対して「えっ、ハリウッドのスプラッター映画に比べれば全然残酷じゃないです」とおっしゃってましたが、なるほど最近公開されるホラー映画に比べれば、残酷描写は多くない(あるにはあります、念のため)。ただ『復讐者に憐れみを』は、ヒッチコックの『サイコ』を見終わった後、実際にはそんなシーンは存在しないにもかかわらず、多くの観客が「ジャネット・リーの裸体がナイフで切り刻まれるシーンを確かに直接この目で見た」と信じ込んでしまうように、実際の映像以外の残酷シーンを観客にイメージさせ記憶させる、そんなパワーを持っている作品なんです。おそらくは、それゆえ、製作サイドの予想以上に観客が「残酷だ」と感じてしまうのでしょう。

 『JSA』という超ヒット作のヒューマニズムと、観る者を惹きつけて放さないドラマ的迫力に感銘を受け、本作に対する期待を膨らませた方々は、見終わった後に、「裏切られた」と感じるくらい強烈な戸惑いと違和感を覚える可能性があります。そして、『JSA』の結末があまりにも救いがなく切なかったと感じる方々には、はっきりいって推薦できません。だって全篇もうひたすら救いのない映画なんです。だからといって、悲劇的なシチュエーションをもって、観客の感情移入を誘導するという陳腐な戦略からも程遠い。一般的な「韓国映画」からは想像もできない、極めてドライで、モダ二ズム志向で、だけど、ただ嘲笑うだけのシニシズムはギリギリの線で排除した、複雑でアダルトな視点から人間を見つめる作品であり、パゾリーニの『アポロンの地獄』やヒッチコックの『鳥』を思わせる、どちらかといえば西欧的な問題意識を抱え込んだ作品との印象を持ちました。

 この映画のテーマは、キリスト教的な意味での「救援」だと思いますが、パク監督は「人間は意思疎通が不可能だ、そしてそのコミュニケーションの不在により、人間は結局救援を得ることが出来ない」といった主張をしているように思いました。この「意思疎通が不可能である」という命題を、端的に表すシーンがあります。ぐうたらの若者三人組が隣のアパートから聞こえる「嬌声」にあわせてオナニーにふけっています。カメラが当のアパートの壁を通り抜けてパンしてゆく。するとかの「嬌声」は、実は腎臓の病により激痛に悩まされるリュの姉があげている悲鳴だという事がわかります。そしてリュ自身、聴力障害のため姉の悲鳴を聞き取れず、彼女の苦しみを無視してしまう。このシーンに現れる、一見ブラック・コメディのようでありながら、究極的には状況の悲劇性をあぶりだす醒めた感性は映画を一貫していて、決して感傷主義と妥協しない。今すぐ自分の臓器を提供してもいいと思っているくらいに愛してる相手、そういう相手とも実はお互いに理解しうるという保証はないのです。

 心の清い姉をこよなく愛する聴覚障害者のリュ、一人娘を失い人間らしさを失ってゆく事業家のドンジン、リュを愛しながらもママゴトのような現実離れした過激思想を深く信じ、理念的「正義」の観点からリュの少女誘拐を正当化し、けしかけるヨンミ。決して不真面目で投げやりな人たちではないのです。しかし彼らの「愛」や「信念」が一辺倒であればあるほど、不条理な暴力はエスカレートし、人々は殺されてゆく。

 私自身は『復讐者に憐れみを』をホラー映画の傑作として受け取りました。真上から見下ろした俯瞰ショットを多用した、後期ヒッチコックを連想させる独特のカメラワーク、そして水の中を泳ぐような不完全で不吉な「静寂」と対比する猛獣の咆哮のような工場の騒音、ラジオから流れる歯がゆく甘い旋律、オオブ・プロジェクトが担当した悪霊の唸りのような音楽らが見事に融合したサウンド・デザインもすばらしいですが、なによりもドンジン役のソン・ガンホ、リュ役のシン・ハギュン、ヨンミ役のぺ・ドゥナ諸氏の演技は、私には「鬼気迫る」としか形容できないです。特に『ほえる犬は噛まない』のぺ・ドゥナのイメージが強い方は要注意! ショック受けます。別人のようにやせこけて、切羽詰った必死のセックス・シーンを演じ、梟のようにカラカラに乾燥した巨大な両眼で観客を睨み付ける、ヨンミ役のドゥナちゃんを見た後、彼女の演技力に対して難癖をつける者はいないだろうと思います。

 個人的には星五つを進呈したいですが、上記のようにホラー映画が好きでない方と、ヒューマニズム的な感動を期待している方には薦められませんので、四つにしておきます。最後に、ガンちゃん、ドゥナちゃん、シンくんのファンの皆さんへ一言。『復讐者に憐れみを』は、映画そのものを楽しむことができないくらい恐くて残酷です。でも、そういう事実を考えても、この映画は一見の価値があります。覚悟を決めてご覧ください。

【評価:★★★★】



投稿者:カツヲうどんさん 投稿日:2002/8/25 21:50:39

 韓国製DVDにて鑑賞。故に、この作品の持つ極端な冷酷さが助長された上での鑑賞である事にご注意いただきたい。

 まずこの作品は、凄惨さ・残酷さばかりが取り上げられがちだが、実は確信犯的なブラック・ユーモアに満ちた、コメディといってもいい映画である。誇張された登場人物、象徴的な風景、全てが巡り巡って連結する因果応報の物語と、手塚治虫が1970年代に書いていた一連の短編作品を連想させる内容で、乾いたタッチは、どういう訳か初期の北野武監督の作品群にそっくりだ。

 同じ脚本でも別の監督ならば、もっと情感溢れた、それこそ観客がもっと来るに違いない映画になったであろう。だが、パク・チャヌク監督はそれらの要素を否定、あくまでも自己流のニヒリズムに徹した作品を作り上げており、韓国で客が不入りだったのは当然だろう。

 映画の視線は、あくまでも無慈悲である。親子だろうと、恋人だろうと、思いやりなどは勝手な思い込みに過ぎず、家族の絆など所詮唯物的なものに過ぎないという、学者的な視点すら本作からは漂ってくる。例えば作品の冒頭、主人公リュと彼の姉が、ラジオDJの語りに耳を傾けているシーンだ。ここは、一見非常に泣けるシーンである。この世でたった二人きりの姉弟が、人生のハンディを背負いながらも、深い愛情で結ばれて生きていることが、感動的に示される。だが、このシーンの最後は、二人の背中を冷たく見つめるがごとく、不安定なロング・ショットで締めくくられる。パク・チャヌク監督は、そうする事で、これから彼らを待ち受ける残酷な運命と、彼らの姉弟愛など実は個人の主観に成り立っている脆い幻想にしか過ぎないという、冷ややかな伏線を提示してしまうのだ。

 そういった「優しさの否定」は、物語が重なってくるにつれ段々と明確になって行く。また、作品内において韓国社会の貧富の差を告発している事も、注目すべき部分である。ペ・ドゥナ演じる学生運動家くずれも、過去への皮肉が効いているキャラクターだ。

 撮影は鮮やかで鋭利。美術と共に、ここ数年の韓国映画の技術レベルの向上を証明しており、ロケーションも美しい。音楽と音響は凝りすぎている感もあるが、独特の不快感と無常性を出すことに成功している。

 配役について言及すると、特にシン・ハギュンが、自己の可能性をアピールすることに成功しているといえるだろう。一番の主役は、彼が演じる聴覚障害者リュであり、娘を誘拐された会社経営者ドンジン役のソン・ガンホは、いわば脇役といっていい。リュの恋人ヨンミ演じるペ・ドゥナは、相変わらず輝いているが、薄幸なリュの姉を演じたイム・ジウンも、地味ながら作品の悲劇性に大きく貢献している。臓器密売を商う一家は、ヤク中の女ボス、イ・ユンミを筆頭に、皆マンガのキャラのようで、突出した異常性を感じさせ、川原をうろつく身体障害者を演じたリュ・スンボムも、意表を突いた好演をしている。

 韓国に対して、ステレオ・タイプのイメージしか求めない方々には、お奨め出来ない作品だが、韓国映画の最先端レベルを知るには、まさに恰好の作品と思う。2002年度の韓国映画の中で、是非、日本人に観てもらいたい一本である。

【評価:★★★★】


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