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女優ソ・ジョン −通訳から見た彼女−

Text by 尹春江
2001/9/7受領


Profile 尹春江(ユン チュンガン)

 シナリオ翻訳家。新潟県生まれの在日3世。和光大学人文学部卒。大学在学中に韓国へ留学。駐日韓国企業のOLを経てフリーランスに。NHKで放送された『接続』『太白山脈』『祝祭』など韓国映画の字幕翻訳多数。



 2001年7月のとある日、『魚と寝る女』の最終プレス試写を見るために、私は新橋界隈を歩いていた。『魚と寝る女』の主演女優ソ・ジョンがプロモーションで来日するのだが、縁あって彼女の通訳兼アテンドをすることになったのだ。毎回大いに利用させて頂いているシネマコリアのサイトで資料を見ると・・・ えっ、これも彼女? あれも彼女だったの? というような事実を発見した。ソ・ジョンが出演しているインディペンデント映画の『2 1 セックス』は1998年の釜山国際映画祭で、そして短編の『ラクリマ』は今年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で見ており、既に彼女とはスクリーン上で何度か「会っていた」のだ。

 『魚と寝る女』で彼女は野性味溢れるセクシーな女体を惜しげもなくさらけ出していた。そしてひとことも言葉を発しない謎めいたボートハウスの女主人の役を見事に演じきっていた。試写会場から帰る道すがら、素顔のソ・ジョンはどんな人なのか、あれこれ想像してみた。女優さんのアテンドは初めてだ。気難しかったり、わがままな人だったらどう対処すべきか・・・ 年甲斐もなく緊張している自分がおかしくもあった。

 さて、素顔のソ・ジョンとは・・・

 今回はホテルのスイートルームで2日間、14社のインタビューをこなすという超過密スケジュール。正に缶詰め状態。部屋に入ってまずオッとびっくり。ホテルのロゴ入り浴衣姿で彼女がすっぴんのままジュースを飲んでいた。ほほ笑んでいる。スクリーンの彼女と同一人物なのか?!  あまりの違いにおのれの目を疑った。

 簡単な自己紹介のあと、すぐにメイクさんが準備をはじめた。大きな鏡に映った彼女を覗きながらゆっくり話しかける。十分に間をおき、私自身のことも少し話ながら・・・ 鏡の前にはラ・プレリー(ムチャクチャお高い化粧品)のスキンキャビアシリーズが整然と並べられていた。その肌たるや「透明」そのもので、思わず「ケックッタネヨ!(きれいな肌!)」と叫んだ私。彼女はにっこりして「コマウォヨ(ありがとう)」。

 かくして彼女との仕事は始まった。

 スクリーンではかなりグラマーに見えた彼女だが、164cm、48kgという華奢な体つき。お煎餅のように小さな顔と澄んだ黒目がちの瞳が、芯の強さを物語っているようだ。透き通ったその肌はできたての半熟卵のよう、そう、彼女はまさしく「白」かった。スクリーンでの彼女は確か「黒」かったっけ。メイクについて聞いてみると、撮影のときはやや濃いめのファンデーションと眉のみを描いた野性味強調簡単メイク。ちなみに眉は毎回監督がじきじきに描いてくれたそうな。これって凄いことかも。

 インタビューでは、ひとつひとつの質問に対して丁寧に、常に自分の言葉で答える彼女の姿が印象的だった。役柄上、全裸や絡みのシーンに対する質問が多かったがそれに対しても、脱ぐことに抵抗があったらシナリオを読んだ時点で断ったであろうこと、そしてあれが嫌だこれが嫌だと言っていたらこの作品は完成しなかったであろう点を強調。「ボートハウスの女になりきった」とまでいった彼女。まさにプロの女優魂を見る思いだった。

 この映画は「男女のぎりぎりの情愛・怨念」または「エロスとタナトス」といった切り口で紹介されているが、彼女と話をしていると彼女自身は「人間が生きる意味」について問うていることが分かった。圧巻はヒジンとヒョンシクとの関係の解釈だ。

 生きることの意味さえなくしていたヒジンにとってヒョンシクは、もう一度生きてみようとする「希望」そのものだったと彼女は言う。生きたいと思ったからこそ自分から去って行こうとする彼に執着するヒジンの執拗な行為は、一般的には「猟奇的行為」と映るがヒジンにとっては「ごく当たり前の行為」なのだとも。

(注)ヒジンは「ボートハウスで十年暮らした女」という設定。他の誰も知らない過去を持つ。

 釣の道具を売るかのように自分の体を売り、感情を一切表に出さず、喋ることをやめてしまった彼女がやっと手に入れた「希望」。確かに、そう簡単に手放せるはずがないよなぁ・・・

 彼女の知性あふれる解釈に接していると、この映画に対する印象が随分変わってくる。男と女がどうのこうの、ぎりぎりの情愛がどうのこうの・・・といったありふれた視点とは全く異なる視点。ヒジンの心の奥底にある「恨み、痛み、哀しみ」の深さを想像することによって、この映画に一種の幅が出てくるのだ。

 そして、彼女はこうも発言していた。

「この映画を分析したり、なぜだろう?と答えを探したりせず、一幅の絵を鑑賞するかのように見て感じて下さい。」

 最終日、配給会社の担当者Tさんから浴衣をプレゼントされ、とてもうれしそうにしていた彼女。実はサッカー日本代表の川口能活選手の大ファンだそうである。「自分からアピールしなくちゃ」との周囲の言葉に大まじめに「川口さんはヒジンのような女は嫌いなはず」、「ヒジンは嫌いでもソ・ジョンは好きかも」、「次の映画で普通の役を演じたときには、声を大にしていうつもりよ・・・」

 そう、普段の彼女はよく喋りよく笑い、ついでによく食べる女優さんだった。すこぶる健康で温泉が大好きだそうだ。今後スクリーンで大いに弾けて欲しいな。オンニ(彼女は私をそう呼んだ)も応援してるからね。


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