Interview エピソード1『宝島』主演 杉野希妃さん
text & photo by 宮田浩史
エピソード1『宝島』で、祖父の遺品を捜すミエとともに済州島を訪れる、エイコを演じた杉野希妃さん。日本で芸能活動を行っていた杉野さんは、韓国での語学留学中に本作へ出演する機会を得る。留学のきっかけは、日本でも大きな話題を呼んだ映画『猟奇的な彼女』との出会いだった。
「作品を観てものすごい衝撃を受け、韓国のエンターテイメントに興味を持つようになったんです。それまで聞き取りが何とかできる程度で、全く話せなかった韓国語の勉強も始めました。大学3年を終えたときに、“韓国語をもっと完璧にしたい、日本と韓国で活動したい”という気持ちが湧いてきて、大学を休学して韓国へ向かいました」
そして、留学してまだ間もない2005年5月、学校の掲示板で本作の出演者募集を知り、オーディションを受ける。
「“私がやらないで誰がやるの!”と思って(笑) オーディション用の台本をいただいて、あらためて“絶対にやりたい”と思いつつ、でも落ちるんだろうなと弱気にもなりました。受かったのは運がよかったんです」
合格後、韓国語で書かれた台本を、スクリプターを務めた本作唯一の日本人スタッフ、安藤大佑さんが日本語に翻訳。さらにミエ役の森透江さん、杉野さんも加わり、セリフを自然な形の日本語に直した。オーディションからおよそ1ヶ月後の6月初旬、杉野さんは撮影のため済州島へ渡る。
「もう6月だというのにとても寒かったんです。撮影が朝から翌日の朝まで続くときもあり、大変でした。ある男性が倉庫の前で歌を歌うシーンの撮影中、その倉庫の扉に“待機中”の紙をはられて、透江ちゃんと“疲れたねー”と横になって休んでいたこともありました(笑)」
そんな過酷な撮影の中、杉野さんがもっとも楽しみにしていたのが、食事の時間。
「撮影がどんなに遅れていても、スタッフ、出演者全員でバスに乗って食べに行くんです。済州島の料理はおいしいものばかり。特にさばの煮付けが最高です。食事をきちんととらせていただけるのが、本当に嬉しかったですね。いい気分転換にもなりました」
作中、済州島をさまよい、様々な韓国人に出会うミエとエイコ。ふたりが年老いた女性に話しかけるシーンでは、3人のやりとりが笑いを誘う。
「あのシーンは台本にはなく、地元のおばあちゃんに“ちょっと出ていただけませんか”と声をかけて、急遽撮影されたものなんです。おばあちゃんには、“2人が話しかけてくるが、何言っているんだという感じで応対してください”とだけお願いしました。ですから会話は全部アドリブなんです。スタッフの皆が、“あのおばあちゃんの演技が一番うまかった”と言っていました(笑)」
物語は中盤、エイコのある告白によって、本作の持つテーマが提示される。
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物語中盤、韓国人男性4人にからまれるふたり。覚悟したエイコは韓国語で反撃にでる。そして自身が在日であることを明かす。
「台本をはじめて読んだとき、このテーマは古いのではと感じました。確かに在日で悩んでいる方もいらっしゃいますが、今では在日差別はほとんどなくなっていると思うんです」
監督に、“最近はこんなことはありません”と伝えた杉野さん。しかし、監督は“いいや、これでやる。在日問題を描きたいんだ”と答え、当初の台本のまま撮影を進めた。
「撮影当初は違和感を覚えましたが、エイコを通して在日の悲しみを知ることができ、良い経験になりました」
こうして完成した本作は、第10回釜山国際映画祭でプレミア上映され、2006年2月に韓国で劇場公開された。公開初日の舞台挨拶では、客席から“エイコが在日であることをなぜ隠すのか、全く理解できない”という意見も飛び出した。
「ビックリしました。韓国の若い人は在日の問題を知らないんです。このテーマを扱ってよかったんだと実感しました」
公開後の2006年5月、語学留学を終えて日本に帰国した杉野さん。新たに大手芸能プロダクションへ所属し、本格的な芸能活動をスタートさせた。目標は、日韓の架け橋になること。
「自分が韓流となり、日流になれたらいいなと思っています。韓国では日本の良いところ悪いところを伝え、日本でも韓国の良いところ悪いところを伝えていく存在でありたい。日韓を問わず、いろいろなことをやっていきたいです」
最後に、作品を観る観客にメッセージをいただいた。
「オムニバスならではの相乗効果が生まれている作品です。3本のエピソードの順番も、すごくいい。ほんのりした後に、しんみりとなり、最後はさわやかに終わる。まるで1本の作品を観ているかのような流れなんです。どんなきっかけでもいいからご覧になっていただいて、日本人や在日の方がどのような感想を持つのか、ぜひ聞いてみたいです」
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