Interview エピソード3『空港男女』主演 塩田貞治さん
text & photo by 宮田浩史
オムニバスの最後を飾る『空港男女』で、夜の空港で一夜を過ごすはめになる主人公・石田秀紀をコミカルに演じているのが、現在韓国に留学中の塩田貞治さん。すでに日本で俳優として活躍していた塩田さんは、2002年、『世界ウルルン滞在記』(TBS系列)で韓国の農家にホームステイしたことをきっかけに、韓国に興味を持つようになる。
「全羅北道の農家におじゃまして米作りに挑んだのですが、滞在中の1週間、天気が悪くてほとんど何もできなかったんです。ホームステイ先のご家族や村の人たちによくしていただいたのに、このまま何も残さずに帰ることになるなんて、いったい自分は何をしに来たんだろうかと落ち込み、悩みました」
滞在最終日、悩みぬいた塩田さんはスタッフに自分の出した答えを告げる。
「このまま残らせてもらえますか」
こうして番組始まって以来の滞在延長をはたした塩田さんは、それから2ヵ月半、稲の収穫までホームステイを続けた。
「この番組に出演するまでは、韓国に全く興味ありませんでした。最初は韓国人が怖かった。声も大きく、イントネーションも強いので、いつも怒っているのかなと。でも2ヵ月半の滞在で印象ががらりと変わりました。みんな優しく、情が深い。村の人たちとのふれあいを通して、韓国語を勉強したい、韓国に住んでみたい、と思うようになりました」
実は塩田さんの外国滞在経験はこれが初めてではない。『世界ウルルン滞在記』の前年、NHK外国語講座『ロシア語会話』のレギュラーとして、1週間ほどロシアを訪れている。なぜロシア訪問時には思わなかった「住みたい」という気持ちが、今回は芽生えたのだろうか。
「日本と韓国は似たものが多いと感じたんです。農家での暮らしは日本と同じ。主食もお米だし。おじいちゃん、おばあちゃんも日本とあまり変わらない。日本にいるような感覚で、楽な気持ちで生活ができた。この人たちとずっと一緒にいたいな、と思いました」
2004年、慶煕大学の語学学校で学ぶため、再び韓国に渡った塩田さん。2年間の留学で、今まで気づかなかった日本と韓国の微妙なずれを感じるようになった。
「長く暮らしてみて、それまで見えなかった部分が見えてくるようになりました。日本と韓国は違うんだな、そう思わなくてはいけないんだなと。韓国で暮らしていくためには、僕は日本人で、日本と韓国に文化の違いはあるんだということを、頭の中に入れておかなくてはいけないんです」
そして留学中の2005年春、本作へ出演するきっかけとなる出会いが訪れる。
「韓国で住んでいるアパートの大家さんから、“この子と友達になってあげて”と、キャスティングのアルバイトをしている日本人女性を紹介されたんです。彼女は『世界ウルルン滞在記』で僕のことを知っていて、“日本人の俳優を探している監督がいますが”と、本作の監督を務めたミン・ドンヒョンさんに会う機会をくれました」
当初、ミン・ドンヒョン監督の頭にあったのは、“日本人男性と韓国人女性のカップルが、幾多の困難を乗り越えて結婚する”というストーリー。監督に会った塩田さんは、『世界ウルルン滞在記』の経験から、なぜ韓国が好きなのか、なぜ韓国へ来たのか、思いのたけをまだつたない韓国語で時間をかけて一生懸命話した。
「監督は僕の話に感動して、“ぜひ私の映画に出てください”と言ってくださいました。“君がホームステイした2ヵ月半の体験も作品に入れたい。君に合わせてシナリオを書くから”と」
その後、監督の家に何度も足を運び、プロデューサーも交えた話し合いを経て、『空港男女』が生み出された。
「僕の実体験や、旅行好きな監督の海外での経験がつまった作品になっています。作中、僕が演じた石田秀紀が、イ・ソヨンさん演じるオ・ゴニの話す韓国語に、意味もわからず“うんうん”とうなずくシーンがありますが、あれもまさに監督と僕が初めてあった時のやりとりそのものなんです(笑)」
オ・ゴニ役のイ・ソヨンは、日本では映画『スキャンダル』でペ・ヨンジュンと共演したことで知られている。塩田さんはドラマ『新入社員』を観て彼女を知っていた。
「イ・ソヨンさんは、ドラマから“気が強く冷たい”イメージを持っていたのですが、実際はさばさばした男の子のような方でした。彼女は日本語を勉強していたので、撮影の合間にお互いの言葉を教えあっていました」
空港というロケ地ゆえ、撮影は困難を極めたが、スタッフやキャストの“いい映画を作りたい!”という熱意によって作品は無事完成。第10回釜山国際映画祭で、プレミア上映された。
「釜山国際映画祭は大きな思い出になりました。オープニングのレッドカーペッドではジャッキー・チェンとキム・ヒソンの前を歩いたのですが、緊張して心臓が口から飛び出しそうになりました。まわりから“誰なの、この人”という声が聞こえたりもして。もうこんなところにいたくない! と(笑)」
ところが、作品が上映されると、状況が一変。上映終了後の舞台挨拶が終わったとたん、観客に取り囲まれ、サイン攻めにあったのだ。
「え? 僕の?? という感じでしたね。一緒の写真をねだられたり。あんなにビックリしたことは初めてで、夢のようでした」
他のエピソードの出演者たちとの交流も、釜山国際映画祭で生まれた。
「エピソード1『宝島』のキム・ソンホ監督と主演の杉野希妃さんは、『空港男女』の撮影現場に遊びに来たことがあったのですが、他の方々とは映画祭で初めてお会いしたんです。上映後はみんなで食事に行き、一気に仲良くなりました。特にエピソード2『母をたずねて三千里』に出演したキム・ドンヨンとチョン・デフンとは、映画祭中、ずっと一緒に遊んだりご飯を食べたりしていました。まわりの大人たちの中で難しい話をするのが面倒くさくなったふたりを連れ出し、ハンバーガーを食べにも行きましたね(笑) ふたりとも弟みたいな感じなんです」
いまでも出演者たちと連絡を取り合い、時間を見つけては会っているという。
「イ・ソヨンさんはお仕事が忙しいのでなかなか会えないんですが。杉野希妃さんとは、“お互いがんばろう。今度は一緒に出ようね”って話しているんです」
現在は、慶煕大学の語学堂で学ぶ傍ら、演技学校にも通い、レッスンに励んでいる塩田さん。今後も韓国での活動を視野に入れている。
「一番の目標は映画に出ることですが、今はドラマへの出演を目指しています。まず日本人として出られる役を探し、ゆくゆくは韓国語で韓国人を演じたい。それともうひとつ、ずっと抱いている夢があるのですが、以前洋菓子の専門学校に通っていたので、いずれおいしいケーキを出すカフェを開きたいんです。韓国にはなかなかおいしいケーキ屋さんがないんですよね。ミン・ドンヒョン監督も興味があるようで、韓国店は監督が、日本店は僕が担当するということで、話が進んでいます(笑)」
最後に、作品を観る観客にメッセージをいただいた。
「『空港男女』は、“言葉ではなく気持ちで伝わるものがある”というあたりを面白く観ていただけるのではないでしょうか。韓国に興味を持ち、好きになり、友達を作りたいな、と思うきっかけになる3本のオムニバスです。肩肘張って硬く考えずに、素直な気持ちで観てください!」
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