本作は、光復60周年(*)となる2005年に日韓関係を描く作品として企画された。製作にあたって、3人の監督に課された条件は、(1)韓国と日本の若者を主人公にし、日韓関係を描くこと、(2)「一日」という時間の中で起こる出来事を描くこと、の二点のみだった。本作の製作費は5千万ウォン。宣伝費もわずか3千万ウォン。ちなみに、現在の韓国映画の平均製作費は45億ウォン。製作会社インディー・ストーリー代表のクァク・ヨンスいわく、「元々KBSの番組『インディペンデント映画館』で放送する予定だったが、途中でKBS側が事情により降りてしまった。KBSが予定通り参画していれば、もう少し大きい規模の映画になったかも知れない」とのこと。
(*) 「光復」とは、朝鮮半島が1945年に日本の支配から解放されたことを意味する言葉。
<製作日程> | 2005年3-5月 | シナリオ作業、スタッフ構成など撮影準備 |
|
2005年6-7月 | 撮影 |
|
2005年8月 | ポスプロ&完成 |
|
2005年10月 | 釜山国際映画祭でワールド・プレミア上映 |
|
2006年2月23日 | 韓国公開 |
本作は、韓国では珍しいインディペンデント映画専門の配給会社であり、ミニシアター系の日本映画『ごめん』『月光の囁き』を韓国で配給したインディー・ストーリーの自社製作作品第一号。『ペパーミント・キャンディー』『オー! スジョン』『イルマーレ』『ロスト・メモリーズ』『気まぐれな唇』『オアシス』など良質な作品に資金提供してきたユニコリア文芸投資の出資により製作された。商業主義がはびこる現在の韓国映画界においては、インディペンデント系の小規模作品の劇場公開には困難がつきまとうが、本作は、映画振興委員会(KOFIC)の配給支援のもと、インディー・ストーリーと、単館公開ネットワークであるアートプラスの共同配給により公開された。2006年2月23日(木)、ソウルではシネコア劇場で単館公開され、当初2週公開予定だったのが、好評につき1週延長上映された。また、大邱・済州などでも公開された。
『宝島』の監督キム・ソンホは、在日コリアン2世のドキュメンタリスト梁英姫<ヤン・ヨンヒ>監督と親交があり、彼女の『Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン』(シネカノンの"Think of Korea"第3弾として2006年8月26日より渋谷シネ・ラ・セットにて公開)で済州ロケを手伝うが、その作業の中で『宝島』のアイディアを得たという。当初、主演には日韓合作作品『純愛譜−じゅんあいふ−』の橘実里を考えていたが、予算的に難しいと分かり、大学の語学学校などに求人広告を出して、韓国にいる日本人を探した。その結果、見つかったのが森透江と杉野希妃。なお、主人公の祖父の名前「安藤大佑」は本作の製作に参加した日本人スタッフの名前から取られており、ペンダントの祖父の写真も安藤さん本人のもの。
『母をたずねて三千里』のキム・ジョングァン監督いわく、「この作品で、日本は韓国人にとっての悲しい理想郷として描いた」とのこと。また、「もっと悪い少年の成長物語を描くつもりだったが、テレビ放送も視野においていたので、内容が若干ソフトになった」とも。ラストシーンの渋谷ロケはゼロ泊3日の強行軍で撮りあげた。
『空港男女』のミン・ドンヒョンは、短編映画の製作・配給でインディー・ストーリーとの付き合いが生まれ、本作に参加。エピソードごとの予算は1千万ウォンだったが、空港のレンタル料が一日110万ウォンだったので、本作だけ使用料として680万ウォンが追加支出された。
『まぶしい一日』の魅力の一つは、映画に独特な生命感を与えている音楽。インディーズ・バンド「ココア」のリーダー、イ・ウソンが『宝島』の音楽を、予告編音楽作曲家キム・テソンが『母をたずねて三千里』の音楽を、そして作曲家兼歌手のハリムが『空港男女』の音楽を担当している。エンディング・ソングは、インディーズ・バンド「プラスチック・ピープル」のフォーク・ロック『十字路の恋歌』。本作の韓国公開時には、劇中の挿入歌を歌ったインディーズ・バンド「プラスチック・ピープル」と「アマチュア増幅器」がシネコア劇場前で無料公演を開催した。なお、「アマチュア増幅器」のハン・バッは『宝島』に出演。自らの持ち歌『ルンビニ』を、普段歌を歌うときのスタイルに着替えた上で、披露している。
韓流ブームの影響で、韓国での活動を準備中の日本人俳優が増加傾向にある。近年、日本から韓国に進出した芸能人としてはユミン(笛木優子)や、「Sugar」の在日3世アユミが有名だが、最近では、モデルの大谷亮平が韓国のCMに出演し、韓国女性の熱狂的な支持を受けてドラマ『ソウルメイト』で俳優デビューしたのをはじめとして、モデル、シンガー、俳優の卵などが続々と韓国芸能界デビューを目指している。ちなみに、韓国映画に日本からの俳優が初めて出演したのは、1961年の『玄海灘は知っている』(金綺泳<キム・ギヨン>監督)に出演した在日女優コン・ミドリ、との記録が残っている。
京郷新聞などの報道によれば、『まぶしい一日』の封切りを記念して、映画社が、2006年2月16日から20日まで映画のチケット前売りサイトを通じて「日本の芸能人の韓国進出に対してどう思うか?」というアンケート調査を実施した。結果は以下の通り。
積極的に歓迎する | 299名 | 11.2% |
芸能人の活動に国籍は関係ない | 1,548名 | 58.0% |
韓流は歓迎するが日流には否定的 | 824名 | 30.9% |
計 | 2,670名 | 100.0% |
主な意見としては以下のようなものがあった。
「韓流を歓迎して日流を否定するのは、過去の感情に対する利己的で望ましくない考え」
「良い俳優はどの国でも愛される」
「日本人俳優に対しては感情的な怒りの根が深くて、人気を博することができるか疑問」
「独島(竹島)問題や歴史教科書問題などが解決されていない現時点で、日本の芸能人が韓国で活動を準備することには否定的」 |
2006年5月現在、韓国を拠点に活動する日本の若手インディーズ監督による短編オムニバス・プロジェクト『体感時間』が企画・推進されている。参加作品は、『けつわり』(安藤大佑監督)、『EGGS』(金優監督)、『エモーショナリズム』(杉本あずみ監督)の3作品。『まぶしい一日』の製作にスタッフとして参加した安藤大佑さんの『けつわり』は、戦争中、筑豊地方の炭鉱から逃げ出してきた朝鮮人労働者と少年の交流を描いた作品。主演は『まぶしい一日』の『宝島』にも出演し、韓国インディペンデント映画界で監督・俳優として活躍するヤン・イクチュン。『EGGS』は、韓国に来た日本人留学生の物語。『エモーショナリズム』は男女の性別があやふやになってきている現代社会を描く。企画意図としては、「韓国という国に接して感じた日本と韓国の微妙な関係、日本人・韓国人の間に存在する距離、そして未来への希望等を「時代」と「空間」をテーマに3人の監督がそれぞれの感性で表現」するとのこと。『まぶしい一日』がまいた種は様々な形で芽吹き始めている。
安藤大佑監督の『けつわり』
|