歌を歌うことを禁止する「緊急措置19号」の発令を題材にして、独裁政権を風刺するブラック・コメディ。「緊急措置」とは、1972年に発布された維新憲法により、大統領が国政全般にわたって下せるようになった特別措置のことで、発令ごとに番号が付されている。1979年に発生したパク・チョンヒ(朴正煕)大統領暗殺事件の直後に廃止されるまで、軍事政権下において民主化運動を抑圧する目的でたびたび布告された。また、クラシックは高級文化、ポップスは大衆文化といったような権威主義的な区分を嘲笑するようなシーンもある。韓国の人気歌手が総出演しているので、K-POPファンには垂涎の映画。
国民の圧倒的な支持を得てマイケル・ジャクソンが米国大統領に、マドンナが副大統領に、そして英国ではポール・マッカートニーが首相に指名されるや、危機感を募らせた大統領秘書室長キム・ドチョル(ノ・ジュヒョン)は、歌手を捕らえて歌を歌うことを禁止する緊急措置19号を発令する。軍人により次々と捕らえられていく歌手たち。そんな状況とは露知らずにコンサートをしていたホン・ギョンミンと、偶然彼のコンサートにゲスト出演していたキム・ジャンフンは、ホン・ギョンミンのファン・クラブ会長で秘書室長の娘ミンジ(コン・ヒョジン)のおかげで危機を脱する。一方、政府の手先となったチュ・ヨンフンは同僚の歌手を密告。歌手たちは整形して難を逃れようとしたり、歌手を辞める誓いをたてたり・・・ そんな中、ホン・ギョンミンとキム・ジャンフンは、ファン・クラブと力をあわせて、緊急措置19号を取り消させるべく、ある計画を立てる。
K-POP界の大物プロデューサーで、日本のテレビ番組『人気者でいこう!』の企画から誕生したBONITA(ボニータ)のプロデューサーでもあるチュ・ヨンフンなど、高名なアーティスト達が実名で登場。
歌手のキム・ギャンフン、ホン・ギョンミンが主役でスクリーン・デビュー。他にもピンクル、BABY V.O.X、シャクラ、神話、Click-B、カンタ、ハリス、NRG、イ・ジュノ、コヨーテ、キム・ドンギュ、キム・フングク、パン・シリ等が出演。彼らの出演は、この作品のプロデューサー、ソ・セウォンの人脈によるもの。彼は、有名なコメディアンで、自らの名前が冠されたテレビ・トーク番組を通して歌手たちとも強力なコネクションを持っている。
ちなみに、この映画の公開と前後して、文化改革市民連帯がソ・セウォンの「ソ・セウォン ショー」の廃止運動を繰り広げて話題になった。その理由は、番組内におけるソ・セウォンの行き過ぎた発言と、芸能界におけるあまりに独善的な力のためで、本作において大勢の歌手がソ・セウォンのコネによりほとんどノーギャラで出演したことも、その批判理由の一つとして挙げられた。
職業俳優では、『少女たちの遺言』、『ガン&トークス』、『火山高』のコン・ヒョジンがホン・ギョンミンのファン・クラブ会長役を演じている。ベテラン、ノ・ジュヒョン(54)が、大統領秘書室長役で、久しぶりに映画界に復帰。
その他にも、アンカー・ウーマンとして有名なキム・ソンギョンが劇中でもアンカー・ウーマン役で出演。神話のチョン・ジンの父親パク・ヨンチョルが捜査官役で、ホン・ギョンミンの実兄ホン・ソンフン(30)も非常戒厳軍役で出演。
2001年の大ヒット作『花嫁はギャングスター』を生み出したソ・セウォン プロダクションの第二作。『花嫁はギャングスター』の夢よ、もう一度!ということか、チラシのデザインは、『花嫁はギャングスター』のそれを踏襲したものとなっている。
製作はソ・セウォン。キム・ウンテの原作をキム・ソンドンとイ・ソングクが脚本化。監督は『最後の防衛』(1997)でデビューしたキム・テギュ。撮影はファン・ソシク。照明はカン・グァンウォン。編集はパク・スンドク。音楽はソク・ソンウォン。チュ・ヨンフンがサントラ製作を担当。配給のSS1シネマの「SS1」はソ・セウォンの省略形。
初版:2002/9/1
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