韓国西海岸の入り江を舞台にした、中年男女の一日だけの不倫の物語。主演の俳優二人とスタッフ10名によって、たった12日間で即興的にデジタル・カメラで撮影された白黒作品。現代人の孤独を日常的に静かに淡々と描き出したアート・フィルム。主人公達は終わりの見えない砂漠を歩く「らくだ」のように、目標のない人生を歩む。
40代の男(イ・デヨン)と30代後半の女(パク・ミョンシン)が、韓国西海岸の小さな入り江にやってくる。二人は今日はじめて名前を知った仲。そんな彼らが一緒に旅することになったのは、お互いの中に似た部分を感じとったからだ。目的地に到着した二人。ここへは、以前、汽車に乗ってやってきたことがあるのだが、今はモーテル、刺身料理屋、カラオケに変わってしまっていた・・・ 食堂で夕食をとり、お互いについて質問しあう。カラオケで、ぎこちなく歌を歌い、キスをする。そして、モーテルで関係を結んだ二人。男は、もっと若い頃に出会っていたら自分たちがどうなっていたかを問うが、女は無言のまま。そして、朝が来て二人はまた食堂へ向かう。
感情をあらわにしない演技を披露した主演の二人は、シナリオもなく、いわゆる演技も排除した本作を、ほとんど即興で演じていったという。イ・デヨンは劇団チャイムに所属し、『蜚言所(ピオンソ)』、『私に会いに来て』、『魚座』、『そこ』などの演劇に出演している演劇出身の中年男優。『私に会いに来て』の演技で、1996年には百想芸術大賞演劇部門新人賞を受賞している。映画では、『明日に流れる川』で同性愛に目覚める主人公のジョンミンを、『JSA』でイ・ビョンホンの上官を演じているほか、『ペパーミント・キャンディー』、『我が心のオルガン』などにも出演している。パク・ミョンシンは劇団漢江で活動し、いくつかの演劇に出演している演劇出身女優。演劇『五月の新婦』ではイ・デヨンと共演しており、映画初出演となる本作の後、『オアシス』にタクシー運転手の妻役で出演している。
『モーテルカクタス』のパク・キヨン監督第二作。脚本と編集も監督のパク・キヨンが担当。撮影監督はチェ・チャンミン。音楽はパク・チンソク。製作はコ・チュンギル。製作費は9,800万ウォンと超低予算。
元々の計画では、10代・20代の男女が主人公の『モーテルカクタス』、30代の男女が主人公の『砂漠』、そして40代の男女が主人公の『ラクダ(たち)』の三部作として製作する予定だったが、『砂漠』の製作費が調達できず、第二作として『ラクダ(たち)』を製作した。この三部作には「サボテン(=カクタス)」、「砂漠」、「らくだ」といずれも砂漠絡みの題名が付けられているが、監督によれば「砂漠」は乾いた現代社会を象徴しているとか。
『モーテルカクタス』は、モーテルという限定された場所に訪れる四組のカップルを描いたが、『ラクダ(たち)』では登場人物が完全に固定され、逆に空間を移動していくのが異なる。しかし、両作品ともモーテルが重要な場所として登場してくるのは同じ。
第6回(2001)釜山国際映画祭「韓国映画パノラマ」部門、第31回(2002)ロッテルダム国際映画祭、第52回(2002)ベルリン国際映画祭フォーラム部門、第16回(2002)フリブール国際映画祭コンペ部門、第15回(2002)シンガポール国際映画祭コンペ部門、第4回(2002)ブエノスアイレス国際独立映画祭、第3回全州国際映画祭2002特別上映部門、第28回(2002)シアトル国際映画祭Asian Trade Winds部門、第27回(2002)トロント国際映画祭ナショナル・シネマ・プログラム部門、第21回(2002)バンクーバー国際映画祭龍虎賞(Dragons and Tigers)部門、2002年ウィーン国際映画祭、第46回(2002)ロンドン映画祭ワールドシネマ部門、第26回(2003)イェテボリ映画祭韓国映画特別展、韓国インディペンデント映画2004招待作品。
第16回(2002)フリブール(Fribourg)国際映画祭グランプリ・シナリオ賞、2002年ウィーン国際映画祭国際映画評論家協会(FIPRESCI)賞Special Mention受賞作品。
2001年に、第6回釜山国際映画祭「韓国映画パノラマ」部門でワールド・プレミア上映された後、世界各国の映画祭に招待され、2002年9月27日にソウルのコア・アートホールで単館公開された。
初版:2002/10/3
最新版:2002/10/19
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