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ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2005 リポート
『初恋のアルバム〜人魚姫のいた島〜』

Reported by 月原万貴子(月子)
2005/3/7受領



『初恋のアルバム〜人魚姫のいた島〜』 2004年 原題『人魚姫』
 監督:パク・フンシク
 主演:チョン・ドヨン、パク・ヘイル、コ・ドゥシム、キム・ボングン、イ・ソンギュン

鑑賞ノオト

 銭湯の垢すりおばさんをやっているガサツな母(コ・ドゥシム)と、お人よしで大人しい郵便局員の父(キム・ボングン)。そんな両親に憤りを感じているナヨン(チョン・ドヨン)は、結婚に夢が持てず、恋人からのプロポーズにも踏み切れずにいた。ところがある日、病気を家族に隠したまま、父が家を出て行ってしまう。仕方なく両親の故郷の島へと父を探しに来たナヨンは、なぜか時空を遡ってしまい、20歳の瑞々しい母ヨンスン(チョン・ドヨン2役)と、爽やかな郵便配達員の父ジングク(パク・ヘイル)の初々しい恋を目撃する・・・

 原題の「人魚姫」とは、海女として働く20歳のヨンスンのこと。演じるチョン・ドヨンの可愛らしさは、正に絶品! 化粧っけのない日焼けした顔に、きりきりと編みこんだ三つ編み。くるくると動く瞳に浮かぶのは、初恋の喜びだ。彼女の想い人は郵便配達のお兄さん。だから、彼女は字が読めないのに、町に下宿している弟に毎日手紙を出させている。そうすれば、彼が毎日配達に来てくれるから。やがて、彼女が文盲なことに気がついた彼は、小学校1年生用の教科書とノートをプレゼントしてくれ、個人授業の先生になってくれる。どちらも好きだなんて言葉は口にしない。それでも、お互いを想い合う気持ちがじーんと伝わってくる。なんて美しい恋愛映画なんだろう!

 私が特に好きなのは、字が読めるようになったヨンスンが、うれしくって道々の看板を音読するシーンだ。今まで意味の分らない記号でしかなかったものが、意味のある言葉になる喜び。調子に乗ってエッチな落書きまで読み上げてしまった時の恥ずかしさ。そのどれもが、生き生きとしたチョン・ドヨンの表情と、それを優しく見つめるパク・ヘイルの瞳から真っ直ぐに見るものの心に届いてくるのだ。チョン・ドヨンはそんなふたりを見守るお姉さん(実は娘)との2役をあまりにも自然に演じ分けているので、まるで本当にチョン・ドヨンが2人いるような錯覚を起こしてしまいそうになった。

 ただし、この映画「あんなガサツなおばさんにも、こんなに可愛い娘時代があった」と思うか「娘時代は可愛くても、おばさんになったらこんなにガサツ」と思うかで、映画全体の印象が変わっちゃう恐れありだろうな。


パク・フンシク監督インタビュー

日時:2005年2月25日(金)
会場:ホテルシューパロ 千鳥の間
聞き手:月原万貴子
通訳:ファン・ヨンスン

 ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2005のヤング・ファンタスティック・グランプリ部門に、第2作『初恋のアルバム〜人魚姫のいた島〜』がノミネートされ、ゲストとして来日されたパク・フンシク監督に、自作についてお話を伺った。

Q: 『初恋のアルバム〜人魚姫のいた島〜』製作のきっかけは?
A: クォン・ヘウォンという私の友人が書いた短いシノプシスがきっかけです。彼がこういう話を映画に出来ないかと言ってきたのですが、当時私はデビュー作『私にも妻がいたらいいのに』の製作中で、その余裕が無かったので、彼はこれをユニコリア文芸投資という映画投資会社が1999年に行った創立記念のシノプシス公募に応募しました。これが、審査員だったイ・チャンドン監督の目に留まったのです。そして、旧知だったイ監督からも「これは君向きの企画では?」と勧められました。その頃には私も次回作には家族ものをと考えていたので、この作品に取り組むことにしたのです。

(注)ユニコリア文芸投資は、イ・チャンドン、ミョン・ゲナムらが理事となって設立した映画投資会社。『ペパーミント・キャンディー』『オアシス』などに投資している。

Q: 両親の青春時代に子供がタイムスリップするという設定から『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を連想したのですが。
A: あの映画は、時を遡り運命を変えようとする、あくまでもファンタジーですが、『初恋のアルバム〜人魚姫のいた島〜』はもっと現実的な話です。娘が遡るのは時ではなく心の中です。心の中を深く探ることで、両親を理解する話なのです。

Q: 母と娘の話にしたのは?
A: 私は母の苦労している姿を見て育ちました。しかし、そんな母にも、若くてはつらつとした時期があったはずです。そんな思いをこの映画に託しました。

Q: 主演のチョン・ドヨンさんとは『私にも妻がいたらいいのに』でもコンビを組んでいますね。
A: 彼女は前作で、私のことを嘘のない信頼できる監督だと思ってくれたようです。今回は、母と娘の二役を演じるということに、役者として挑戦してみたいと言ってくれました。これこそ、自分のための映画だという心構えで、現場でも100%全力を尽くしてくれました。海女として水に潜るシーンは、すべて彼女本人が演じています。こちらとしては、危険もあり、プロの方のスタントを用意したのですが、ドヨンさんは、顔が映らないくらいロングのシーンでも、すべて自分でやりたいといい、実際やり遂げました。

Q: 母娘が同画面にいる合成シーンが多いにもかかわらず、まったく不自然さがないですね。
A: それは彼女の演技が自然ですばらしいことと、合成技術が進んだこと。両方の成果だと思います。実はある映画祭で、この作品を見た外国人記者に「この女優さんは双子なんですか?」と聞かれたこともあるんですよ(笑)。韓国の観客にも、この二役にはまったく違和感を持たないで、物語に没頭できたと言ってもらえました。

Q: 若き父役のパク・ヘイルさんもステキですね。
A: 彼にはどんな女性も憧れるような理想的な男性を演じてもらいました。穏やかで暖かく、優しさに満ちた、女性なら誰もが恋したくなるような男性です。実は撮影の途中で、ヘイルさんは『殺人の追憶』の舞台挨拶のために東京国際映画祭に参加したのですが、そこで日本の映画記者たちに「怖い」と言われて、ショックだったそうなんです。だから「この映画を見たら、女の人はみんなステキだって言ってくれるよ」と言いました。

Q: 次回作について教えて下さい。
A: 社会が不安定だった1980年代の韓国が舞台です。春のシーンを残し、ほとんどを撮り終えていて、8月か9月の公開を予定しています。主人公は13歳の少年で、「幸運の手紙」、今で言うチェーン・メールのようなものですが、これを信じて数人に送ったところ、次々に不幸になってしまうという話です。政治的に混沌とした時代の中で成長していく少年の心の世界を描いたもので、この少年には当時の私自身が投影されています。少年役はイ・ジェウン(『大統領の理髪師』の息子役)が演じていて、他にムン・ソリ、ユン・ジンソが出演しています。


追記

 『初恋のアルバム〜人魚姫のいた島〜』は、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2005ヤング・ファンタスティック・グランプリ部門で、グランプリを受賞した。



【注】 映画祭では『人魚姫』という題名で上映されましたが、その後、『初恋のアルバム〜人魚姫のいた島〜』という邦題で劇場公開されましたので、題名はすべて劇場公開時のものに統一しました。


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