一人の小説家が、三人の女性との出会いと別れを通じて、生きることの意味を悟る過程を描く。ク・ヒョソの中編『樹の男(きこり?)の妻』を、名作『晩秋』のシナリオ作家キム・ジホン(金志軒)が脚色。題名の「沈香」は、水中で千年を経たクヌギの木を乾かすと得られる老木の奥ゆかしい香りのこと。監督キム・スヨンの言によれば「人は死んで匂いを残すものだが、本当の人間の香りというものがどういうものか描いてみたかった」との考えから製作された作品。当初の題名は『人間の香り』だった。ベテラン撮影監督チョン・イルソンのカメラがとらえた韓国の美しい山河が見所の一つ。映画振興委員会版権担保融資選定作。
良い小説を書きたいという夢を持って軍を除隊したチャヌ(イ・セチャン:李世昌)は、友人のユラ(クァク・ミョンヒ)を訪ねるが、そこで彼宛てに届けられた一通の手紙を受け取る。それは、入隊前に列車の中で出会った売春婦ソニ(イ・ジョンヒョン)からの遺書だった。ソニの遺骨を持って彼女の故郷の寺を訪れるチャヌ。彼は、寺の近くの旅館で不思議な女性ジンギョン(キム・ホジョン)と出会い、恋に落ちる。しかし彼女は山男の妾。ニ人の関係を知った山男はチャヌを殺そうとする。
キム・ホジョンは1991年に演劇でデビューし、『花びらのような女、水の上に散り』,『愛を探して』などに出演、1995年百想芸術大賞演技新人賞(演劇部門)を受賞した演劇俳優。映画は今回が初出演だが、『沈香』は公開までに時間がかかり、彼女のニ作目の出演となる『ほえる犬は噛まない』のほうが早く封切りされた。
監督のキム・スヨンは108本の映画を撮った韓国映画界の重鎮だが、キャスティング時には彼を全く知らない俳優が多くて苦笑したとか。また「先輩映画人に対する理解がないので製作費の工面に苦労した」との発言も。大家と伝統を尊重しない韓国文化全般の問題点が露呈した形だ。撮影監督はチョン・イルソン。シナリオを担当したキム・ジホンは韓国映画の不朽の名作『晩秋』(イ・マニ監督,1966年)と、そのリメイクであるキム・スヨン監督の『晩秋』(1981年)のシナリオも担当している。なお、KJKフィルムはキム・スヨン,チョン・イルソン,キム・ジホンの3人がこの映画を作るために設立した会社。
第4回(1999)釜山国際映画祭「韓国映画パノラマ」部門出品作品。釜山国際映画祭での上映時は2回とも満席だった。
1998年9月にクランク・インしたが、一般公開されたのは完成から1年以上経った2000年6月。歌手として大人気のイ・ジョンヒョンがブレイクする前に撮った作品だけに、彼女の人気のお陰で公開にこぎつけたか?
初版:2000/6/26
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