韓国の女性が初めて従軍慰安婦問題を正面から取り上げたドキュメンタリー作品。「韓国のドキュメンタリー映画史・インディペンデント映画史・女性映画史は『ナヌムの家』以前と以後に分けられる」との評もある記念碑的作品。続編に『ナヌムの家2』が、そしてシリーズ完結編に『息づかい』がある。
撮影開始当時27歳だった新人女性監督ビョン・ヨンジュが2年をかけて、ソウルの「ナヌムの家」に住む元従軍慰安婦だったハルモニ(おばあさん)達の日常を記録した作品。この作品は、ビョン・ヨンジュがアジア諸国の売春の実態を追ったドキュメンタリー『アジアで女性として生きるということ』を撮影中に、元従軍慰安婦の母親の子宮癌手術費を稼ぐために売春をするようになった女性と出会ったのがきっかけで生まれた。このことは、『ナヌムの家』の副題が「アジアで女性として生きるということ−2」となっていることからも分かる。
シリーズに一貫しているのは、政治的アプローチではなく、被害者であるハルモニ達の「今」をフィルムにおさめているという点。撮影現場にもなっている「ナヌムの家」は「分かちあいの家」という意味。
ソウルでは東崇シネマテーク、ピカソ、リュミエールの3館で公開されたが、韓国ではドキュメンタリー作品が一般公開の形で上映されるのは極めて珍しいことで、大きな話題となった。また、映画製作にあたって100フィートのフィルムを提供してくれる賛同者を募り、1億7千万ウォンの総製作費のうち、約5千万ウォンを調達するという新しい資金調達方式を導入した作品でもある。なお、賛同者の名前は映画の最後にクレジットされている。
山形国際ドキュメンタリー映画祭 '95で小川紳介賞を受賞し、第8回(1995)東京国際映画祭カネボウ国際女性映画週間、1995年ライプチッヒ国際映画祭、1996年ロッテルダム映画祭、1996年アムステルダム・アムネスティ国際映画祭、1996年香港国際映画祭、第1回(1996)釜山国際映画祭「ワイドアングル」部門、1998年ベルリン国際映画祭ヤングフォーラム部門、1998年ニューヨーク人権映画祭、2000年フランス・クレテイル映画祭のほか、メルボルン・ドキュメンタリー・カンファレンス、ミュンヘン国際映画祭などに招待された。第16回(1996)映画評論家協会賞映評特別賞受賞。日本映画ペンクラブ・優秀映画鑑賞会推薦作品。1997年ブリュッセル国際独立映画祭審査委員大賞受賞。1999年には、ニューヨーク女性映画放送人協会が選定する「1979-1998 世界女性映画23選」に選ばれた。
初版:1998
最新版:2000/2/23
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