在米コリアンの若手監督が、ニューヨークに住むアジア系移民の若者の孤独や挫折、そしてアメリカの下層社会で少数派民族が生きていく難しさを描いたネオ・クール・アクション・ノワール。韓国資本で製作されているが、クレジットには韓米両国スタッフの名前が連なる韓米合作映画で、アクション・シーンやスタイリッシュな映像が売り。題名は「傷は深く流れる」という意味。
ハンガリー系の父と韓国人の母の間に生まれ、中華料理屋の出前として働くベン(Alex Manning)。恵まれない境遇と退屈な現実に嫌気がさしていた彼は、ある日韓国人ギャング団のボスJD(David McInnis)と出会う。そして、ギャング団の伝説となっているJDに不思議な魅力を感じたベンはギャング団の一員になる。麻薬・暴力・セックスにまみれた生活の中で、ボスになることと、高級コールガールのミナ(パク・チオ)との未来を夢見るベン。しかし、彼があこがれていたJDは、FBIの捜査官を殺して姿をくらましたのをきっかけに、組織の中で求心力を失ってしまう。そして、白人のような顔をしているベンは、仲間から異邦人扱いされるようになる。
1997年にニューヨークでクランクインされ、5ヶ月に渡る撮影が行われたが、IMF経済危機のため製作のアルプス・フィルム(An Albus Films)の現地法人が製作支援を中断。一旦はポスプロ作業ができない状態に陥るが、1999年にイルシン創業投資の支援を受けて完成する。そして、その年、秋に開催された釜山国際映画祭でプレミア上映され注目を浴びたが、一般公開されたのはそれからまた1年余りが経過した2000年12月のことだった。
1971年、ソウル生まれのイ・ジェハン監督(John H. Lee)は12歳の時、米国に移民し、ニューヨーク大学(NYU)で映画を専攻した人物。15歳から短編映画を作り始め、1992年には『Fantaisie- Impromptu』でAECT国際映画祭2等賞を受賞する。その他にも韓国のファッションブランド「オムパロス」などの広告やミュージック・ビデオを製作した経験があり、脚本も担当した本作で長編監督デビューする。マーチン・スコセッシに憧れており、ニューヨーク大学に入学したのも、スコセッシの母校という理由からだという。
1976年、パリ生まれのAlex Manningはアイルランド人の父と日本人の母を持つハーフで、アメリカの有名カジュアル・ブランド「バナナ・リパブリック」、「ギャップ」などのモデルとして活動した経歴を持つ。1973年、ニューヨーク生まれのDavid McInnisはドイツ系スコットランド人の父親と韓国人の母親を持つハーフ。「ラルフ・ローレン」や「フェラガモ」などのファッション・ショーにも参加しており、アメリカで活動する東洋系モデルの中ではトップ・クラスの人物。なお、Alex ManningとDavid McInnisの二人は、この映画への出演で、韓国内でも注目されるようになり、韓国のジーンズ専門ブランドの専属モデルに採用された。主役以外でも、『ヘア・ドレッサー』でアン・ソンギのハサミ踊りを、そして『Interview』でシム・ウナの踊りの振り付けを担当した高名な現代舞踊家アン・ウンミが出演しており、華麗な舞を披露している。
アメリカで撮影されたため事実上アメリカ製といっても良い本作品の中で、純粋に韓国で作られた映画音楽を担当したのは、ジャズ・ミュージシャンのチョン・ウォニョンとテクノ音楽の大家カン・ギヨン(ダルパラン)。1960年、ソウル生まれのチョン・ウォニョンは、アメリカのバークレー音大で学んでおり、過去に『サイの角のように1人で行け』や『火の鳥』の映画音楽を担当したことがある。また、カン・ギヨンは『バッドムービー』,『LIES/嘘』の音楽を担当した人物。
第4回(1999)釜山国際映画祭「韓国映画パノラマ」部門出品作品。
初版:2001/1/6
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