現職大学教授が撮ったインディペンデント・アート・ムーヴィー。監督の自叙伝的な内容で、登場人物の心理描写を通して、現実と理想の乖離、利己主義と虚無主義などを描く。主人公である大学教授キムの淡々とした日常をフィックス・カメラによってとらえた静かな映像が特徴。
キム(ソル・ギョング)は、地方大学の映画科教授でインディペンデント映画の監督でもある。大学では「映画とは自らの理想を表現する場である」と教えているが、現実はそうではないことを知っていて、学生の前で講義することからも、自ら映画を製作することからも、虚無感を感じている。そんな彼には中学生の教師をしている恋人のヨンヒ(キム・ソヒ)が心のよりどころだが、彼女から「両親に挨拶して欲しい」といわれ、躊躇する。そして、ヨンヒの実家へ行く途中、彼女と喧嘩をしたキムは、彼女を旅館に残したまま帰って来てしまう。映画も愛も自分には救いとならない・・・ そんな現実から逃避するように、幼い頃、廃屋で鳥の巣と卵を見つけた思い出を持つキムは、「鳥」をイメージすることに没頭する。しかし、やがて再びヨンヒに電話をかける。まるで、閉曲線を描くがごとく反復飛行をする鳥のように。
台詞を極力廃して、俳優の演技とイメージで引っ張っていくタイプのアート・ムーヴィー。1999年に完成し各国の国際映画祭に出品され、いくつかの賞も受賞したが、韓国内では上映してくれる映画館がなく、公開が遅れに遅れた。結局、公開のためのレイティング審査が2001年に行われ、ソウルのミニシアターで単館公開されたのは2002年3月のことだった。
今をときめくソル・ギョングの《初》主演作で、彼の繊細かつ抑制の効いた演技が光る。ちなみに、本作がチョン・スイル監督の自伝的なストーリーという説明を聞いたギョングは、監督が着ていた服を着て劇中の演技に臨んだという。彼の相手役ヨンヒを演じたのは、これがスクリーン・デビューとなる演劇俳優キム・ソヒ。東国大学演劇映画科大学院出身の彼女はイ・ユンテクが演出した演劇『感じ、極楽みたいな』での演技でソウル演劇祭新人女子演技称を受賞した実力派。
トンニョク・フィルムを設立し、2億3千万ウォンの製作費で本作を製作したチョン・スイル監督は、商業性を廃し、芸術性を追及するタイプの監督。1959年、江原道の束草に生まれ、釜山の慶星大学演劇映画学科を卒業した後、パリに留学。パリ映画学校(E.S.R.A)で映画演出を専攻し、パリ7大学とパリ8大学大学院で学び、パリ8大学では博士課程を修了した。現在、慶星大学演劇映画科副教授。大学で教鞭をとる一方、釜山でインディペンデント映画製作活動を展開しており、釜山アジア短編映画祭の執行委員長もつとめる。ペ・ヨンギュン監督の作品が好みで、長編監督デビュー作『私の中に響く風(三部作)』は、第2回(1997)釜山国際映画祭「新しい波」部門、1998年インド国際映画祭、第12回(1998)フリブール国際映画祭、1998年モントリオール世界映画祭などに招待されているほか、三部作として完成する前の第二部(『悪い男』のチョ・ジェヒョン主演)が第1回(1996)釜山国際映画祭ワイドアングル部門でウンパ賞を受賞し、第50回(1997)カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に招待されている。ちなみに、『私の中に響く風(三部作)』と『鳥は閉曲線を描く』の製作により、監督の借金は2億5千万ウォンになったとか。
製作は監督のチョン・スイル。脚本は監督のチョン・スイルと、イ・ジョンエ。撮影はキム・デソンとファン・チョリョン。編集はパク・スンドク。アート・ディレクターはイ・ジョンエ。
音楽は釜山で結成された四人組のインディーズ・バンド「レイニー・サン(Rainy Sun)」。チョン・スイル監督が教授をしている慶星大学は釜山にある大学で、この映画には釜山にある大学の映画学科教授や学生達がエキストラで出演している。その意味では、本作は「ご当地映画」とも言える。ちなみに、この映画でイ教授を演じているのは、釜山芸大で演技の講義を担当しているイ・ジェヨン教授だが、彼は『友へ/チング』でドンスが属する暴力団のボス役で出演している。
第56回(1999)ヴェネチア映画祭新しい分野(New Territories)部門、第4回(1999)釜山国際映画祭「新しい波」部門、第14回(2000)フリブール国際映画祭、2000年インド・ケーララ国際映画祭、2000年モスクワ国際映画祭「インフォメーション」セクション、2000年インド・CINEMAYA国際映画祭「韓国映画特別週間」部門、2000年にデンマークとノルウェーで開催された "Film from the South" 韓国映画セクション部門、2000年ストックホルム国際映画祭、2000年インド・カルカッタ映画祭、第36回(2001)Karlovy Vary国際映画祭回顧展「ニュー・コリアン・シネマ」招待作品。
第4回(1999)釜山国際映画祭でアジア映画振興機構賞(NETPAC賞)を、スイスの第14回(2000)フリブール国際映画祭では大賞にあたる「黄金の視線」賞を受賞。
初版:2002/3/3
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