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『ペパーミント・キャンディー』
イ・チャンドン監督インタビュー(抜粋)


資料提供:アップリンク


撮影:大野孝枝

編集部
 今日は『ペパーミント・キャンディー』についていろいろとお話しを伺いたいと思っています。よろしくお願いします。

イ・チャンドン監督(以下イ監督)
 こちらこそよろしくお願いします。

編集部
 まず最初に、この映画は、40才の主人公キム・ヨンホの人生を20才まで遡っていくという斬新な手法をとっていますが、どこからこういう発想が生まれたのですか?

イ監督
 本当にふとしたきっかけだったんですが、ある朝ひげを剃っていたときに、鏡に映った自分が変わっていることに気がつきました。それで、愕然としたんです。そして突然、自分のことを判っていたときに戻れないものかと考えました。現実的には時間を戻すことは、とうてい叶わない望みですから、映画の中でそれを叶えたいと思ったんです。

編集部
 この映画では、何を表現しようと思いましたか?

イ監督
 過ぎた人生の中で一番大切なものは何か? それを言葉で表現することは難しいのですが、人を変え、約束を変え、すべてを変えてしまう時間のもつ破壊力とアイロニーを時を遡っていくことで、表現したいと思いました。

編集部
 時間を遡っていくという手法には、危険も伴うと思いませんでしたか?

イ監督
 そうです。普通のドラマでは、ドラマの流れと観客の感情が同じ曲線を描きます。クライマックスで感情がピークに達するのが普通のやり方です。ところが、この作品では、それとはまったく逆の曲線が描かれていて、観客の感情と相反する恐れがありました。そこでジレンマに陥ったこともあります。でも、エピソードを小出しにして感情の高まりを落とさないように気を配りました。最初に初恋の人スニムが死にゆくシーンは、普通のドラマでは涙のクライマックスです。でもこの映画では、観客は、なぜヨンホがスニムにハッカ飴を渡して謝るのかが判らない。でも、後に事情が判ってから、感情はより増幅されると思いました。人は、自分の運命を知っていたら人生を送ることが怖いでしょう。人生とはアイロニーに満ち満ちているものなのです。


編集部
 ところで、この作品はどのような順番で撮影されたのか、とても気になるのですが。

イ監督
 それについてはかなり話し合いましたが、主人公が遡る時間の中で自我を見つけていくものだと考えたので、映画の順番通りに撮影しました。ヨンホを演じたソル・ギョングは、本当に大変だったと思います。20才の青年から始まっていれば、心情を理解しやすかったでしょうからね。

編集部
 ソル・ギョングは、ほぼ新人に近い俳優でしたが、彼を起用した理由は何ですか?

イ監督
 一人の男の40才から20才までを演じるということは、かなり難しいことだと思っていました。映画の中でその人生を生きることは不可能ですから・・・ それでもリアルに見せるために、実年齢で30才から半ばくらいの俳優を探して、2,000人くらいにオーデションをしました。ところがなかなかいい人がいなくて、オーデションとは別に彼に会いました。でも彼の第一印象はあまり良くなかったんです(笑)。自分の意思で会いに来たのではなく、呼ばれたから来たのです、といった感じで貪欲ではなかった。無口だし、外見も変わっていました。この作品ではかなりの演技力が要求されますから、彼にあまり経験がなかったので、そこを判断するのも難しかったですね。ただ、前作の『ディナーの後に』の5分間の印象がとても良かったので、彼にしようと決めました。ソル・ギョングは一見ぶっきらぼうで、外から見ると砂漠のようですが、内面に豊かな水をたたえているような人間だと思います。

編集部
 キム・ヨンホという人物像について少しお話しください。

イ監督
 彼は、普通の韓国人とは違うかもしれません。私は、常に弱点をもっている人に魅かれます。ギリシャ悲劇やシェイクスピアの戯曲の登場人物など、破滅の道でも邁進していくような人に魅力を感じます。万能で、観客の幻想を増幅させるばかりの人物は好みではないですね。ヨンホという人物が失ってしまったものは何か、と簡単には言えませんが、「純粋」という言葉は曖昧なものです。「純粋さ」とは何か? と問われると、それは判りません。でも何が「純粋」かということは判ります。若い人にはそれがあって、年を重ねていくうちに知らず知らずに失ってしまうように思います。人生の中で最も美しく、純粋であったときの感情、他人を愛することができるんだと思った瞬間。それが、振り返ったときにどれだけ大切なものなのか、変わらないものを持ち続けることが、胸に秘めることがどれだけ大切なことか・・・ そんな思いが彼に投影されています。


編集部
 キム・ヨンホは、妻になったホンジャを愛してはいなかったのでしょうか?

イ監督
 スニムに対して残酷であると同時に、ホンジャにも残酷な男です。ホンジャに対する申し訳のなさから彼女を選びますが、それは愛する人を捨てた自分への罰として、ホンジャとその後の人生を歩くということです。そうして選んだ人生で幸せになれるわけがありません。男というのは、えてしてこういう間違った選択をするものなんですよ。

編集部
 間違った選択をすることによって、人間の愚かさを描いたわけですね。人生の素晴らしさを描くということについては、どう思われますか?

イ監督
 そういう映画を作りたいと常に思っています。この物語には一見、人生の間違いや過ちばかりが見えますが、私は根本的に「人生は美しい」ものだ、美しくなければいけないものだと思っています。それを訴える方法は、二つ。美しいものを見せて直接訴えるものと、逆のものを見せて、でも人生は美しいのだと訴えること。この映画を観て主人公の人生を壊したものは何だったのかということに気がついてほしいのです。

編集部
 キム・ヨンホは、違う生き方をすることもできたかもしれませんね。

イ監督
 彼は自分に対する嫌悪感から、大切なものを自ら捨ててしまいます。それは愚かなことかもしれませんが、人生の変化には二つの要因があると思います。一つは社会的な背景など外的なもの。二つ目は自分の意思です。外的なものはどうすることもできないけれども、それをどう受けとめるかで人生は変わっていったでしょうね。

編集部
 その外的な抗えない力というのは、たとえば光州事件のことだと思いますが、監督にとってあの事件はどのようなものでしたか?

イ監督
 光州事件が起きた1980年5月、私は25才でしたが、当時の大学生は民主化運動の真っ只中で、光州のことは噂で伝わってきていました。光州の進軍部がその後の政権を握って、私は絶望しました。そして、この絶望感がのちの私の人生を支配すると思いました。ああいった政権が生まれて支持をされるという社会システム、人に対する不信感。純粋な自分には理解することができないほどの絶望感でした。

編集部
 光州事件に関しては、あまり詳しい情報が日本には伝わってきませんでしたので、それがほんの20年前の出来事だったと知らない人も多いかもしれません。

イ監督
 それは、韓国でも同じです。報道規制がなされたため詳細は報道されませんでした。事件の真実は詳しく知らされていません。今回の撮影でも光州の場面が一番苦労しましたね。国防省の許可がとれなくて物理的な面で苦労しました。全部自分達で調達したんですよ。それに、当時は戒厳令が敷かれていて、停電もしていましたので、今それをそのまま再現するということは、とても難しいことでした。現在の韓国は民主化の時代と言っても、やはり光州のことは軍の恥部なので、協力を得ることはできませんでした。

編集部
 監督は、もともと小説家をされていて、映画の世界に入られましたが、なぜそんなに多才なんでしょうか?

イ監督
 これというものがないから、監督をやっています。監督は指示を出して人に何かをさせる仕事だから、才能のない人間に向いているのでは? 何かに大きな才能があれば、それをやっていたと思います。監督は、自分ができないことを人に要求できる不思議な仕事です。自分の能力を他人に任せられるのが一番いい監督ではないでしょうか?

編集部
 監督は、人間を見つめる洞察力があるからこそできる仕事だと思いますよ。

イ監督
 いろいろな世界で失敗を重ねた人は、洞察力がある。もともと才能のない人は、自分ではできないけれども、いろいろなことは知っているものなんです。

編集部
 小説と映画は、表現方法は違いますが、描いているものは同じですか?

イ監督
 基本的には同じです。作家時代の仲間と語っても、悪い意味で変わっていないと思う。変わりたいと思っても変わらないんでしょうね。映画だから特別なストーリーを作らなければいけないというものではないですし・・・ 人が生きていく姿を描いて、その意味や感情、共通に疎通するものを求めています。それは、シナリオを書く、書かない以前に同じものです。自慰的なものは作りたくないと思っているんです。映画祭でよく見かけるような芸術性のみを追及したものを作ろうとは思いません。自分が作って、相手とも共有できるもの、意思や感情の疎通ができるものを作りたいんです。ところが、そこが一番難しいところなんですね。


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