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『ペパーミント・キャンディー』
イ・チャンドン(監督)&ムン・ソリ(女優)インタビュー



取材・文/谷口公彦
取材・写真/西村嘉夫(ソチョン)

資料提供:『電影城市』、『フィルム・ゴア』
取材協力:アジアフォーカス・福岡映画祭2000アップリンク


2000/9/10 ソラリア西鉄ホテル インタビュー・ルームにて



左:イ・チャンドン監督,右:ムン・ソリ
質問
 まず最初にお聞きしますが、監督は小説を書いておられたそうですが、小説の世界から映画の世界へ転じたのはなぜですか。

イ・チャンドン
 その質問は日本でもたくさんされましたし、もちろん韓国でもたくさん聞かれました。それは私にとって非常に困惑させられる質問です。なぜかというと適当な答が見つからないからなんです。私は特別な計画とか意図があって映画に転身したのでは全くありません。
 私は、シナリオを書いたり、助監督をすることで映画の仕事を始めました。その時の私の年齢というのは30代後半でした。その頃の自分を振り返ってみますと、自分の人生が気に入らないと思っていた時期だったので、何か新しい人生を探したい、新しい仕事がしたいという気持ちがとても強くて、それは必ずしも映画でなくても良かったと思うのですが、本当に偶然に映画とめぐり逢って映画の方に移るということに結果的になったのです。その場合、偶然と申し上げる場合には、多分に運命的なものもそこに含まれていると思います。そういった形で新しい何かを探している時に、偶然たまたま映画と出会って映画に移るようになったわけです。
 このことは本当に何回も聞かれていまして、よく聞かれる質問なので、私もそれなりの答を用意しておこうかなと思うのです。正直に話すと皆さん失望するので、失望しないようにそれなりの答を用意しておこうかなと思ったこともあったのですが、率直に正直にお答えしますと先ほど言ったように特別な計画もなく偶然に映画の世界に転身したということになります。
 時々、ちょっと答えることが面倒だなと思うことがあるのですが、そういう時には私の運命だったと思いますという答え方をしています。でも、いずれにしましてもなんとなく進んでみたら映画の方に偶然進んでいたというのが正しい答でしょうか。


質問
 この映画は韓国と日本の初めての合作ということなのですが、合作になった理由というのはNHKの方から話があったからなのでしょうか。

イ・チャンドン
 ご存知のように韓国では昨年まで日本の大衆文化は開放されておりませんでした。当然日本映画も入ってくることはありませんでしたし、また、日本からの映画の製作資本も入ってくることはありませんでした。ですから合作の形態の映画もありえなかったわけです。
 今回は、NHKの方からまずお話がありました。NHKのプロジェクトとしても最初の韓国との合作になるわけなのですけど、NHKはかねてから韓国と一緒に合作をやりたいという希望があったようなのです。ところが他の国とはやったのですが、さきほどお話ししたような事情があって韓国とはできなかったので、機会をずっと待ち続けていたそうです。そして、やっと解禁、開放が叫ばれてからすぐに調査に乗り出し、どういうシナリオがあるか探して、NHKの方から申込みがあったのです。私は監督なので製作関係のことは詳しくは判らないのですが、NHKの方で何か作品を探している時に『ペパーミント・キャンディー』の脚本が目に止まって関心を持ち、一緒にやりたいという話が私どもにあったそうです。


質問
 日本との合作ということで、韓国の国内での反応はいかがでしたか。

イ・チャンドン
 特にとりたてて大きな反応があったということではありませんでした。韓国の人たちというのは、当然、これから日本との文化交流を進めていくべきだという考えがあったので、皆さんすんなり受け入れてくれたようでした。日本の資本が入ってきたからといって特に非難をする人もいませんでしたし、かといってそれは良かったねという反応でもなかったのです。
 すんなり受け入れられたという反応だったのですが、いざ映画が完成した後、ちょっと面白い国内の反応がありました。ある新聞記事を見ていましたら、日本のNHKはシナリオを読んで合作をしようということを率先してやっているのに、韓国のKBSは何をしているんだというような逆にKBSを非難するような記事が映画の完成後、目に止まりました。


質問
 この映画は通常の映画の撮影方法と違ってシナリオ順に撮影したとお聞きしていますが、なぜ、そのような時間もお金もかかる方法をとったのですか。

イ・チャンドン
 この映画はチャプターが七つに分かれていますので、その七つを独立した形で撮らなければいけないということがまずありました。普通の映画の撮り方というのは、だいたい順撮りが理想とされていますので、順撮りでいきますけれども、ある時は融通を利かせて同じシーンだったら時間の開きがあっても1回で撮ってしまおうということが確かにご指摘のとおりあると思います。
 しかし、この『ペパーミント・キャンディー』に関しましては、まず最初にチャプターごとの状況が全く違うわけです。それぞれが独立した形で存在していますので、俳優さんの衣装から、身体の肉のつき具合とかヘアースタイルまで全くチャプターごとに違っており、独立した形で撮らなければいけないということがありました。確かに経済的なことを考えると効率がよくないような撮り方です。私にしてもスタッフにしても俳優にしても、これは本当にたいへんな作業で、まるで映画を7本撮っているような、そういう気持ちでした。ひとつのチャプターを撮り終えると、また、次のチャプターというか新しい映画に入らなければいけないという感じで、みなさん戸惑いもありましたし、どうしたらいいのか悩むような場面もたくさんみられました。
 順撮りに関しては、確かにシナリオの順番通りに撮ったのですけども、普通の順撮りというのは、例えば物語がスタートしてだんだん時間の流れとともに進んでいくという順撮りですよね。ところが今回の順撮りはとても面白い形で、順番通りに撮っていくのですけれども、過去に戻っていくというそういう内容のものでした。普通だと物語の原因があって結果があるようなシナリオでしたら、自分の物語を俳優さんも追っていってキャラクターを作っていき感情を作っていく、そして映画自体も理解しながら撮っていくという順撮りができるのですけれども、今回の順撮りは全くそういうものと内容的に逆だったので、スタッフも俳優さんもとてもたいへんだったと思います。
 しかし、今回、私の選択は正しかったのではないかなと今でも思っています。というのは、時間の流れは逆ですけれども、映画の流れに沿って映画と同じように俳優さんたちにも動いてもらうことによって、この映画の根本にある失われた自我を求めるというか、過去の自分の姿を探すといった作業が、順撮りをすることによってできたのではないかなと思います。非常にたいへんな作業であったのですけど、結果的にはこの方法を選択してよかったなと思っています。


質問
 最初と最後の鉄橋のシーンも別に撮っているのでしょうか。そうならその時に何か苦労したことはありましたか。

イ・チャンドン
 まず、鉄橋が出てきますね。あの鉄橋を探すのがたいへんだったんです。ロケハンの時にあの鉄橋をようやく探しあてたところでチャプター1を撮りました。そして、順序通りに他のチャプターを撮っていって最後にもう1回あの鉄橋のシーンを撮りに行ったところもうビックリしました。工事中だったんですよ。
 多分、観客のみなさんの目にはちょっとわからないかもしれないのですが、最後は工事をした鉄橋が写っているので、最初の鉄橋とはちょっと違うんです。工事といっても本格的な工事だったので、撮影が不可能な状態だったんです。現場に行ってみたところ、もうみんな諦めざるを得ないんじゃないか、撮影することさえできないんじゃないかという状態で、私たち全員が衝撃を受けました。その工事は、土木工事というか堤防で川を堰き止める工事で、だから川の姿自体違っていたんです。それから鉄橋も足場を組んで本格的に修復するような工事をしていたので、もう本当にショックを受けてしまって、もう諦めよう、撮影しないで帰るしかないとみんなで話していました。次の日の明け方にソル・ギョングさんとムン・ソリさんを呼んで、酒飲もうと言って誘ったんですね。酒飲んで死ぬしかない、死のうと言っていたんですが、でも撮らないわけにもいかないわけです。
 そこで私たちの方でさらに手を加えて、言ってみれば新たに工事をしたような感じでしょうか。堰き止められていた堤防を外してちゃんと川が流れるようにして、それから砂利とかも全部敷きつめたんです。鉄橋のところに張ってあった足場も全部外して、本当に私たちの手で新たに工事したような形になりました。河原でみんな車座になって座って歌ったりしますよね。あそこの場面も砂利を敷いて、草も元々自然に生えていたものではなくて、全部みんなで植えたものなんです。木の枝もそうですし、みんな持ってきてそこに植えたりして、まるでハリウッド映画なみの感じで最後のチャプターは撮りました。そういった苦労がありました。
 工事をしているというのがわかったのが、ちょうど釜山国際映画祭のオープニングで『ペパーミント・キャンディー』をやりますよということが決まった日だったんです。上映が決まった日に工事をしているということがわかりまして、釜山国際映画祭までちょうど半月ぐらいしかなかったので絶望的な状況だったんです。オープニングの日がもう少しあとだったら、それほどあわてなかったと思います。そういう経緯がありまして、ますますみなさん鉄橋のことがわかった時には絶望してました。


質問
 ムン・ソリさんの俳優としての苦労話などお聞かせ下さい。年をとった状態から若返った時まで順番に撮られたわけですよね。

ムン・ソリ
 病院の場面ですが、あのシーンは今でも本人が演じたんですかと聞かれることがあります。あのシーンは、40代の女性が病に苦しんでいるという場面だったのですが、監督からも本当に40代の女性が苦しんでいる姿になってほしいという要望がありました。それはメイクアップとか衣装とか、それだけではダメだということです。つまり内面からそういうものを見せなければならなかったので、体重を落としたりとか、寝ないで撮影に臨んだりとかしました。実はあのシーン、もう1度新たに撮り直しをしているのです。最初に撮ったものと違って今みなさんが観ることができる方は、セリフもなく、そしてただ横になって寝ているというシーンですよね。そういうセリフも無くただ横になっているだけで、苦しそうに病を患っている姿を見せるのがたいへんでした。
 それから19歳の自分の姿を演じるのが本当にたいへんで、撮影の時には韓国の歳(かぞえ)で27歳だったんですけど、本当に自分は19歳に見えるだろうかということがとても心配でした。もちろん私なんかよりもソル・ギョングさんのほうが、遥かにその点では苦労されていると思います。ソル・ギョングさんに比べたら、私は、まだ、やさしいほうだと思ったのですが、最もたいへんだったのは、19歳の心、20歳の心を持つことですね。心構えで自分は今20歳なんだぞというような気持ちを持つ、それが私にとってはたいへんな作業でした。

イ・チャンドン
 私はあとで知ったことですが、病院のシーンを撮る前に、ムン・ソリさんは10日間ぐらい断食をしたそうなんですよ。 私はそこまで要求しなかったのですけど。

ムン・ソリ
 いいえ、「ご飯食べてないでしょうね。」と確かに監督が聞いたんですよ。

イ・チャンドン
 「食べてないでしょうね。」と聞いたのではなくて、私は「減らしているでしょうね。」と言う言い方をしたのですけど(笑)。

ムン・ソリ
 私の記憶の中では、「食べてないでしょうね。」と聞かれたことになっていますよ。最初は3キロ体重を落としたのですが、それ以降、全然減らなくて、それで苦労してご飯を食べないようにしてたのですが、最終的には6キロ体重を落とすことができました。でも私は、体重は落ちてもなかなか顔のぜい肉が落ちないという難点があって、本当にその点は苦労しました。でも、監督の方から、数えで20歳の心を持っていれば、そういう風に見えるから、それが一番大事だよと言われまして、私もそうだなと思いました。いくら髪を染めたりとかメイクで作りあげても内面的に自分が20歳の心を持っているんだと思わなければ、なかなか演じられなかったと思います。


質問
 監督からは、細かな演技指導はあったのですか。

ムン・ソリ
 イ・チャンドン監督は、撮影に入る前にたくさんの話をする方なんです。そのシーンを撮るだいぶ前からそのシーンについてたくさん話をなさるんですね。今回のストーリーは、どうしてそういう場面になるのかという説明が後に来るわけです。だからそのシーンだけ撮っていてもなかなか前後の関係というのがわからないのですが、それを説明して下さいました。そればかりではなくて、人が生きていくということはどういうことなのかとか、私の普通の生活に関する話とかありとあらゆる話を事前にして下さいまして、それがとっても役に立ちました。
 撮影中は、逆に、ほとんど細かい指示とか演技指導とかされる方ではなくて、ピクニックに行く場面もただ遊びなさいというふうに言われたので、そのつもりで私も行きました。だから例えばこの場面でここで首を上げて相手を見なさいよとか、そういう具体的な指示はほとんど撮影中にはなさらないですね。でも監督の話というのはとても楽しくて、聞いているとすごく気持ちが安らかになるような感じなんです。お話ももともと上手な方ですし・・・


質問
 映画の中で、ヨンホはスニムを選ばなかったのですが、それはなぜだと思いますか。

ムン・ソリ
 『ペパーミント・キャンディー』の公開からだいぶたってしまったのでよく覚えていないのですが、今振り返ってみてもはっきりとしたことは自分自身でもわからないんです。私も食堂でヨンホに会うシーンを演じていた時でさえ、どうして彼はこんな態度をとるのか理解できなかったんです。自分に対してそういう態度を見せるということが想像もできないし、私にとっては、非常に衝撃的なことでした。でも映画の中のスニムという人は、ずっと生きてきて40代になってみた時に、ヨンホのことがわかったのではないかなと私は思うんです。生きていると人って自分の意図と違うような行動をしてしまったりとか、自分の望んだとおりにいかないようなことっていうことは、生きていくなかでたくさんありますよね。だからスニムは、40代になった時にやっと理由を問わなくても、ヨンホのことをきっと理解したのではないかなと私は思います。


質問
 脚本の設定の上で、ヨンホがスニムを選ばなかったのは、光州事件や、その後、ヨンホが警察に入ったことと関係があるのですか。

イ・チャンドン
 ヨンホがスニムを選ばなかったという行動を政治・社会的に分析すれば分析できると思います。やはり光州事件が大きな引き金になっていて、彼は光州事件によって変わってしまうんですね。ヨンホの人生の中で、光州事件だけが、彼が自分で望んだ選択ではなかったのです。外部から与えられた状況の中で、光州事件と巡り合ってしまって、自分の意志とは関係のないところで自分の手を血に染めてしまう。そのことによって、彼の人生は、変わってしまうというのは確かなんですけれども、でも、その後の選択というのは、結局はキム・ヨンホ自身が選択したことになるんですよね。警察に入ったのも、スニムを追い返してしまったのも、ホンジャを選択したというのも全て彼の選択によるものだったんです。
 キム・ヨンホに限らず、誰であっても世の中を生きている全ての人というのは、人生においてどうしても愚かな選択をしてしまいがちだと私は思います。愚かな選択をすることは自分自身を裏切るということでもあり、日常生活の中ではたくさんあると思うんです。スニムを選ばなかったということは、ヨンホの人生にとっては最も愚かな選択だったのですけれども、人の人生というのは、愚かな選択とアイロニーに満ちているのではないでしょうか。そういったこともいろんな多くの人に気づいてほしいなと思いましたので、ああいう設定をしたわけなんですけれども、ヨンホがスニムを選ばなかったというのは、本当に愚かであり最も彼の人生において残念な選択だったのではないかと思います。


質問
 昨年の釜山国際映画祭、そして東京のアジア・フィルム・フェスティバルで上映されたバージョンと比べて今回福岡で上映されるバージョンは編集が少し違っているそうですが、今回のものの方が監督のイメージ通りに仕上がったと考えてよろしいのですか。

イ・チャンドン
 釜山国際映画祭で上映した時は、繊細に気をつかいながら細心の注意を払って編集するという時間的余裕がありませんでした。なにか間に合わせて作った形になったのですが、その後、もう一度余裕を持って改めて編集をしまして、時間的には6分ぐらい切り、場面の入れ替えもちょっと行いました。このバージョンが今回上映されるものです。でもきっと両方観たとしても観客の皆様は大きな違いはないんじゃないかなという印象を持たれると思います。韓国での一般公開も今回と同じものです。


質問
 『グリーンフィッシュ』と『ペパーミント・キャンディー』で河原でのピクニックのシーンとか汽車が出てくるシーンとか共通するところがあるのですが、そういったものについて、監督は何かこだわりがあるのですか。

イ・チャンドン
 汽車はとても好きですね。ただ何気ない風景でも汽車が一回通り過ぎることによって、その風景が違って見えたりするような気がするんです。そういうところでこだわりがあるのかもしれません。でも、汽車というものは面白いもので、汽車が通り過ぎると何故か人はよく手を振りますよね。バスが通り過ぎても手は振らないのに。だから手を振りたくなるという衝動を与えてくれるということは、説明できない何かが汽車にはあるのではないかなという気がします。
 汽車は私がとても好きなので入れているのですけど、ピクニックの場面は、特に私が好きだから入れているのではなくて、ピクニックにみんなで行くというその行動自体、非常に韓国的な行動なのです。韓国の人は実際ピクニックが好きなんですね。ピクニックは、韓国人らしさを最も上手く表している状況だと思って映画の中に取り入れました。韓国の人はよく家族同士でピクニックに行きます。『グリーンフィッシュ』の場合は、お母さんの誕生日ですよね。何かいいことがあった時とか、何かそういう特別な日によく出かけて行き、みんなで集って外で食べ物を作って食べるんですが、必ずそこでケンカがおこるんです。絶対というわけではないのですけれど、せっかくいい日にみんなが集っているのに何か問題を起こしたりというケースが非常に多いのです。ああいうピクニックの場面というのは、韓国人の心の風景をよく表しているとも言えますし、韓国の人たちの人生、生きている姿を最もよく表していると思います。非常に人間的であり、韓国的であり、映画的だという気がします。


質問
 ムン・ソリさんは、演劇で光州事件を扱った作品に出ていたと伺ったのですが、この作品が、光州事件をテーマにした作品だからオーディションを受けられたのでしょうか。

ムン・ソリ
 私は、大学時代、演劇をやっていまして、1年に2本ずつ演劇に出ていました。その中の作品の一つがたまたま光州事件を経験した人の物語だったということがあるのです。しかし、私が、大学に通っていた当時というのは、社会的なモチーフとか社会的な主題を描いた演劇はよく上演されていました。でも、『ペパーミント・キャンディー』は、それとは全く関係がなくて、私は光州事件が描かれているということも知らずにオーディションを受けました。だから具体的にどういう内容でどんな人たちが出てくる映画なのかという情報があまりない時点でオーディションを受けたのです。でも、イ・チャンドン監督が『グリーンフィッシュ』の監督だとは存じ上げていました。これは誰でも応募できると聞かされましたし、新しい顔、新人女優を探しているということで、オーディションを受けたのですが、受けたのは本当に偶然で、イ・チャンドン監督の作品だということで非常に期待していました。


質問
 今後は演劇で活動されるのですか。それとも映画で活動されるのですか。

ムン・ソリ
 私は、できたら映画の方をやりたいと思っています。これまでも職業として舞台女優、演劇俳優をしていたことはありません。確かに劇団に少し所属していたことはあるのですが、それは大学を休学していた時期で、大学を正式に卒業してから職業として舞台俳優になったことはありませんでした。演劇の勉強は続けていたのですが、結局、卒業してからは初めて映画に出演しましたので、これからもずっと映画をやっていきたいなと思っています。


質問
 ソル・ギョングさんも演劇出身の俳優ですが、監督は演劇出身の俳優を好んで使う傾向があるのですか。

イ・チャンドン
 特別に舞台俳優を好んで選んでいるわけではありません。演劇における演技と映画における演技は違うものだと私は思います。演劇の演技から映画の演技に適応できる人というのも思ったより少ないのですが、今回の『ペパーミント・キャンディー』に限っては、新人を使いたいと思いました。観客が見た時に、この人誰だろうと思うような見慣れた顔じゃない人、あまり観たことがない人を使いたいなという気持ちを最初から持っていましたので、その意志を貫徹したことになります。でも、いくら新人とはいってもやはり演技の経験がないといけないと思いましたので、そうなってくると当然演劇の方で経験のある人ってことになってしまって・・・ ムン・ソリさんの場合には、正式にどこかの劇団に入っているわけではなかったのですけれども、他の配役に関してはやはり多少なりとも演技の経験があったほうがいいと思いましたので、演劇の経験のある人から選ぶということに結果としてなりました。


質問
 ムン・ソリさんは映画と演劇の違いを感じますか。

ムン・ソリ
 ええ、違うと思います。私は、演劇というのは人のエネルギーで完成させるものであるのに対して、映画は非常に機械的だと本で読んだり聞かされていました。映画は機械の力を借りて完成させるものだ、というようなそういう考えを持っていたんです。実際、演劇には人のエネルギーを感じますし、私自身エネルギーを発揮して人の前でそれを出す、そういうことをしていました。だから確かに演劇には人のエネルギーというものを感じてきたのですけれども、実際映画をやってみて驚きました。映画というのは機械の力というよりやはり映画も人の力、それも様々な分野の人々が一同に集ってひとつのものを作りあげるというそういう人の力を感じました。現場にいる全ての人たちが、最善を尽くして自分の仕事にあたって、不可能ではないかと思われることでさえ、しっかりと頑張ってやり遂げていましたので、その点では、本当に驚きました。


質問
 ムン・ソリさんの今後の映画の出演予定は決まっていますか。どいう役をやってみたいですか。

ムン・ソリ
 次の出演予定は、まだ決まっていません。特別にこういう役をやりたいというものはないのですが、私自身が感情を上手く汲み取れる役、そして私自身が頭の中で思い描けるような役をやってみたいなと思います。案外役を見てみると、私自身何も感じられないような役とか、時々あるんですね。もちろん女優ですので、今後、多くの役をこなしたいという気持ちはあるのですが、何かひとつ私がこれなら得意だな、できるなというものを見つけたいと思っています。現在、どういう役をやろうかなということを考えています。


質問
 好きな俳優とか目標にしている俳優はいますか。

ムン・ソリ
 私は映画に出演する前に、映画を観に行くとよく俳優の演技を観ながらこの人の演技おかしいなとか何であんなふうな演技をするんだろうといちいち文句を並び立てていたのですが、『ペパーミント・キャンディー』で自分が映画に出てからはそういうふうな見方をすることが全くなくなって、本当に立派な俳優さんが多いなと思うようになりました。
 イレーネ・ジャコブがとても好きで、彼女は誰が観てもモデルみたいなすごい美しさを持っているのですが、そのかわり平凡なものも持ち合わせていて、観ている人がハラハラするような気持ちになるくらい中間にいるような人という気がするんですね。女性はその二つを持ち合わせていなければいけないという気がします。そういった点では、両方を持ち合わせているということで彼女は素晴らしいと思います。道を通り過ぎる誰が見ても普通の人の演技もできるし、また、俳優としての長所も持っている、そういう雰囲気はとても好きだなと思うのです。だからといってこの人が大好きだから自分の目標にしようというような人が絶対的にいるわけではないのです。


質問
 ムン・ソリさんは監督の小説を読んだことはありますか。

ムン・ソリ
 もちろんです。有名な小説家ですよ。


質問
 日本では、まだ紹介されていないので、どういう小説家だったのか教えて下さい。

ムン・ソリ
 監督自身、怠け者の小説家だとおっしゃっていました。確かに作品の数は多くないのですが、ぱっと思い浮かぶ小説の中に描かれているキャラクターは、非常に弱い面を持った人で、何か無能で弱く見えるけれども、何か憎めないような人です。監督もそういう人が好きみたいで、好んでそういう人物を小説の中で描いていたようですし、映画にもそういう人物が出てきます。だから、そういった無能で弱く見えるし、憎みたいけど憎めないような人物を描くのが得意な小説家だったのではないでしょうか。

イ・チャンドン
 映画が紹介されるより、文学が紹介されるほうがもっとたいへんですね。特に私の小説は大衆性が無かったので韓国でもあまり読まれていません。ましてや日本に紹介されるのは難しいでしょうね。

ムン・ソリ
 私が学生の頃は有名でしたけど。

イ・チャンドン
 大学生とか文学を志望していた人たちは読んでいたかもしれません。そんなに大衆には受け入れられていませんでした。


質問
 監督の次回作の予定はいかがですか。

イ・チャンドン
 まだ構想中です。


質問
 イ・チャンドン監督もムン・ソリさんも今後の活躍を期待しています。今日はどうもありがとうございました。


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