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Review 『私の愛、私のそばに』

Reported by 加藤知恵
2011/2/17


 2月12日(土)、名古屋の伏見ミリオン座にて、『私の愛、私のそばに』の公開初日イベントが開かれた。この作品は、進行性の難病「収縮筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の患者である主人公と、幼なじみの女性との純愛を描いたラブ・ストーリー。当日は日本ALS協会愛知県支部の方々がゲストとして参席され、直接お話を伺う機会を得た。

 ALSとは、運動神経が侵されることにより全身の筋肉が麻痺し、段階的に言語機能・呼吸機能に障害が及んでいく原因不明の難病。日本国内にも約8,000人の患者がおり、いまだ効果的な治療法は見つかっていない。最も有名なALS患者として、イギリスの宇宙物理学者スティーヴン・ホーキング博士が、車椅子に設置された音声システムを通して学説を発表する姿を記憶されている方も多いだろう。

 伏見ミリオン座では、以前にも同病を扱ったフランス映画『潜水服は蝶の夢を見る』の公開時に、日本ALS協会とのタイアップ企画を行っている。上映イベントを通じてALSへの理解を深めることが目的だが、車椅子や呼吸器を利用し闘病生活を送る患者の方々にとっては、映画館で映画を鑑賞することのできる非常に貴重な機会にもなる。今回観客として来場された患者のKさんは、「このような場でなければ映画を見る機会はない。せっかくなので今日はゆっくり楽しみます」と文字盤を使って気持ちを伝えて下さった。


日本ALS協会愛知県支部 支部長・安藤清彦氏(中央)
事務局長代理・水谷和枝氏(左)

 本作の監督は、老夫婦の性生活を扱い物議を醸した『死んでもいい』(2002)でデビュー以来、『ユア・マイ・サンシャイン』(2005)、『あいつの声』(2007)などのヒット作を手がけるパク・チンピョ。彼はテレビ局のプロデューサーとして過去に30本以上のドキュメンタリーを制作した経験を持つ。『ユア・マイ・サンシャイン』ではエイズ、『あいつの声』では誘拐のように、前衛的・衝撃的な素材を扱いつつ、淡々と写実的に心理描写を重ねる作風が彼の特徴だ。

 パク監督の厳しい要求に応え、まさに「命を懸けて」主人公ジョンウを演じたのは演技派キム・ミョンミン。彼はこの撮影のために20キロも減量し、実際に低血糖症にかかりながら、意識が朦朧とする中で演じ切ったという。背骨や肋骨があらわになるシーンは生々しく、病気の進行とともに感情が荒んでいく過程も、キム・ミョンミン自身の苦痛が反映されてか説得力がある。当初ジョンウ役に決定していたクォン・サンウの降板が話題になったように、鍛え上げた肉体を誇りにする韓国人俳優にとっては、精神的にもかなり負担の大きい挑戦だったはずだ。

 そんな過酷な状況にあるジョンウ=キム・ミョンミンを、劇中・現場ともに献身的に支えていたのが恋人ジス役のハ・ジウォン。慈愛に満ちた笑顔と、真っ直ぐで愛嬌溢れるキャラクターが、見る者の心も癒してくれる。この作品によりキム・ミョンミンとハ・ジウォンは、韓国内で最も権威ある「青龍映画賞」の主演男優賞・女優賞をそろって受賞した。

 ハ・ジウォンといえば、2009年に韓国内で1,100万を動員した大ヒット作『TSUNAMI ツナミ』にも主演。その相手役のソル・ギョングは『あいつの声』で主役をつとめ、パク・チンピョ監督とも親交がある。実はこの作品には、ハ・ジウォン、パク監督両者への義理からソル・ギョングも特別出演を果たしている。植物状態から奇跡的に意識を取り戻す患者の役で、登場するのはほんの一瞬だが、彼独特のいたずらっ子のような微笑みに、思わずにやりとしてしまった。

 さらにエンド・クレジットの“スペシャル・サンクス”で、最初にイ・チャンドン監督の名前を発見。残念ながら理由は定かではないが、劇中、自力では蚊も殺せないほど病状が進行したジョンウが、突然起きあがり軽やかにダンスをしながらジスへ電話をかける幻想シーンがある。イ・チャンドン監督、ソル・ギョング主演の『オアシス』(2002)で、ムン・ソリ演じる脳性麻痺の女性の心理描写にも使われている表現だ。イ監督と『オアシス』へのオマージュの意味が込められているとすれば、韓国映画ファンにとっては見逃せない場面といえるだろう。

 多くの俳優・スタッフに愛されて完成し、ALSという病名の認知度アップにも貢献した本作だが、監督によれば「決してALSのドキュメンタリーや、社会的なメッセージを込めた作品ではない。あくまでも愛を描いた作品であり、生きるために愛する、愛するために生きる人たちの姿を描きたかった」とのこと。しかし、韓国での公開時、記者からは「不治の病に冒されていることを知りながらプロポーズするジョンウと、それを受け入れるジスの心情が理解できない」という意見もあがったそうだ。確かに若干強引さを感じる部分は否定できないが、「今を大事に生きる」「愛とは燃え尽きるもの」を信条とするジスが、限られた残りの人生を誰よりも精一杯生きようとするジョンウに心惹かれ、彼に無償の愛情を注ぐことで自分の存在意義を見出していく過程には説得力がある。韓国での試写会では、2009年に胃ガンで亡くなった人気女優チャン・ジニョンの夫も参席し、映画を鑑賞したとのエピソードを聞き、胸が痛んだ。

 当日、会場で、遺族でもある日本ALS協会の西尾氏に作品の感想を伺った。「患者と家族、双方の視点から描かれているのが良い。心理描写で共感できる部分も多く、特にハ・ジウォン演じる恋人が主人公の心情にしっかりと寄り添う姿が魅力的だった」とのこと。また「日本では性別・疾患・症状別に病室を分けて治療を行っている。それは一見綺麗で効率的かもしれないが、生活感は感じられない。この映画では様々な年齢・性別・疾患の患者が同じ病室で生活しており、患者は周りに見守られることで寂しさを感じないから嬉しいだろうと思った」と、日韓の治療環境の違いについてもコメントを下さった。

 「一日を一年と思って、何倍も幸せに生きよう」。これは西尾氏がもっとも心に響いたという劇中の台詞。日々を生きる姿勢を見直し、あきらめない心や愛について考える機会を与えてくれる、とても温かい作品だ。上映後、涙を拭いたKさんが、明るい表情で記念撮影に応じられていた姿が印象的だった。



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