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第49回アジア太平洋映画祭 リポート
『オールド・ボーイ』

Reported by 井上康子
2004/10/29受領



 毎年、アジア太平洋地区の各都市持ち回りで開催されているアジア太平洋映画祭が、2004年9月21日から25日までの5日間、福岡市内で開催された。期間中、韓国映画はコンペ部門に出品された『オールド・ボーイ』が上映され、カンヌ国際映画祭グランプリ受賞のため、最も注目を集めた作品であったが、本映画祭でも監督賞(パク・チャヌク)、主演男優賞(チェ・ミンシク)を見事受賞した。

 9月23日(木・祝)にAMCキャナルシティ13にて上映が行なわれたが、当日券が入手できない人を多く見かけ、評判の高さが実感できた。


『オールド・ボーイ』 2003年
 監督:パク・チャヌク
 主演:チェ・ミンシクユ・ジテ、カン・ヘジョン

 毎日を適当に過ごしているだけの平凡な男オ・デス(チェ・ミンシク)は、1988年のある日、突然拉致され、牢屋のような個室に監禁される。いったい誰が、どんな理由で、自分を監禁しているのか、一切を知らされないまま、拘束状態は続いた。テレビのニュースで自分の妻が殺害され、自分が指名手配されているのを知り自殺を図るが、それさえ果たすことが許されない。圧倒的な孤独感の中、復讐を誓うことで自分自身を再生させていくオ・デス。

 しかし、突然15年ぶりに彼は解放される。そんなデスの前に若い女性ミド(カン・ヘジョン)が現れる。そして、ついに彼を監禁した謎の男イ・ウジン(ユ・ジテ)が現れる。監禁の理由を5日以内に明らかにしろと迫るイ・ウジン。実はウジンにとっては、15年の拘束は復讐の準備に過ぎなかったのだ。彼は真の復讐のために想像を絶する策略をはりめぐらしていた。


レビュー

 主人公オ・デス、敵役イ・ウジンの復讐心が鬼気迫る残酷さとおぞましさとなって、そして、彼らの凄まじい喪失感と孤独感が圧倒的なパワーとなって観客に迫ってくる。衝撃の復讐サスペンス・ドラマ。

 2003年の『オールド・ボーイ』韓国一般公開前のプレス試写時の記者会見で、パク・チャヌク監督は次のように話していた。

「良い人の姿でさわやかな笑顔と善良な目つき、そういうのをもった人を見る度に、“だまされないぞ”と心で思うんですね。“それは、みな嘘だ”と思います。」

 シニカルな含みたっぷりの表現であるが、これは言い換えれば「良い人だと思って接している人も、過酷な環境に置かれると、それまで見せなかった凶悪さを示してしまうものだ」ということであろう。

 『JSA』では北朝鮮側の歩哨小屋での南北兵士の微笑ましい交流の場を一転して惨劇へ、『復讐者に憐れみを』では工場の社長ドンジンを、娘を理不尽に奪われた復讐心から殺人鬼へと導いたパク監督の最大の関心はそこにあるのであろう。

 「復讐は健康にいい」とうそぶく謎の男イ・ウジンも、彼の主観的世界に立ち入って見れば、ズタズタに傷つき、その傷を癒す術を他に見出せず、復讐を自分を癒す処方として求めざるを得ない、追い詰められた人間だ。また立場は異なるが、オ・デスも彼の置かれた過酷な環境ゆえに、眼光鋭く復讐を誓う人間へと変貌してしまう(チェ・ミンシクが、復讐心をむき出しにして、日本料理屋で生きたままの丸ごとの蛸を、顔に吸盤を貼り付けさせながら、かぶりつく様は鬼気迫っている)。

 この作品は日本の土屋ガロンの同名のコミックを原作にしている。私はこの原作は未見だが、強烈な劇画タッチで話題になった作品だそうだ。その影響を受けて、というより、パク監督がこの作品については、独自にこのような演出方法を採用したためだと思うが、薄暗くよどんだ空気を感じさせる照明の使い方、監禁部屋をはじめとして、ほとんどが閉鎖された空間のシーンを用い、緊張感を高める方法は劇画のタッチを連想させ、登場人物の孤独感や苛立ちを強く感じさせている。映像処理も巧みで、デスが18人のヤクザを相手に一人で戦うという印象的なシーンも、CG処理なしの長いワンショットで撮ることで、デスの超人性でなく、深い孤独感を際立たせている。

 デスとウジンの抱いている深い孤独感は、彼らがたとえ望んでいるような復讐を成し遂げたとしても、そのことが彼らに何ももたらさないことを、強く自覚していることによるものだ。ウジンの次のせりふはそのことを明確に表現している。

「復讐が実現したらどうなるか? きっと、隠れていた苦痛がまた現れるさ。」

 けれどパク監督は、単なる復讐もので物語を終結させていない。デスのある行為によって復讐という行為は断ち切られるのだ。だがそれは、あまりに無残な犠牲をデスに要求するものであった。しかし、その犠牲ゆえに、何らかの救済がデスにはもたらされるとパク監督は考えている。デスの払った犠牲と、その後に彼に訪れた救済により、私たち観客も悲しみと美しさを、この作品の余韻として味わうことができるのだ。

 チェ・ミンシクは、撮影中に体重を10kg増減させたというが、拉致前の腹の突き出た能天気な酔っ払いから、拉致後の無為な日々に精神をさいなまれる姿、復讐心に鬼気迫る姿へと、自在に自身を変化させていて、見事としか言いようがない。

 ユ・ジテは、良い人の代表選手のような役ばかり演じてきている俳優で、彼を悪役として起用することは話題性にも富んでいたし、何より「良い人の姿をしていても、それは嘘だ」というパク監督の意図を表現するのに、彼のこれまでの「良い人」のイメージを利用したのではないだろうか。また、ユ・ジテ側も悪役で新境地を開きたいという思いがあっただろうと推測する。謎の男だけに、数少ないシーンに効果的に登場している。

 カン・へジョンは妖婦のような色気と、童女のような純粋さを併せ持っていて、この作品の中で求められている複雑で重要な役割をきちんと果たすことができている。

 また、チョ・ヨンウクによる音楽は美しく、暖かみのある曲で、登場人物たちの悲しみを癒そうとしているかのようで、この作品を鑑賞する際の大きな救いになっている。

 カンヌでの上映時も、この作品の過度な暴力描写に対しては批判の声があったが、パク・チャヌク監督作品のファンとしては、作品中の暴力的な描写のために、作品そのものが、日本の観客に敬遠されないことを願う。昨年、韓国の百想芸術賞大賞で、この作品により、監督賞を受賞したパク監督は

「今まで、暴力的な映画をたくさん作ってきましたが、私が映画で描写した暴力は、暴力の無用さや、暴力がいかに人間性を破壊するかをお見せするためでした」

という言葉を挨拶に含めた。何より作品を見れば明らかなのだが、暴力性や残虐さそのものを楽しむような映画とは全く違うのだ。

 暴力的と聞いて敬遠されている方がいるとしたら、監督の上記の言葉を思い出して再考していただきたい。カンヌでグランプリも得た、まさに最高峰の作品なのだから。


ティーチイン

2004年9月23日(木・祝) AMCキャナルシティー13にて
ゲスト:プロデューサー キム・ドンジュ

 本日はこの作品を御覧いただきましてありがとうございました。私は日本に来るのは二度目で、前回は同じく私がプロデュースした『友へ/チング』のキャンペーンでの来日でした。映画が終わった後で、皆さん、たいへん居心地が悪い雰囲気をおもちだと思います。というのは、この作品のテーマは「復讐」で、居心地が悪い雰囲気になっていただきたいというのがこちらの意図ですので。ヨーロッパの劇場では、上映中に席を立たれた方もいらっしゃったそうです。皆さん御存知と思いますが、この作品は日本のコミック『オールド・ボーイ』を原作としています。


(左)プロデューサー キム・ドンジュ氏

Q: 日本のコミックが原作になっていることに興味をもっている日本人は多いと思います。原作とはどのように遭遇されたのでしょうか? また、原作とこの作品のストーリーはどのような関係になっていますか? それから、ストーリーに本作で素材とされた、あるスキャンダラスな内容を含めることについては議論がおありだったと思うのですが、その点についてもお聞かせください。
A: 原作との遭遇についてですが、私の会社ショー・イーストの者が「ぜひ、読んでほしい」と原作のコミックを持って来てくれて出会いました。韓国でも韓国語に翻訳された本が出版されています。「復讐」がテーマになっている話なので、社会的にどう評価されるか悩んだ部分もあったのですが、やってみようということになり、原作者に映画化の許可を求めました。原作者の土屋さんが気になさったのは、どの監督によって映画化されるかでした。『JSA』を作った評価の高いパク・チャヌク監督ということで納得していただき、映画化の許可をいただくことができました。原作とこの作品には、「復讐」、「監禁」といった素材の共通性はありますが、ストーリーは全く異なっています。良い監督、チェ・ミンシクという良い役者、良い撮影監督と、映画化に向けて話はとんとん拍子に進んだのですが、投資家がなかなか見つかりませんでした。やはりそれは、この作品の「スキャンダラスな内容」、「暴力」を描いていることについて、投資家からなかなか賛同が得られなかったためです。しかし、最終的には22人から投資をしてもらえ、こういう結果になりました。この映画は2003年11月21日に韓国で公開されましたが、とても大きなセンセーションを巻き起こしました。その時は私の会社にも苦情の電話がかかってきました。特にスキャンダラスな部分については本当にたくさんの波紋を呼び、韓国で18歳以上鑑賞可のレイティングに指定されました。また、アメリカでは輸入自体が見送られました。このスキャンダラスな内容は、どこの映画界でもトピックスとしてあまり使いませんが、韓国人は技術も勇気もありますから、あえて使いました。このことについて言えば、監督も俳優も、またこの映画に投資してくださった方々もとても勇気があると言えると思います。こういう難しいトピックを使ったにしても、この映画が成功できたということは、この映画によって皆さんの考え方を変えられたのではないかと思っています。

Q: 投資家を集めた際の苦労話を具体的にお聞かせください。
A: 韓国では普通一本の映画につき、3〜4人の投資家がつくんですが、今回は22人でした。最初はこの作品のコンセプトが理解されなくて拒否されることが続きました。ですが、めげずに投資家の皆さんのオフィスやお宅に出向いて、とにかく説得の毎日でした。投資家の皆さんは銀行の方や、お金持ちの方で、40〜50代ということで、頭が固いんですね。それで「御自分の息子さんや娘さんに、この脚本を見せてください」とお願いしました。若い方なら、週に1〜2回は映画を観に行っているので、この作品のコンセプトを理解してもらえると思ったからです。後は「ギャンブルだと思ってチャンスをください」という説得もしました。最終的には、公開時の興行成績は、韓国では『キル・ビル』(韓国では『オールド・ボーイ』と同日公開になり、話題となった)の4倍で、投資家も含めてスタッフもキャストも泣いて喜びました。

Q: 今年のカンヌはいつもと受賞作の傾向が異なっていたと感じましたが、この作品のグランプリ受賞はどう評価されていますか?
A: 審査委員長のタランティーノ監督が『オールド・ボーイ』にパルム・ドールをと考えてくださったことはうれしいことでしたが、アメリカとフランスの政治的なこともありますし、『華氏911』はドキュメンタリーということもありますし、グランプリ受賞に我々は満足しています。今日は皆さん、この映画を見てちょっと居心地が悪いと思いますので早くおうちに帰って寝るようにしてください(笑)。


取材後記


「これが、きっと私の天職なんです(キム・ドンジュ プロデューサー)」

 プロデューサーという立場の人から、仕事の内容を生で具体的に伺ったのは初めてで、たいへん興味深かったし、またプロデューサーの果たす役割の大きさが改めて実感できた。

 2004年7月23日にTV東京系で放送された『“韓流”奔る 〜韓国映画ビジネスの奇跡〜(日経スペシャル/ガイアの夜明け)』では、『オールド・ボーイ』のカンヌにおけるグランプリ受賞の立役者として、キムさんの仕事振りが紹介されていた。『オールド・ボーイ』の成功以降も資金集めに奔走し、「でも、これが、きっと私の天職なんです」と語る潔さが印象的だった。

 彼のプロデュース作品は今後も続々と日本で公開されるはずで、これまで私は製作者名に無頓着だったが、これからは上映時に製作者名を必ず確認することだろう。


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