私が音楽監督のチョ・ソンウさんに会ったのも、『ラスト・プレゼント』の音楽に出会ったのも、映画を見る前だった。チョ・ソンウさんが『春の日は過ぎゆく』(2001)のミキシングのため来日した時、通訳をした私に記念にと『ラスト・プレゼント』のサウンド・トラックをくれたのだ。

 正直に告白すると、私は映画を見るのは好きだけど、映画音楽に関してはあまり知識がない。映画監督の名前と作品を一致して覚えるのも苦手である(映画学科を卒業したというのがとても恥ずかしい)。音楽を聞いただけで、「あ、これは○○映画の曲だね」という友人をとても尊敬の目でみてしまう私である。

 そんな私がチョ・ソンウ監督の通訳をすることになった。緊張感が滝のように流れた。それに通訳の前にチョ・ソンウさんのプロフィールを見ると、なんと哲学博士ではないか! きっと難しい話をするに違いない。私の緊張感は滝をこえ、滝壷に落ち、腹痛にまでなりそうだった。

 こんな私の悩みとは正反対の人がチョ・ソンウさんだった。近所のお兄さんと言ったら失礼かもしれないが、人の良さが笑顔と一緒にこぼれてる人だった。

 チョ・ソンウさん、彼の映画音楽は、彼の名前を知らない人でも韓国映画が好きな人なら必ず耳にしているはずだ。日本でも公開された映画では、ホ・ジノ監督の『八月のクリスマス』(1998)、『春の日は過ぎゆく』、イ・ジェヨン監督の『情事』(1998)、『純愛譜−じゅんあいふ−』(2000)、ミン・ギュドン&キム・テヨン共同監督作品『少女たちの遺言』(1999)などがある。その他にも『ラン・アウェイ』(1995/未公開)、『約束』(1998/未公開)、『NOWHERE 情け容赦無し』(1999/劇場未公開)、『ほえる犬は噛まない』(2000/公開予定)、『私にも妻がいたらいいのに』(2000/劇場未公開)、『セイ・イエス』(2001/未公開)、『海賊、ディスコ王になる』(2002/劇場未公開)などがある。日韓合作TVドラマ『フレンズ』の音楽も彼の手によって作られた。あ、そうだ、今年の東京国際映画祭に出品された『スリー』(2002)というオムニバス映画の一編『ゴーイング・ホーム』の音楽も彼が作ったのだ。

 ここまで書いたら、あ、そうか!と自分がみた映画を思い出した方も多いのでは。私達は映画音楽のことに詳しくなくても、チョ・ソンウ監督の音楽を結構身近で聞いているのだ。

 あまりにも映像とマッチしていて、まるで音楽が映像と一緒に呼吸しているようなチョ・ソンウさんの音楽。映画を見る前に音楽を聞き、泣いてしまったのが『ラスト・プレゼント』のサウンドトラックだった。そして、映画を見た時は更に大泣きしてしまった。映画を見終わった後でも、音楽を聞いただけで胸が熱くなり、涙が落ちてくるのだ。まるで音楽の催眠にかかったような・・・

 その悲しくも美しいサウンドトラックのメインテーマ曲『LAST PRESENT』を演奏したのは、神秘的で夢幻的な旋律で愛されてきたノルウェーのニューエイジ・グループ「シークレット・ガーデン(SECRET GARDEN)」であることはあまりにも有名だ。このメインテーマはシークレット・ガーデンの四枚目のアルバムにも入り、全世界で発売された。韓国国内の作曲家の音楽が、公式にロイヤリティを受け、海外アーティストのCDに収録されたのは初めてのことだ。

 シークレット・ガーデンの他にも、『幸せと呼ぶ翼』に音色を入れたグループ「動物園」。「動物園」は韓国で1988年に『街で』、『伝えなかった恋』などが入ったアルバムでデビューし、純粋な世界を聞かせてくれるグループだ。そして、叙情的なバラード『恋人』でデビューした新人歌手「RYU」が感動的なエンディング・テーマ・ソング『プレゼント』を歌い、またイ・スギョンさんが作詞したメインテーマ・ソング『ラスト・プレゼント』を、『愚かな別れ』というヒット曲を持ちながらもメディアに顔を出さない歌手として知られているチョン・ジェウクが切々と歌い上げている。

 これらすべての曲を作曲したのがチョ・ソンウさんである。映画音楽を作る度にオリジナル曲を作ってきたチョ・ソンウ音楽監督は、今回の『ラスト・プレゼント』でも変わりなく彼のオリジナル曲で映画全体を包み込んでいる。

 通訳の時、チョ・ソンウさんの次の言葉が印象深く残っている。

「映画音楽とは、曲の入らない場面の繊細な情緒のため、その前と後ろをどう音楽的に処理するかが大事で、曲の入ってない場面までも含めて映画音楽だと最近思うんです」

 この人は、映画全体を見てる人だなとその時思った。そして、彼のその優しさが映画『ラスト・プレゼント』の中にも入っていると思う。

 私は、映画『ラスト・プレゼント』で、チョ・ソンウさんの音楽がないことを想像できない。空気のように風のように映像と一体化し、そして波のように見ている者の感情を盛り上げてくれる。『ラスト・プレゼント』のサントラCDを聞くたびに、あの切なさ、優しさの世界に包まれる感動が呼び起こされ、慌ててハンカチを取り出す始末である。


<筆者プロフィール>
 韓国ソウル生まれ。1992年に来日し、日本大学大学院映像芸術専攻修了。現在、KNTV 在日コリアンニュースのアナウンサーをつとめるほか、NHKのラジオハングル講座や「とっさのハングル」、放送大学の韓国語講座に出演中。これまで、映画『RUSH!』、NHK正月ドラマ『韓国のおばさんはえらい』、舞台では藤本企画『魂込め』、『THEいじめ』、北区つかこうへい劇団『二等兵物語』、新国立劇場『その河をこえて、五月』などに出演。




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