これまで日本で紹介され、大きな話題を読んだ韓国映画は『シュリ』と『JSA』。この2作ともが、南北分断に絡んだ作品だったので、韓国映画は政治色の感じられるものが主流なのだと思う人も多いかもしれない。しかし、本来韓国映画界が好み、しかも最も得意なのは、ラブストーリー、韓国では「メロドラマ」と呼ばれるジャンルだと思う。

 思えば、このブームは96年の『ゴースト・マンマ』という作品(事故で亡くなった妻が、嘆く夫を心配して幽霊になって姿を現すという作品)あたりから始まっていたが、それが決定的となったのは97年の『接続』(インターネット・メールを通じて育む愛の話)だった。このラブストーリーの流れは、『手紙』『エンジェル・スノー』のように思い切り泣かせるものから、『八月のクリスマス』『情事 an affair』のように、抑えた描写で描かれる恋愛ドラマまで、モチーフもさまざまに繰り返し生み出されている。

 韓国らしさということで言えば、やはり泣かせの入ったメロドラマ作りの上手さは特筆ものだ。日本の映画では、泣けそうだと期待して見に行っても、じわじわとは来るのに、感情の頂点に達してぼろぼろと涙があふれ出るというところまで行ってくれない作品が多い。うーん、惜しい、もっと泣きたかったのに・・・と思いながら映画館を後にすることが少なくないのだ。これは、作り手側の日本人特有の照れが、あまりにあからさまに泣かせるようにもって行くのを邪魔するせいかもしれない。しかし、観客としては、予告編や、映画のポスター、宣伝コピーを見た段階で、ある程度泣けることを期待して見に行っているのだ。だったらやっぱり期待通りに泣かせてくれなくちゃなのである。

 その点韓国は、感情を思い切り表に出すことをよしとする国民性だ。しかも悲しくて泣ける話が大好きな人たちである。そんな韓国らしさが全面に現れているのが『ラスト・プレゼント』だ。泣かせのうまさは天下一品。情感を盛り上げ、奇をてらうこと無く、気持ちをストレートに伝えてくる。そしてこれでもかというほどの涙腺を刺激する演出が出てきて、感情がグググッと一気に盛り上がる。泣くつもりも無かった人でも泣かされてしまう。この誰も抗うことの出来ない有無を言わさぬ涙攻撃。これを「催涙映画」と呼ばずして何と言おう。

 これを「ベタな展開」と呼んで引いてしまう人もいるかもしれないが、あえて言う、ベタだっていいじゃないか。むしろ荒んで冷めている今の世の中にあっては、このベタさが心地いい。互いを思いやり、美学を貫き通そうとする果てに流される涙。こんな美しい感情が人間にはあったんだなあ、私たちにも同じ気持ちがあったよなあという懐かしさ、優しさがこみ上げ、涙があふれ出る。かくして観客は皆ハンカチが必携になってくる。

 『ラスト・プレゼント』は、韓国では2001年の3月に封切られたが、封切後2日間でソウルで9万2000人(全国で23万人)を動員し、2001年、年明けからの韓国映画としてはハリウッド映画を押しのけて初めてボックスオフィス1位になった。韓国では3月は新学期、新年度の季節だけに通常観客があまり見込めない。にもかかわらず、これほど多くの観客が見に来たのは実に10年ぶりのことだったという。その1週間後に『友へ チング』も公開され、世の中『友へ チング』旋風が吹き荒れた。こうした苦戦を強いられる状況下にあっても、主に女性、カップルらの圧倒的な支持を集めて客足を伸ばし、最終的には全国で100万人を越す観客動員数となった。

 「笑いを届けるのが夫の使命だから、それを邪魔したくない」と、病気のことをひたすら隠しぬく妻を演じたのはイ・ヨンエ。『JSA』では颯爽と切れる女性将校を演じているが、今度は、生活に疲れ、体全体が丸みを帯びた少々ダサい主婦に扮し、気丈さとけなげさを表現している。この演技で黄金撮影賞の人気女優賞を獲得した。

 一方、事実を知りながらも妻の気持ちに応えて知らぬ振りを通し、仕事での成功を誓う夫には、若き演技派イ・ジョンジェ。売れないコメディアンという役柄だけに、いままでの出演作中、喜怒哀楽の表情が最も豊かで人間味に富んでいる。パントマイムの演技では、悲しみを覆い隠して演じるピエロの姿と重なって、より一層胸に迫ってくる。

 さあ、ここはひとつ、ささくれ立った心も、シニカルな感情もひと時忘れて、思い切り胸揺さぶられてみませんか。


<筆者プロフィール>
 慶応義塾大学文学部を卒業し、IBC岩手放送のアナウンサーに。
 94年からはフリーとしてTBS「ザ・フレッシュ」、テレビ朝日「スーパーモーニング」「ワイドスクランブル」など情報番組のリポーターとして阪神大震災やオウム真理教事件等の現場取材、ドキュメンタリー取材に立ち会う。97年、香港中文大学へ語学留学。99年帰国後は韓国エンターテイメントに目覚め、執筆活動を始める。これまでに数々の韓国のトップスターのインタビューをこなし、「みちのく国際ミステリー映画祭」の韓国映画のプログラミングなどを手がけている。著書に「韓国エンターテイメント三昧」「韓国エンターテイメント三昧vol 2」(芳賀書店)「コリアン・ムービースター男優編/女優編」(シネマハウス)などがある。




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