Text by anam/南優子 Photo & Video by 宮田浩史

1.監督登場

 2002年9月17日(火)、朝からの小雨もすっかりあがり、ほんの少し涼味も加わる中、銀座近くの料亭にて、『ラスト・プレゼント』のプロモーションで来日されたオ・ギファン監督の歓迎会が開かれました。

 出席者は『ラスト・プレゼント』の日本公開に携わる関係者の方々。メンバーがほぼ全員揃ったところで、オ・ギファン監督がご到着。この日の監督は、Tシャツにジーンズというラフなスタイル。頑丈な体格には不似合いなくらい満面に笑みをたたえての登場に、ついさっきまで感じていた緊張感は、一瞬のうちに解けてしまいました。
 監督が席につかれるとすぐ、順番に握手をしながらご挨拶。この日は関係者だけの夕食会ということもあって参加者は15名程でしたが、サポーターズ・クラブの私と宮田さんは、監督の真向いに座り、色々なお話をうかがうことができました。ちなみに、この日の通訳は、イ・ヨンエさんのエッセー『とても大切な愛』を日本語翻訳された金暎姫(キム・ヨンヒ)さんです。


オ・ギファン監督
 ほどなくすると、「カンパイ!」の音頭を合図に監督との歓談が始まりました。

 前日の9月16日、監督はアジアフォーカス・福岡映画祭2002で舞台挨拶をされており、同行された宣伝スタッフの方によると、上映された作品の中でも『ラスト・プレゼント』が一番盛況だったとのこと。「あんなに沢山の人が来て下さって、びっくりしました。立見の人の中には涙をこらえきれず、座り込んで泣き出した人もいて・・・」と監督もとても感激のご様子。

― 本当に反響がよくて、昨日は監督も凄いサイン攻めだったんですよ。監督、昨日何枚くらいサインされました?
「たぶん100枚くらいはしたと思います。本当にこんなに反響があるとは思っていなかったのでとっても嬉しいです。実は韓国のある劇場では、映画を観て失神されたご婦人がいたんです。私もその話を聞いてびっくりしましたが、その方はどうやら映画と同じような経験をなさったらしく、二ヶ月前にご主人を亡くされたそうなんです」

 韓国では100万人以上の人が『ラスト・プレゼント』を観たという。中にはこのご婦人のように自分の体験を映像に重ねて涙された方もきっと沢山いたことだろう。こうしてアジアフォーカスでの盛況ぶりに話が盛り上がり、周囲の称賛を受けながらも監督は「映画を観て、ここは直したほうがいいと思うところはなかったですか? 気になるところやおかしいと思うところがあったら正直におっしゃって下さい」と尋ねられ、みんな首を横に振りながら「そんな、とっても良かったです」と言うと「皆さんは、私が外国人だからそう言って下さるんじゃないですか?」と、とってもご謙遜。

監督「私は少し気になるところがあるんです」

― ええっ、どういうところですか?
「実は当初より少しだけカットした部分があるので、意味が分かりにくいところがあると思うんです」

 皆また首を横に振りながら、「どのあたりがですか? 全然分かりにくいと感じるところはなかったですよ」

― あっ、そういえば、監督に一つ聞きたいことがあるのですが、ジョンヨンみたいな重病人になると日本だと即入院するように言われて、そのまま病院で最後を迎えることが多いんですが、ジョンヨンはすぐ家に帰りましたよね。日本ではちょっと考えられないことなんですが、韓国じゃそういうことはよくあるんですか?
「ええ、そういうことはよくあります。韓国では、もう治る見込みがないと判断した患者さんに、最後は自宅で出来るだけ家族と一緒に過ごさせてあげようとするところがあります」

 気が付くと、次から次へとお料理が運ばれて来るものの、みんな話に夢中でテーブルの上は置き場所がないくらい。でも、仕方がないですね。この日のメインディシュはなんといっても監督の話なのですから。

― ところで、監督はこの映画で脚色もなさってますよね。どういうところを脚色されたんですか?
「お墓のシーンと家族写真を撮るシーンは脚本にはなかったんです。そこは後から私が付け加えました」

 すると、みんな口々に「あれはいいシーンですよね。あのシーンは絶対あった方がいい。あのシーンがなくては・・・」の声。

― 監督は編集もご自分でなさるのですか?
「いえ、編集は自分ではしないんですよ」

― じゃあ、その後のチェックは監督がされるのですね。
「最終的な仕上がりや、作品としてどうかは、モニターに観てもらって反応を見るようにしています」

 周囲から「ほう〜」と感嘆の声。監督はこの仕事をされる前、広告代理店に勤めていらしたそうで、どうやらその経験が活かされているらしい。

(2.へ続く)



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