※ この講座は『ラスト・プレゼント』の字幕監修をされた権賢珠さんの協力を得ています。

イ先生: さて今回で、『ラスト・プレゼント』を題材に連載してきたこの講座も最後となりました。
ユウキ: 『ラスト・プレゼント』ならぬ『ラスト・韓国語講座』ですな。
アイカ: ユウキ君のダジャレは最後まで冴えなかったわね。
イ先生: 私は充分楽しませていただきましたよ。お二人の掛け合いに。(笑)
ユ&ア: 先生、ヒドイ!
イ先生: さて(笑)、今までは毎回一つのシーンを取り上げ、内容を振り返りつつ言葉や表現の解説をしてきましたが、今回は最後ということもあり、映画の中に出てきた面白い慣用句、面白い表現、感動的なシーンなどを映画全体からいくつか抜粋して、それらの言葉や表現の背後にある文化的なもの、韓国らしいものを掘り下げて説明していきたいと思います。『ラスト・プレゼント』からはじめる韓国語講座の総集編みたいなものですね。
ユウキ: 最後まで気を抜かずに頑張るぞ。
イ先生: では始めましょう。

<ハングルとその発音1>


<和訳>
チョルス: 俺がゴマすりだとでも思っているのか

<講座>
イ先生: 映画の冒頭、ヨンギとチョルスコンビがテレビのお笑いプロの前座として出演していますが、前座のあと、テレビ出演にこだわるヨンギにチョルスが吐き出す台詞です。

 「サンマ」は、元々は日本語の三枚目からきている舞台用語で、「イ」が抜けて、「サンマ」になり、意味も転じて三流役者・大根役者の意味として使われるようになりました。ここでは賄賂やコネを使わないとテレビに出演できない役者の意味で言っています。字幕では「ゴマすり」と訳されています。

ユウキ: そんな言葉まで日本語から派生しているんだぁ。
アイカ: ユウキ君にぴったり当てはまるから、憶えておいた方がいいわよ、この言葉。
ユウキ: ちぇっ。


<ハングルとその発音2>


<和訳>
ジニョン: 素敵な雰囲気よね
ヘジョン: 本当に素敵

<講座>
イ先生: 映画の中盤頃、ジョンヨンが近所の友達二人と高級レストランで食事をするシーンがあります。ヨンギが準決勝進出を勝ち取ったお祝いとして、いつもお店に遊びに来る二人の女友達に食事を奢っていますが、その二人がおしゃれなレストランの雰囲気を指して、次のように言っています。

 「ブンイギ チュッギンダ(雰囲気殺す)」が転じて、「雰囲気が素晴らしい」という意味になっています。日本語の感覚からするとちょっと想像しにくいのですが、「チュッギンダ」は、普通に「良い」より、「とても良い」状態であることを強調しています。日本語だと、「いかす」、「いかしている」という意味に近いでしょうか。いい映画を観終わった後、「イ ヨンファ チュッギンダ」というと、「この映画は素晴らしかった」という意味になります。

ユウキ: ヨンファ『ラスト・プレゼント』 チュッギンダ!(笑)

<ハングルとその発音3>


<和訳>
ヨンギの父: 娘よ・・・

<講座>
イ先生: 閉店セールの看板を出し、セール品の整理をしているジョンヨンのお店にヨンギの両親が訪ねてくるシーンがあります。誰もが感動し、涙するシーンの一つですね。ヨンギの母親が、ジョンヨンに「お前は家の大事な嫁だ」と言い、それまでのわだかまりを払拭します。嫁に対して多くのことは語らなかった義父ですが、ジョンヨンに向かって話しかける次のセリフを覚えていますか?

 直訳すると、「小さい子ども、赤ちゃん、乳飲み子」の意味です。一般的に「アガ」は、非常に優しいいたわりのある意味として目下の女性に、特に嫁に対して呼びかける際によく使われます。とても大事に思っているというニュアンスがよく伝わる言葉で、優しくきれいな言葉なのです。勘当された息子を夫に持つジョンヨンにとっては、その一言だけで全てのわだかまりが払拭され、全てが許され、受け入れられたと思ったことでしょう。この一言は親子の絆の復活を象徴しているようにも聞こえます。

アイカ: 字幕では、「娘よ」となっているんですね。
イ先生:ええ。日本語にはないこの言葉のニュアンスを伝えるため、どのような字幕にすれば原語の意味に近づくだろうと、関係者の間でもいろいろ意見を出し合ったんだそうです。実は最初は、嫁に対して呼びかけているわけですから「ジョンヨン…」と訳されていたのですが、最終的に「娘よ」に軍配が上がったのです。これは日本語の表現としてはあまりピンと来ないのではというご意見もあろうかとは思いますが、少なくとも一番原語のニュアンスに近いのではないでしょうか。
ユウキ: この一言で僕の目は涙で曇りましたよ。
イ先生: 非常に短いこの一語に、単純に日本語に置き換えただけでは到底表現しきれない深い意味合いが含まれているのです。

<ハングルとその発音4>


<和訳>
エスク: もう男の子が二人もいるのよ

<講座>
イ先生: ジョンヨンの幼なじみのエスクが閉店間際のジョンヨンのお店に訪ねてきているシーンです。二人は、ひとしきり抱き合って昔を懐かしみ、会話を交わします。その中のエスクのセリフです。

 「コチュ」は、韓国料理好きの人なら必ず耳にしたことがあるでしょう。「唐辛子」のことです。しかし、上の台詞を「私には唐辛子が二つあるよ」と直訳しても何のことやらさっぱり分かりませんよね。

アイカ: もしかして「コチュ」が「男の子」をあらわしているんですか?
イ先生: ええ。実は男の子の体のある部分の比喩なんです。
ユウキ: ・・・あ、僕わかっちゃった!
アイカ: え、なに、なに?
ユウキ: へへへ。
イ先生: ユウキ君、変な笑いは止めましょうね。「コチュ」は、小さな男の子の陰茎の愛称なんです。その大きさや形から、このような比喩が生まれたのでしょう。
アイカ: なるほど。
イ先生: 昔から韓国では男の子が生まれると玄関先に赤唐辛子を飾り、周辺の人たちに男の子が誕生したことを知らせていました。これは赤唐辛子と松の木の墨を奇数分(7つほど)交互に縄に縛ったものを「デムン(大門、玄関)」に1週間くらいぶら下げ、死に神や疫病神などが家の中に入って来ないようにしたもので、今でも地方ではこの風習が残っています。
アイカ: 男の子を大切にする、韓国ならではの風習なんですね。

<ハングルとその発音5>

<講座>
イ先生: 台詞ではありませんが、ジョンヨンとヨンギの小学校時代の回想シーンからひとつ取り上げたいと思います。ジョンヨンとエスクが、好きな人の写真にしるしを付けて交換するシーン。二人とも左胸に名札をつけていますね。そこには、「○○クッミンハッキョ」と書かれています。
ユウキ: 「ハッキョ」は「学校」だよね。
アイカ: その前の「クッミン」は・・・、「国民」かしら。
イ先生: そのとおりです。現在では韓国の小学校は「初等学校」と呼ばれていますが、ヨンギとジョンヨン(2000年当時30歳位)の小学生時代は「国民学校」と呼ばれていたのです。名称の変更は「国民学校」が昔の日本の呼び名であったため変えたという説が有力です。いま、「国民学校」というとちょっと時代遅れの感じがします。そのためか、実際に「国民学校」時代に小学生だった大人たちも今の呼び名の「初等学校」に代えて昔を振り返ることもしばしばあります。名称なんて、最初こそ違和感がありますが、慣れるとなんともなくなるものですね。
ユウキ: こんなところにも日本統治時代の影響がでているんだ。
アイカ: わたし、知らないことだらけだわ。もう少し、歴史を勉強しなくちゃ。
ユウキ: いろいろ知りたくなってきたな、僕も。

<ハングルとその発音6>


<和訳>
 ヨンギ、どうか苦しんでいる人たちの心にも暖かい笑いを届けてあげて。
 そのためには涙を知らないとね。
 一人で残すのはとても心が痛むけど、その痛みもあなたへの贈り物になってくれたら嬉しいわ。
 あなたが私への最高のプレゼントだったように。

 ヨンギ、知ってる? 私がいつからあなたを好きだったか。


<講座>
イ先生: 最後にジョンヨンの夫への手紙から一部を紹介します。

 この場面は、葬儀を終え自宅に戻ったヨンギが、ジョンヨンの残した手紙を読んでいるシーンです。手紙の中でジョンヨンは、ヨンギのことを「ヨンギシ(ヨンギさん)」または「タンシン(あなた)」と呼びかけています。いつも夫のことを「ノ(お前、あんた)」と呼捨てていたジョンヨンですが、最後にやっと本音を手紙に託すことができたのでしょう。

アイカ: 悲しいけれど、でもそれを乗り越えた、爽やかな感動を与えてくれるシーンですね。
ユウキ: ヨンギは全てを受け入れて、これからを生きていくのだろうな。
イ先生: そうあってほしいですね。

 いよいよ最後となりました。映画の原題にもなっていて、この手紙にも出てくる「ソンムル」という言葉は「プレゼント、贈り物」という意味なんですが、皆さんにとって映画『ラスト・プレゼント』、そしてこの韓国語講座は素敵な「ソンムル」になりましたでしょうか? そうであることを祈っております。

ユウキ: 僕は楽しかったな。
アイカ: 私も。言葉の奥にある文化にも触れることができたし。ますます韓国への関心が高まったわ。
ユウキ: 今度韓国へ行くときは、また違った楽しみ方ができそう。
アイカ: そういっていただけると嬉しいですね。これを機に、もっともっと多くの方が韓国と韓国文化に興味を持っていただき、韓国映画もたくさん見ていただければどんなにか嬉しいことでしょう。それは、この講座を担当してきた私にとって何よりの報酬であり、喜びであります。最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
ヨロブン テタンヒ カムサハムニダ!
ユ&ア: カムサハムニダ! イソンセンニム!!


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