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ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2006 リポート
『血の涙』

Reported by 月原万貴子
2005/3/15



『血の涙』 2005年
 監督:キム・デスン
 主演:チャ・スンウォンパク・ヨンウ、チソン

鑑賞ノオト

 19世紀、製紙業を生業とする孤島トンファドで、朝廷への献上品を積んだ輸送船が何者かに放火されるという事件が発生する。事件解決のため、ウォンギュ(チャ・スンウォン)捜査官一行が、都から島へと派遣されてくるが、彼らが到着した日、島で残忍な殺人事件が発生する。しかし、これは予告された五つの連続殺人の始まりでしかなかった。事件の裏に隠された秘密を知りつつも口をつぐむ製糸工場主の息子イングォン(パク・ヨンウ)や、事件の鍵を握る画工のドゥホ(チソン)らに翻弄されつつも、ウォンギュは真相究明に全力を注ぐ。

 古き因習に囚われた閉鎖的な空間、渦巻く色と欲、数々の思惑が複雑に絡み合った結果がもたらす不幸な結末。我々日本人にはおなじみの横溝正史ワールドが韓国の土壌に花開く。デビュー当時はそのルックスから色男役が続いたものの、いまいちぱっとせず、コメディに転向して大成功を収めたチャ・スンウォンが、久々にシリアス演技に挑戦したことが話題になった本作だが、見事なイメージ・チェンジの成功といって差し支えないだろう。大柄の体格を生かした大胆な身のこなしと、意外なまでに繊細な表情で、中央から来たエリートの才覚と苦悩を、しっかりと見る者に伝えてくれている。また、影と含みのある地方の秀才を演じたパク・ヨンウの鬼気迫る演技には、背筋がぞっとするほどの感動を覚えた。

 劇中に登場する五つの重刑(串刺し、熱湯漬、紙による窒息、石打ち、車裂き)はかつて朝鮮で実際に行われた刑罰だそうだが、これらを忠実に再現したシーンは、そのあまりの残酷さに、スクリーンから顔を背けてしまった。極限状態に追い込まれた人間が見せる狂気、集団的ヒステリーがもたらす悲劇など、しっかりしたリアリティがあるだけに、見ていて辛いものもあるが、それを超えて見る価値のあるどっしりと重みのあるシリアル・ミステリーの傑作だ。


キム・デスン監督ティーチイン

 2006年2月25日、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2006で、ヤング・ファンタスティック・グランプリ部門にエントリーされた『血の涙』の上映後、キム・デスン監督のティーチインが行われた。

Q: まずは監督から一言ご挨拶願います。
A: この映画は、韓国の歴史を知らないと少し難しい部分もあったかと思います。海外の映画祭に出品する場合は、本当でしたら字幕を作る際に私がひとつずつ説明すべきなのですが、そうは出来ませんでした。ですが、皆さんが最後まで席を立たずに見てくださったので、本当に感激しております。

Q: 前作『バンジージャンプする』も本作も、時間、現在と過去、因縁や運命といったものに翻弄される主人公が描かれていますが?
A: 映画の演出というのは時間をどう支配するかということだと思います。私は映画作りにおいては、いつもどうやって時間を操作すべきかを考えながら作っています。今回の映画は時間という点においては『バンジージャンプする』よりも一歩踏み込んだ気がします。果敢に時間を省略し、本当は先に見せておきたい所をとっておいて、ここぞという時に過去の時間を引っ張り出してくるという手法をとり、時間の配列を大切にして作りました。内容的には『バンジージャンプする』は性別や障害を越えて、愛で結ばれた関係についての映画で、今回の『血の涙』では、自分自身も知らない心の中に潜んでいる貪欲さ、人間の欲というものに焦点を当ててみました。

Q: 処刑や殺人のシーンなど残虐なシーンを、あえて克明に描いたのはなぜですか?
A: 実は私がシナリオを受け取って演出を依頼されたときに、一番気になったのがその点でした。この映画は何日かにわたって人が殺されていくというあらすじでしたので、どうしても人が死ぬ場面が出てきますが、人が死ぬところを見世物にして良いのかという思いがありました。しかし、少し見方を変えて、自分が何かに対して恨みを持っている犯人の側に立ってみました。殺しの方法は色々ですが、たとえば熱湯に沈めるとか、顔に紙を貼り付けて窒息させるとかした場合、犯人はすぐにはその場から立ち去らず、息絶えていく姿を見届けているはずだと思ったのです。なので、最後まで描くべきだと思いました。残忍な処刑シーンをあえて入れたのは、それを命じたのが主人公の父であることを、父に自分の知らないそういった面があったことを主人公に悟らせるためです。(まじないのために)島民たちが鶏の首をはねるシーンは、集団狂気と新しい文明が出会い衝突する際には、ああいったことも起こりえるのではないかと思い、その象徴として入れました。とはいえ、韓国でも残酷すぎると批判を受けたので、いまだに心が痛いです。

Q: 映画の中に出てくる処刑は、昔の韓国で実際に行われていたものなのでしょうか?
A: 歴史の中で実際に行われた方法ばかりです。考証したうえで描いたものです。

Q: キャストについてですが、監督はどういった基準で選んだのですか?
A: チャ・スンウォンさんはコメディ映画のトップスターですが、今までのイメージと違った姿で演技をしてみたいという気持ちを持っていたので、出ていただきました。この映画に出てくださった俳優さんたちは、すべての力を注いで映画に集中してくれましたので、結果については本当に満足しています。

Q: パク・ヨンウさんは長い俳優生活で初めてこの映画で演技賞を受賞されたそうですが?
A: 彼は演技力のある俳優さんですが、今までなかなかその実力を発揮できる役と出会えずにいたと思います。今回は彼が本当にやりたいと思っていたキャラクターでしたので、その演技力を思う存分発揮していただきました。その結果として春史羅雲奎映画芸術祭の助演男優賞を受賞しました。パク・ヨンウさんは撮影中、非常に神経質になる人で、私が何の気なしに「今日はNGがたくさんでそうだな」と言ったところ、何日も悩んでしまったそうです。数日後に「ただでさえ大変なのに、どうして監督はあんなことを言ったんですか」と言われてしまいました。

Q: タイトルの『血の涙』には特別な意味があるのですか?
A: 韓国で「血の涙」というと、非常に悔しい思いをしたときに、胸が張り裂けて血の涙が出るといった表現があります。この映画の内容に合っていると思い付けました。英語タイトルが『血の雨』になっているのは、劇中のせりふ「やがて血の雨が降るだろう」が、この映画を象徴していると思ったからです。


追記

 本作はヤング・ファンタスティック・グランプリ部門にて、グランプリを受賞しました。キム・デスン監督、おめでとうございました。


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