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演劇『タクシー・ドライバー』鑑賞記

松本憲一(カツヲうどん)
2004/8/1受領


演劇『タクシー・ドライバー』

 映画・演劇・テレビをまたにかけて活躍するチャン・ジン監督の初期代表作。1997年の初演時はチェ・ミンシク主演で大ヒット。2000年には『冬のソナタ』のキム次長役で日本でもすっかりお馴染みになったクォン・ヘヒョの主演で再演され、今回は、『シルミド/SILMIDO』チョン・ジェヨンカン・ソンジンのW主演により再び上演される。

会場:東崇アートセンター 東崇ホール(ソウル市地下鉄4号線「恵化」駅徒歩5分)
主演:チョン・ジェヨン、カン・ソンジン
期間:7/16(金)〜8/29(日)
時間:平日 19:30より(月曜は休み)、土日祝 16:30/19:30
料金:R席 35,000ウォン S席 25,000ウォン A席 15,000ウォン
問い合わせ:+82-2-762-0010
http://www.dsartcenter.co.kr/(東崇アートセンター)



 今年の東京は、本当に暑くてうんざりする日々が続いているが、一番嫌なのは湿気が多い、という事だろう。これには、本当、気が狂いそうだ。その点、ソウルの真夏は、いくら暑いといっても、空気は乾燥し、陽が落ちると気温もぐっと下がるから楽である。

 だが、この日のソウルは、湿度が高く、ちょっと東京のような暑さ日だった。「どうせ、すぐ近くだから」と油断し、鍾路からバスで恵化に向かおうとした私だったが、どういうわけか、この日に限ってバスが全然来ない! 7月のバス改正の余波か、などと考えつつも、なんとか開場3分前に到着。汗だくになって駆け込む始末だった。もっとも、そんな客は私だけではなかったが。

 日本では映画監督として知られるチャン・ジンが演出&作劇を手がける舞台『タクシー・ドライバー』が上演されている東崇アートセンターは、演劇街で有名な大学路(テハンノ)にある。地下鉄「恵化」駅から徒歩で数分のところにあるが、ちょっと裏の方なので、最初はわかりにくいかもしれない。演劇の他に、アート系映画の特集上映が行われることも多く、韓国の映画ファンには昔からお馴染みの場所だ。近所には系列の映画館、東崇シネマテークもある。近年、ソウル中に設備の良いシネコンが乱立してしまい、映画館としては、だいぶ影が薄くなってしまったが、アート系映画を上映する老舗として、鍾路のコア・アートホールや光化門のシネキューブと共に、場所を知っておいても損はない。

 東崇アートセンターの魅力は、スターたちの舞台がよく上演されることだ。最近では、クォン・ヘヒョ主演で、『殺人の追憶』と同じく華城連続殺人事件を題材にした『私に会いに来て』や、チョ・ジェヒョン主演の『エクウス』など、皆この劇場である。チェ・ミンシクソン・ガンホも、ここで舞台を踏んでいる。ソウルで映画スターたちの生演技を観たい方には、要チェックの場所だ。また、ここのよいところは、料金が安いということ(日本の相場と比較した場合だが)。しかもエライことは、連日一ヵ月以上に渡って上演が行われるということだろう。それだけ、小演劇が商売として成立するということなのだろうけれど、会社を終えて、演劇でアフターファイブ、という日本人からみれば贅沢なことが、ソウルでは十分可能なのだ。

 私がこの『タクシー・ドライバー』に足を運んだ最大の理由は、俳優チョン・ジェヨンの生の舞台を観るためだ。日本で公開された『ガン&トークス』で脇役ながらも可能性を感じさせた彼だが、今では、優れた個性派俳優として映画界でも十分認知されている。最近では『小さな恋のステップ』(監督:チャン・ジン)にも主演している。彼は今のところテレビ・ドラマには絶対出ない。高校時代から仲間と演劇活動をしていたというから、アマチュア時代を含めると結構キャリアも長く、映画への造詣もなかなか深いという。『ガン&トークス』では、スマートな二枚目だったが、どちらかというと泥臭く、怖い印象の役が多い。映画『公共の敵2 あらたなる闘い』では、監督のカン・ウソクから直接、悪役へのオファーが入っているという。

 さて、舞台での本人はどれに近いか、というと、はっきりいって、泥臭い方のイメージだろう。映画でいえば『シルミド/SILMIDO』や『小さな恋のステップ』のイメージに近く、意外にズングリムックリ、骨太で色黒だ。しかし、舞台の彼は、もっとコミカルで軽快だ。映画での演技を観ていて、いつも気になっていたのは、妙に間延びして、ぬぼーっとした感じに陥ってしまう事だったが、舞台の彼に、そんなことは全くない。

 物語は、タクシー運転手ドッペが、身勝手なオノボリさん、車の中で自殺を図る客、相乗りするとキレるヤクザの親分など、メチャクチャな乗客に疲労困憊する様子を中心に描いているが、チャン・ジンの他の作品同様、テーマの本質はもっと複雑だ。日本の押井守作品にも似て、主人公の内面を具象化させてゆく話法をとっている。そして、なによりも強く感じたのは、故郷を捨てて都会で暮らす人々への深い愛情だ。ドッペは野心を抱いてソウルに出てきたものの、世の中そんなにうまく行くはずがない。孤独な大都会での暮らしの中で、唯一の支えは、故郷に残してきた恋人の想い出だけだ。彼女との連絡も既に絶え、年を重ねるごとに記憶だけが美しく昇華してゆく。そんなドッペの苦悩と嘆きを、物語は淡々と訴えるかのようで、あまり無責任に笑えない切実さが潜んでいる。

 韓国・ソウルは1,000万人の人口を抱える大都市だが、地方出身者が非常に多い。同郷意識が人一倍強い韓国人気質からすれば、故郷を出て都会に出る、ということは、理由はどうであれ、身を切られる辛い事なのだろう。そして、主人公がタクシー運転手である、ということも、実は深い意味があるのではないかと思う。日本の作家梁石日(ヤン・ソギル)が長い間、タクシー運転手をしていたのは有名な話だが(その時の経験が小説になり、映画化され『月はどっちに出ている』となった)、ソウルでも同様に、芸術や芸能を志す人たちの多くが、タクシー運転手を副業にしている事情が『タクシー・ドライバー』が生まれた背景にあるのではないだろうか。日本と同じく、韓国のタクシー・ドライバーも、皆多彩な経歴を持っていたりする。チャン・ジンが売れなかった時代、タクシー運転手をしていたか否かはわからないが、そんな仲間への応援歌が聞こえてくるような舞台でもあった。

 さて、今回の舞台は、主人公ドッペを、チョン・ジェヨンとカン・ソンジンが日替りで演じるようになっている。個々のファンの方は、出演者を確認してから出かけて欲しい。余裕のある方は両方観るのも面白いと思う。ちなみに、私が観た舞台は、カン・ソンジンがカメオ出演していたから、彼が主演の時はチョン・ジェヨンが同じ役で出るのかもしれない。また、他の著名俳優のカメオ出演も予定されているので、運が良ければ、あっと驚くスターの生舞台を観ることが出来るだろう。

 チケットは、知り合いの韓国人にお願いしてインターネットで予約すると時間の無駄が省けるが、平日なら当日券で十分、間に合う。当日券発売の時間は、チケット売場に必ず表示されているから、その一時間前にゆけば、まずは大丈夫。ただし、月曜日は休館なので、これだけは注意して欲しい。座席はS席で十分。東崇アートセンターは、それほど広くなく、へたにR席に座るよりも、S席の方がよいこともある。

 韓国のスターは意外に身近なところにいたりする。それがソウルの面白いところだ。ソウルに行ったら買い物とグルメにばかりに熱中しがちだが、たまにはこういった舞台に足を運んではいかがだろうか?


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