HOME団体概要support シネマコリア!メルマガ登録サイトマッププライバシー・ポリシーお問合せ



サイト内検索 >> powered by Google

■日本で観る
-上映&放映情報
-日本公開作リスト
-DVDリリース予定
-日本発売DVDリスト
■韓国で観る
-上映情報
-週末興行成績
-韓国で映画鑑賞
■その他
-リンク集
-レビュー&リポート
■データベース
-映画の紹介
-監督などの紹介
-俳優の紹介
-興行成績
-大鐘賞
-青龍賞
-その他の映画賞


第1回甲賀映画祭リポート



reported by キノ・キネマ 岸野令子
2005/12/25


 2005年11月26日(土)、滋賀県甲賀市で開かれた、第1回甲賀映画祭(http://cinepa.jp/)に招かれ、『もし、あなたなら〜6つの視線』上映とトークのイベントに参加した。メインゲストは同作品を作ったヨ・ギュンドン監督(男性)とチョン・ジェウン監督(女性)で、私が司会、通訳は兪澄子さんが務め、「韓国最新映画事情」というテーマで話しあった。その報告を書こう。


左から、チョン・ジェウン監督、兪澄子さん、ヨ・ギュンドン監督、筆者

 ヨ監督は1958年生まれで、俗にいう《386世代》の前の世代、軍事政権下で苦労した体験の持ち主である。彼は兵役に就いていない。徴兵免除である。その理由は「緊急措置違反で服役中のため」。そういう世代なのだ。彼は今の韓国映画の状況には問題点があると話す。

「私は1980年代後半から韓国映画界とかかわってきました。忠武路(映画会社がたくさんあった地名で、《韓国映画界》を表す代名詞)もそのころから変わってきました。今と違って映画人も政治的な関心が非常に高かったと思います。具体的に言えば、映画は社会的な機能・役割を果たさなければならないという使命感を持っていました。

 その後、民主化が進むとともに、その使命感は薄れてきていると思います。新しい世代がアメリカや日本に文化的な劣等感が少ないのはいいと思うけれど、苦労を共に分かち合うという気持ちより、楽しければいいという風潮には危機感を持っています。

 現在韓国でヒット中の『トンマッコルへようこそ』は朝鮮戦争時を背景にしたコメディで社会性もあるが、多くのヒット作は《何か面白いものはないか》として来る若い観客を対象にしたエンタテインメントです。彼らの価値は《面白い》《面白くない》だけ。(一部の会社が)製作・配給・興行を独占できるシステムも問題だ。現に私の新作『絹の靴』も完成したが公開の予定が立っていない」

と。『絹の靴』は朝鮮戦争時に、北から南に移った父が年取って認知症になり、自分が北に住んでいると思っている。それで皆は彼のために、ここが北であるというような、ふりをするという作品だそうで、ドイツ映画『グッバイ、レーニン!』の韓国版のような感じであろうか。実際、北を故郷とする人々は60万人といわれ、多くはこの主人公のように高齢者なのだ。詳しくはヨ監督のHP(http://www.yeokyundong.or.kr/)を。

 これに対しチョン監督(1969年生まれ)は

「私は社会性よりも、よりパーソナルなものに関心があるのだけど、それでも映画が興行的な成功を求められる状況はしんどい。封切って成績が悪ければすぐ打ちきられる。映画の成功=エンタテインメントという枠組みで捉えられると製作がすべて企画化されてしまう。それが今後の韓国映画にどう作用するか疑問です」

と語る。日本のような単館上映のシステムは、あるにはあるがうまく機能していないので、アート系作品は公開が難しく、興行すれば苦戦が目に見えていてもシネコンで上映せざるを得ないのだ。

 チョン監督はまた「エンタテインメント映画を成功させる秘訣は《方言》と《多彩な助演陣》の起用で観客を笑わせることだと言われている」と、今のヒット作の傾向を明らかにすると、ヨ監督は「ユーモアと、ただ笑わせるというのは違う。私の場合は世の中を逆に見るというか、タブーを破るブラック・ユーモアを活用してきた」と笑いの質を問題にする。

 チョン監督は「私たちはヨ監督の作品などを見て育った世代です。ヨ監督はまた俳優(『パク・ポンゴン家出事件』など)としてもとても素晴らしく、まだまだそのユーモア感覚には追いつけません。映画で笑わせることは大事ですが、一時的、即興的な笑いでなく、私もヨ監督のように深い世界を知ったところから出る笑いを作り出したいです」とも語った。

 会場から『もし、あなたなら〜6つの視線』の中のチョン作品『その男、事情あり』に出てくる、おねしょ少年が罰として塩を貰いに行くという風習についての質問が出た。チョン監督は「なぜそうなのかはよく知らないんです」と言うと、ヨ監督は「塩には清めの意味がある。個人の間違いを侮辱して排除するのではなく共同体全体で包み、清めてやろうということではないか」という説明が加えられた。

 韓国では、世代間の断絶が激しく映画人も例外ではないと聞く。もしかしてヨ監督やチョン監督が世代を超えて語り合えたことは、とてもよかったかもしれない。そういう場を甲賀映画祭が提供してくれたことに感謝したい。実際、来る前は、チョン監督はヨ監督とどんな話をすればよいのか心配していたそうである。それは全く杞憂で、ヨ監督は先輩でありながら威張らず、むしろ包んでくれる大きさ器量の持ち主で、私たちもおおいに和んだのである。


Copyright © 1998- Cinema Korea, All rights reserved.