「トークバトル」は、両監督が互いに相手の作品を観て感じたことにはじまり、韓流ブームをどう評価するか、日韓の撮影現場の雰囲気はどんなふうに違うのか等々、韓国映画ファンにとって興味深い話題で満載でした。ただ、すべての内容をお伝えすることはできませんので、主な話題の中心的な発言部分をまとめました。また、話題の見出しも独自に付けたものです。
● 互いの作品について |
阪本: |
ユン監督はお父さんの仕事の都合で海外での生活経験があり、アメリカで映画を学んで、大阪の鶴橋で2ヶ月過ごされたことも聞きました。『バリケード』はデビュー作だそうですが、デビュー作というのは、本人の実体験や思春期に感じたことが最も反映されると思います。この作品では、階級とか偏見ということに触れていますが、実生活の中でこの作品の根っこになるようなものがあったのでしょうか? |
ユン: |
アメリカに長く住んで、日本も見て、韓国に戻ってみると外国人が非常に増えていました。私自身が海外では外国人だったわけで、きちんとした身分がない状態を痛感してテーマにしました。 |
阪本: |
この作品を立ち上げようという時に企画の受け入れられ方はどうだったんでしょうか? |
ユン: |
企画は外国人労働者の問題としてではなく、父と息子の問題として出しました。もし、現在この企画を出しても、この企画が通ることは不可能だと思います。 |
ユン: |
阪本監督は韓国でも非常にファンの多い監督です。この作品は12番目の作品だそうですが、監督の作品を観る度に、ストーリーよりもキャラクターを重視して作っていらっしゃるように感じます。 |
阪本: |
僕自身が観ておもしろいと思う映画は、お話が良くできているとか、どんでん返しがすごいという作品でなく、スクリーンに映っている登場人物をチャーミングに思える映画です。だから作る時も登場人物の旅みたいなものをまず最も大事にしたいと思っています。 |
ユン: |
今日の作品も韓国人が登場しますし、『KT』という作品も撮っていて、韓国への思い入れが強いように感じますが、理由があるのでしょうか? |
阪本: |
大阪で育ちましたから、クラスメートに、当然、在日の人もいますし、思春期には彼らと泣いたりしたようなこともありました。映画監督になって、そこに触れないようにしながら大阪の映画を撮ってきたようなところがあって、ある時、ひっかかっていたことを娯楽として表現したいと思うようになり、ここ5〜6年、韓国の人、在日の人を登場させています。 |
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● 日本映画の問題点 |
ユン: |
最近、日本の方は「日本映画は死んだ」というようなことをよくおっしゃるんですが、私はそうは思いませんが、なぜでしょうか? |
阪本: |
誰が言ってるんですか!(笑) |
寺脇: |
日本映画は決してダメになっていません。日本映画の質が落ちたということでなく、たぶん、観客と作り手の関係が今ちょっとずれているんですよね。だから、今、日本映画がさえないんじゃないかと思います。韓国映画は観客、それは韓国人の観客も日本人の観客も含めてですが、観客と作り手の関係がすごくハッピーな時代にあると思います。先日、李鳳宇さんをはじめとした日本を代表するプロデューサーの方たちとシンポジウムをやったんですが、みんな口々に言うんですよ。「観客の望むものと作り手の望むものが対応していない」と。こないだのシネマコリア2005や韓流シネマ・フェスティバル2005に行くと、昔の映画館にあったロビーのザワザワ感があるんですよ。「今から始まる映画はどんな映画だろう」って。『電車男』のようなマスコミによって与えられた映画でなく、観客が映画を自分で発見する、そういう、今、韓国映画によって体験していることを日本映画でもやろうじゃないかということになれば、すぐ、またチャンスは生まれると思います。 |
● 韓流ブーム |
阪本: |
韓流ブームで、押しかけているおばさんたちは日本映画の中では夢が持てなかったんでしょうね。これは危険な言い方かもしれませんが、「韓国の男性と結婚したい」という女性たちを見ていると韓国の人を下に見ているような気がします。何か偏見もあると思いますね。差別というのは行為だけど、偏見は心の中にあって、僕の中にも見つけられるし、映画の中で自分とも向き合いつつやっていかないといけないなと思っています。 |
ユン: |
日本の男性は寛大ですよね。奥さんが韓国に行くのを黙って見ているなんて。その質問をある日本の方にしたら、若い頃の浮気の罪滅ぼしだと言われましたが(笑)。 |
寺脇: |
私は韓流ブームを肯定的に捉えていて、今まで日本の社会では、年配の女性がヨン様とか言うのは恥ずかしいというものがあったのが、変わったのだと思います。異常な方向へ行く場合もあるんでしょうが、そこから入って今日の『バリケード』にたどり着いた方もいると思うんですよ。最初はヨン様だったのが、別の韓国映画も観るようになって。 |
ユン: |
日本のエンターテイメント業界で作ったブームではないかという気がしますので、そちらのやり方ひとつでたちまち消えるんじゃないかという気もします。 |
阪本: |
ヨン様が入り口であったとしても、その流れで、映画館で別の俳優を見つけたいという欲求も出るでしょうし、映画館にその世代の方が圧倒的に来ているというのはとても良いことだと思います。また、俳優さんが目的じゃなく、韓国映画の質の高さに、韓国映画は裏切らないと感じて、はまった人はたくさんいると思います。 |
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● 撮影現場での監督の立場 |
ユン: |
撮影現場の雰囲気は、韓国は日本に比べて自由だと思います。日本では見学に行った時も感じましたが、監督が絶対的な力を持っていて、衣装のボタンひとつ付け替えるのも、監督の了解なく勝手にはできないということでした。韓国ではスタッフがどんどん監督に意見を言って、その意見を監督も聞き入れて、自由な雰囲気があります。そのことが韓国映画の発展に作用していると思います。 |
阪本: |
権力というのか、監督には、あなたはこの現場の責任者だと決断を迫られることがたくさんあります。キム・サンジン監督がこのトークのゲストだった時、キム監督は日本での撮影経験があるんですが、日本ではチーム名として、「阪本組」とか、監督名でプレートが出されるのが不思議だと言っていました。韓国ではプレートには作品名が付いていると。日本では、現場のバケツにも全部「○○組」と監督の名前が書いてあります。そして、「自分について来い」と言う監督もいるし、「意見を出せ」と言う監督もいます。僕は基本的には何でも良いから意見を出せと言って、採用したら500円渡しています(笑)。 |
● 撮影現場の自由度 |
ユン: |
韓国の現場では、すでに準備していても現場でどんどん変わっていきます。夜決めたことを翌朝になったら、監督が違う考え方をするようになって、変えていくことができるという自由さがあります。日本は準備した内容に忠実に撮影を進めると聞いています。 |
阪本: |
撮影に使える日数が圧倒的に違うんです。変更したら、準備をしなおす間、現場が止まるということは、日本映画界の現場の現状としては許されないんです。できるだけ合理的に早く良いものを作ろうという、それに慣らされて得た手練手管が良いものを生むこともあるし、逆に閉塞感になって作品に表れることもあります。時間があれば良いと思っているという訳でもないんですが、どこか羨ましいと思っています。クランクインからクランクアップまでの求められるスピードが圧倒的に違います。韓国では、大作は10ヶ月から12ヶ月で、普通の作品でも3ヶ月ですが、日本なら、1ヶ月か45日で、日本の方が圧倒的に短いです。 |
ユン: |
日本の映画を観ると、きちんと包装されたプレゼントをもらったような気がしますし、韓国映画はその場の思いつきでもらったプレゼントのように思うことが多いです。 |
撮影現場の違いについては、日韓の両監督の話を同時に聴くことが出来て、対比的に違いがよくわかりましたし、寺脇さんの日本映画の問題点についての発言も加えてまとめると、「監督が権威的でなく、スタッフが自由に意見を言え、撮影に入っても自由に変更ができ、撮影時間も長く取れ、そして、観客の望むものと作り手の望むものが対応している」という韓国映画界の活況の要因が浮かび上がってきます。
韓国映画ファンとしては、韓国映画界の活況のプラスの要因の影にある、マイナスの部分のようなものも、ユン監督からもう少し聞きたかったという思いもありますが、90分という時間を考えるとポイントが押さえられた話が伺えて有難かったと思います。
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