Q: |
1991年まで映画をご覧になったことがなかったそうですが? |
A: |
私は国民学校(日本の小学校にあたる)を出ただけで、ずっと工場で働いていたんです。文化的な生活とは無縁で映画を観る余裕もありませんでした。その後、海兵隊で5年間軍務についたのですが、除隊して何の希望もない状況の中、ヨーロッパへ行ってみようと思ったんです。フランスのパリで少し生活に余裕ができ、映画を観られるようになりました。初めて観た映画は『羊たちの沈黙』。それにレオス・カラックスの『ポンヌフの恋人』など。しかしこれらの映画体験がきっかけで映画監督への道を思い立ったのかというとそうではなく、韓国へ帰国してからシナリオを書き始めたんです。自分が生きてきた有様をシナリオにしてみたいと思ったんですね。そこから自然と映画監督への道を歩むようになりました。『コースト・ガード』では軍隊での経験、『受取人不明』では基地の町での生活という、私の実体験が基になっています。 |
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Q: |
監督の作品は登場人物にご自身の内面世界を投影しているように感じます。作品には女性を強姦するシーンが多く出てきますが、ご自身は犯す側、犯される側、どちらに立っておられるのでしょう? |
A: |
私は犯す側、犯される側そのどちらの経験もありませんし、自分をいずれかの立場に置くということもありません。社会的に起きているそれらの事実を見聞きし、感じたことを表現することができないかと考えながら撮影しています。 |
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Q: |
若手の新人を起用することが多いですが、何を重視してキャスティングされますか? また、本作での主演二人に関しては? |
A: |
私は映画を作るときにオーディションをよくやります。何を重視して俳優を選ぶかというと、シナリオのキャラクターにあっているか。そしてそのキャラクターにモデルがいる場合には、その人物に似ているかどうか。この二点をもって選んでいます。今回のソ・ウォンさんに関しては、オーディションの際に白紙のようなイメージの女性だと感じました。白紙のような彼女であれば、女子大生がやくざに騙され娼婦に転落していく過程をすごくリアルに見せてくれるのではないかと思いキャスティングしました。ハンギ役に関しては、チョ・ジェヒョンとは長い間ともにやってきましたので今回は他の俳優をと思い、チェ・ミンシクなどいろいろな方にアプローチしたんですが様々な事情で実現せず、やはりチョ・ジェヒョンでいこうということになりました。 |
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Q: |
観客が男性か女性か、また韓国、ヨーロッパなど地域によって受けとられ方に違いはありましたか? |
A: |
確かにこの作品は韓国内にとどまらず、国外でも多くの論争を引き起こしました。スイスの映画祭では「こんな映画は我々なら絶対に選ばない」という声も聞きました。「人権を蹂躙する映画だ」と罵倒されたこともあります。しかし同時に私の作品は多くの映画祭に招待され、関心を持っていただいています。この作品を人権に関する部分ではなく、映画作品として評価して欲しいですし、こうした問題を提起することによって、もっといろいろ考えて欲しいと思っています。 |
Q: |
闇と人工的な明かりのコントラストがとても綺麗でした。撮影で気を遣われた部分は? |
A: |
夜のシーンはセットを組み三日間で集中して撮りました。実際の売春街を再現しようとネオンをたくさん使いましたよ。室内のシーンでは人工照明の多用を避け、高感度フィルムを用いて撮影しました。また、チョ・ジェヒョン扮するハンギには照明を上からあて、深い影が顔に落ちるようにし、ソ・ウォン扮するソヌァには横から充分光をあてて明るく撮るなど、二人の対比が出るようにしています。 |
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Q: |
日本の俳優をご存知ですか? 起用してみたい俳優などは? |
A: |
『魚と寝る女』のときに、『うなぎ』に出演していた清水美砂を起用しようと思いましたが、実現しませんでした。また『純愛譜−じゅんあいふ−』の橘実里も非常にかわいい子ですね。他に知っているのは『少女』で監督もされた奥田瑛二。彼は俳優としても有名だそうですが。『ドッペルゲンガー』の役所広司も素晴らしい俳優だと思います。ただ私は有名な俳優は起用したくない。これから先、私が日本の俳優を起用することになったら、まだあまり知られていない若い俳優を発掘してみたいですね。 |
エンターテイメント色の強い作品が主だった日本の韓国映画市場に、今新たな変化が起きようとしている。なんとキム・ギドク監督作品が4本も次々と公開されるというのだ。
国際的な評価を受けつつも、取り上げる題材の表面的な過激さゆえ、常に国内外で賛否両論の渦を巻き起こしてきた彼の作品群が、果たして日本の観客にどのように受けとめられるのか。キム・ギドク作品特有の魅力がぎっしりと詰まった『悪い男』が、まず先陣をきる。
劇場の暗闇の中、ジュース片手にポップコーンをポリポリ食べつつ、というわけにはいかない。観る側にもそれなりの覚悟が必要であろう。作品を通して、普段は物静かな彼の内に秘められた人間の本性を鋭くえぐる視線と、対峙しなければならないのだから。
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