Q: |
テレビ・ドラマではコミカルな役柄が多いですが、キム・ギドク監督の作品では全く違うイメージのキャラクターを演じられていますね。 |
A: |
私は俳優生活15年になりますが、一般に認知されるようになったのはわずか2年程前のことです。『ピアノ』というテレビ・ドラマと、この『悪い男』がきっかけでした。ですから2年前以前と以後では、役の選択の幅に大きな違いがあるのです。俳優になったころは主演作もあったのですが、徐々に助演が多くなりました。韓国のテレビ・ドラマでは助演はコミカルな役が多いので、私に与えられる役柄もそういったものばかりになっていったんです。そのような中で、キム・ギドク監督は私の異なる面を引き出してくれました。彼との出会いを通して、自分自身を自由に解放することが出来たのです。私は20代のころに出演した『永遠なる帝国』という作品ではラストで老人の役を演じ、また来年は舞台で17歳の役を演じます。このようにこれからも多様な役柄を演じていきたい。今の地位に安住することなく、役の幅をどんどん広げていきたいと思っています。 |
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Q: |
俳優という職業に対する信念は? |
A: |
凝り固まった俳優にはなりたくないですね。毎回成功を収めるような、教科書的な演技をするような俳優にもなりたくありません。今までもそうでしたし、これからもそうです。私はどこへ飛んでいくのかわからないラグビーボールのような存在だと思います。常になにものにも拘束されることなく、自由にやっていきたいというのが、私の信条であり、人生の哲学でもあります。 |
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Q: |
ハンギというキャラクターの役作りについてお聞かせください。 |
A: |
この作品は比較的順撮りだったのですが、それが非常に役立ちました。ハンギという役を完全に理解できたかどうかは別として、順撮りされたことにより彼の行動にあわせて自分がついて行くことができました。ある瞬間にはハンギに乗り移ったような感覚を覚えたこともあった。ですから無理やりハンギという人物を理解しようとするよりも、7〜8割方理解できた時点で、それに忠実に演じていくしかないと思うようになりました。ハンギという役には非常に曖昧なところがあり疑問に思うこともあったのですが、監督と具体的に話し合ったりはせず、あくまで私自身の問題として対処しました。 |
Q: |
ハンギとご自身の共通点は? |
A: |
ハンギとの共通点?(笑) 私は自分がどんな人間かさえわかりませんからね。あえてあげるなら、物事へ執着するという点でしょうか。 |
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Q: |
キム・ギドク監督の演技指導はどのようなものでしたか? |
A: |
私と監督は、彼の初監督作『鰐 〜ワニ〜』からずっと一緒に撮っていて、お互いに信頼感がありますので、演技に関しては私の好きなようにさせてくれます。ソ・ウォンは役柄にどっぷり浸かって撮影に臨んでいました。彼女と私は撮影中ほとんど言葉を交わしませんでしたね。肌の露出に関しては撮影前に監督と彼女の間で合意が出来ていたので特に問題はありませんでした。それに脱ぐシーンの撮影はそれほどテイクを重ねずに終わらせていましたしね。ソヌァがレイプのようなかたちで初めての客をとらされるシーン、それをマジックミラー越しに撮影したのですが、監督がいたたまれなくなりカットしようとするところを、私は彼女のあまりにリアルな演技に、「もうちょっと待て」と制止してしまいました。監督は自分で書いた作品にもかかわらず「胸が痛む」と言っていた。それを聞いて、実は監督よりも俳優の方が、タフで残忍なのではないかと感じました。 |
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Q: |
日本の観客へメッセージを。 |
A: |
ひとつの作品がすべてを物語るとはいえないと思います。この作品も韓国社会のごく一部分を描いたものにすぎません。しかし作品の持つ独自の世界観ゆえ、非常に論争を呼びました。とりわけラストシーンに関しては韓国のみならずベルリン映画祭でも論争になりました。先進国においても自国の道徳的な規準をもとにこのようなシーンの是非を判断してしまうことに、とても驚きを感じました。道徳的な価値基準で論じて欲しくない。あくまでも映画として判断して欲しいですね。ハンギという人物は我々の先を行っているのではないかと思うんです。ラストシーンは確かに衝撃的ですが、100年、200年前から見れば、我々が今こうしてここに座っているということも充分衝撃的なはずです。ですから、これから先の100年後においてもハンギの行動が衝撃的かどうかは誰にもわからないのではないでしょうか。 |
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自らを「ユーモアのある人間」と評するとおり、一つ一つの質問に穏やかな口調で丁寧に答えつつ、向けられたカメラに対して時折おどけてみせ、場を和ませるチョ・ジェヒョン。
しかし、インタビュー後半、監督の「カット」の声を制したという撮影秘話を披露し、「監督より、俳優の方がタフで残忍なのかもね」と言って微かに笑みを浮かべたその瞬間、彼の中のハンギが姿を現したように感じた。
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