Review 『ハーモニー 心をつなぐ歌』
Text by 加藤知恵
2011/1/20
韓国に留学していたとき、『セブンデイズ』の試写会で、その姿を見て以来、2年振りのキム・ユンジン主演映画。しかも、女性刑務所内の合唱団がテーマの実話を基にした音楽映画で、韓国内では300万人が号泣との情報もあり、期待していた作品だった。
感想を一言でいうなら「役者陣の演技が素晴らしい」。主役のキム・ユンジンは今回、最愛の息子を手放す母親という立場だけでなく、合唱に魅せられる音痴な受刑囚として、コメディエンヌとしての実力を発揮。本人も「今までで一番明るいキャラクターだった」というように、これまでシリアスで緊張感のある役柄のイメージが強かったため、良い意味で意外、そして新鮮だった。
指揮者を務める死刑囚役のナ・ムニの存在感も健在。彼女はたたずむ後ろ姿だけで悲しみや苦悩を表現できる役者で、韓国芸能界では「ナ・ムニ先生」と呼ばれている。この映画でも、終始全体を統括する役割を担っていて、ラストも彼女の演技力でまとめ切った感がある。その他にも、見せ場である合唱団のオーディション・シーンでは脇役陣のパフォーマンスが光っていたし、息子役の赤ちゃんまでが人懐っこい笑顔で涙を誘っていた。
コメディエンヌとしての実力も発揮したキム・ユンジン
韓国映画を見て思うのは、最終的に観客の感情を動かすのは役者の情熱ではないかということ。「こんなのあり得ない…」「また泣かせようとして…」とどこか冷静な部分で分かっていながらも、つい感情移入してしまうのが韓国映画・韓国俳優の魅力だ。
もう一つこの作品の良い点は、刑務所が舞台でありながら、メッセージと全体のトーンがポジティブなところ。見た後に、爽やかで温かな気持ちにさせてくれる。様々なジャンルの映画があるが、見た人を前向きな気持ちにさせ、元気を与えてくれる作品は良い作品だと思っている。
ただ欲をいうなら、もう少し人物の設定や心情を深く描いてもよかったのでは。登場する人物は、みな暗い過去を持つはずなのに、苦悩や罪悪感・葛藤という感情よりは楽天的な面ばかりが強調されている。刑務官のキャラクターは単純で、合唱団を結成する動機は主人公の思いつきのみ。所内に元音大教授や声楽専攻の音大生が偶然存在したという設定も少々強引に感じられた。
また、もう少し合唱のシーンや選曲・音質にもこだわってほしかった。心に傷を抱える受刑者たちが「合唱を通して生きる喜びを知り、大切な人と再会し希望を取り戻す」という内容が主題なのだから、クライマックスである合唱シーンはもっと感動を誘うクオリティに仕上げて欲しかった。そうすればもっと深みのある作品になったのではないだろうか。
女優陣は歌とダンスを猛特訓
とはいえ、上映中観客席からは終始鼻をすする音が聞こえ、ティッシュやハンカチで涙を拭く人や、中には嗚咽する人の姿もあった。300万人を号泣させたという宣伝文句には納得。ドラマティックなストーリーに思い切り感情移入したい、俳優陣の熱い演技に涙を流したい、という方々にオススメの作品です。
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