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真!韓国映画祭 『飛べ、ペンギン』ティーチイン

Reported by Kaoru
2010/8/27


 2010年2月27日(土)から三週間にわたって、東京のポレポレ東中野を会場に、真!韓国映画祭が開催されました。2月27日に行われた『飛べ、ペンギン』のティーチインの模様をお届けします。

2010年2月27日
ポレポレ東中野
ゲスト:イム・スルレ(監督)、チェ・ギュファン(主演男優)、ヤン・ドンミョン(プロデューサー)
司会:木全純治(シネマスコーレ)
通訳:尹春江
補助通訳:加藤知恵(シネマコリア)

── 『飛べ、ペンギン』は、韓国の人権委員会が資金を出して製作している人権啓蒙映画『もし、あなたなら〜6つの視線』シリーズの第7弾です。今まではオムニバスで数人の監督が作ってきましたが、この映画はイム・スルレ監督ひとりで作っていらっしゃいます。人権委員会がこの映画を作っている趣旨と、監督ひとりで作ることになった経緯を教えてください。

 [イム]まず製作費が非常に少ないということがあり、何人かの監督で作ることは断念せざるを得ませんでした。今までにオムニバスで短編を作った監督を合わせると40人くらいいますが、これから作ってくれる人材がいなかったことも確かです。私は実は1回目のオムニバス作品に参加していまして、それから5年くらい経っていますが、人権委員会の方が「頼まれると断れない」という私の性格をよく知っていて話がきたのだと思います。

── 人権委員会からの注文はどういうことでしたか?

 [イム]細かい注文はありません。ただ、今までの作品は余りにも深刻すぎて観客が少なくなってきていたので、私が取り返さなければならないということはありました。今まで扱われていた問題が深刻だったので私は皆さんがもっと楽に人権について考えられたら良いなと思いました。重い問題は避けようと思いました。

── すばらしいシナリオだと思いますが、どなたがこのシナリオを考えて、それが監督なら、どこから市役所を舞台にしようと思ったのでしょうか?

 [イム]シナリオは私が直接書きました。韓国は「人権問題を描くには祝福された国」と言われるくらいテーマが多いんですね。それだけ不条理で大変なことが多い国ということになります。ですから、どのテーマにするかとても苦労しました。ベジタリアンと「雁のお父さん(キロギ・アッパ:子どもの留学のため妻子を海外に送り、一人国内に残って働く夫のこと)」が出てきますが、これらは主にインターネット上で取材をしました。偽の「雁のお父さん」になってああだこうだと書き込みをしたこともありました。私はカナダへ娘を送っているお父さんってことになっています(笑)。

── ベジタリアンを演じたチェ・ギュファンさんにお聞きします。イム監督の演出はいかがでしたか?

 [チェ]俳優が演じるときに一番大変なのは何かというと、映画を作る時に監督が何を言いたいのかわからないのが一番大変です。監督が怖かったりとか、雰囲気が良かったりとかは関係なく、この映画で監督が何を語りたいのかを正確に理解した時が俳優は一番演技しやすい時です。イム監督は気楽な雰囲気を作ってくれて、何を言いたいのか正確に持っている監督です。この作品の中では食べるシーンが非常に多いのですが、出てくる食べ物をおいしくいただきながら楽しく撮影しました。そのシーンに出ていない俳優たちが非常に羨ましがっていました。イム監督はそのように気楽な雰囲気を作ってくれる監督です。

── この作品のプロデューサーであるヤン・ドンミョンさんに伺います。どれくらいの期間、どれくらいの予算で作られたのか、ムン・ソリさんをはじめ非常に芸達者な俳優たちが出ていますが、どのようして選ばれたのでしょうか?

 [ヤン]質問に答える前に、日本の皆さんがこの映画をどのように観ているのか気になって一緒に観ていたのですが、韓国の観客と同じように楽しく観ていただいたようで非常に嬉しいです。今回の映画祭の中では一番低予算の映画で、本当はもっと低い予算で作ろうと思っていましたが、上手くいかなくて、独特な方法で作りました。最初のクレジットの部分が翻訳されていなかったので分からなかったかも知れませんが、『飛べ、ペンギン』製作委員会がありまして、そこには監督と俳優、スタッフたちが自分の持てる力で参加しています。寄付する形で参加して作り上げた作品です。期間は1ヶ月くらいで余裕があったわけではありません。老父婦で出演している二人の俳優は韓国でとても有名で現在もドラマに出演している、とても忙しい俳優たちです。この方たちにどうしてこの映画に出演したか聞いてみたところ、「今まで30年間ドラマに出演してきて、ギャラは低くてもこのようにすばらしい作品に自分が出ているところを見せられないのは非常に残念だし、出演できたことが非常に嬉しい」とおっしゃっていましたので、感動しました。キャスティングについてですが、映画の趣旨を俳優たちに一生懸命説明して受け入れていただいたということと、出演している俳優たちは有名な方々ばかりですが、今までイム監督の作品に出演された方々、イム監督の作品に出たいと望んでいた方々が引き受けてくださいました。

── 観客の皆さんからの質問を受けましょう。

── [女性]この近くに住んでいる韓国人の留学生です。イム・スルレ監督が来るって聞いて嬉しくて映画を観に来ました。韓国のありのままの姿を久しぶりに見てすごく嬉しいのですが、心が痛い映画でした。イム監督の前の作品も観ていてすごく好きなんですけれど、今までの韓国の人権委員会が作った映画は、個人を孤立させている社会問題とか制度の問題とか、責任を“見えない何か”に負わせている感じだったけれど、この映画は自分と相手との間で起こる問題で、お互いを理解し合いながら愛が生まれ、変わると解決できるという温かい映画でした。その前は高校生を撮った映画でしたが、その映画とこの映画を撮るまでの間にどういう心境の変化がありましたか?

 [木全]高校生の映画は『三人友達』のことですか? イム監督のデビュー作で、徴兵検査を拒否しようとする三人の若者の話ですごく良い映画ですが、日本では残念ながら公開されていません。

 [イム]『ワイキキ・ブラザース』や『三人友達』を撮っていた頃の私の目はとても暗かったと思います。ただ、それが『彼女の重さ』(人権シリーズ第一弾のオムニバス映画『もし、あなたなら〜6つの視線』の中の一編)を撮る頃から少し明るくなったような気がします。今回この『飛べ、ペンギン』を撮ったことで社会の制度だけを批判するのではなくて、もう少し身近なものを見ていこうと思いました。もちろん教育システムをバサッと変えてしまえばいいということもあるけれど、現実的には難しいことなので、それらと共に個人個人の特性とか変化とか大事だと思います。それらと相まって変わっていけばいいと思います。私の視点も年と共に変わってきて、ある葛藤に対して声を出して怒るという時期はもう過ぎたような気がします。それよりも余裕を持って笑いながら相手に指摘することによって、相手も受け入れる幅ができるのではないかと思います。直接的にこうだというより、笑いを含めて、観た後に「おもしろくて笑ったけれど、こういうことも考えなければね」という想いを伝えたいと思います。

── [男性]上司が飲みに誘うのは人権侵害として描いたのか、それとも韓国では日常的にあることなのでしょうか?

 [イム]ここに来る前に4社ほどインタビューを受けてきたのですけれど、日本の記者たちからも同じことを聞かれました。人権侵害として描いたわけではありません。日常として描きました。韓国では昼時間になるとボスみたいな人が「今日はビビンバにしようか」と言ったら、みんなでそれを食べることがよくあります。そういうことで何か親しみというか、連帯感を感じるところがあります。

── [男性]教育とか職場の中とかいろいろな社会問題が出てきて、日本と似ていると思いながら見ていたのですが、こういう社会問題に対する関心はどの作品を撮るにしても一貫しているものなのですか? もしそうであるならば、社会問題や人権に対する映画を撮り続けるモチベーションはどのようなものでしょうか?

 [イム]私が韓国社会を見て思うことは、平等ではないことが多いということです。良い学校を出ていないということだけで平等に扱われず、社会に出た時に自分に返ってきてしまったりします。東南アジアからの労働者もいますが、個人個人はとても優秀だけれども国が貧しいということで韓国に働きに来ていますが、たまたまそうなっただけで、彼らには人間として普通に暮らす自由も権利あります。国が貧しいからとか大学を出ていないからとか、そういうことだけで差別することは良くないと常々考えています。そういうことに私は敏感な方だと思います。人権委員会から依頼されていなくても、私の映画では社会の弱い人を描くことで、憐憫や残念な気持ちを常々考えて、描きたいと思っています。

 [イム]この映画を本当に面白いと思ってくれた人はいますか? たくさんいますね(笑)。これは『飛べ、ペンギン』の絵コンテですが、1名の方にサインをしてプレゼントしたいと思います(一番遠くから来た人ということで、小田原から来た女性が当選)。



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