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第13回釜山国際映画祭リポート

Reported by 鄭美恵(aka Dalnara)
2008/11/19受領
2009/2/25掲載



 2008年に開かれた第13回釜山国際映画祭では、イタリアの巨匠、パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ兄弟の回顧上映が行われ、来韓したパオロ・タヴィアーニ監督からは韓国映画についても聞くことができた。イタリアと韓国映画の結びつきについては最後に触れるとして、まずは釜山での韓国映画の姿をお伝えする。


パリの韓国人

 ホン・サンス監督の新作『アバンチュールはパリで』は、麻薬使用でパリに逃れた画家キム・ソンナム(キム・ヨンホ)が、昼はパリの韓国人留学生ユジョン(パク・ウネ)と恋のかけひきを楽しみ、夜は韓国の妻と電話でさびしさを訴え合う、夜と昼、一日の間にふたりの女を行き来する姿を描く。


『アバンチュールはパリで』

 ティーチインで若い観客から「ホン監督の作品にしては露出(ラブシーンなど)が少ない」と指摘があったのを受けてホン監督は「露出はもうやめようと思った」。率直な回答を聞いて観客は大笑い。監督の作風の変化に温かく賛同しているようで微笑ましかった。確かに露出が少ないと安心して観られる。

 ドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』でのイメージそのままに、日本では清純な雰囲気を思い浮かべるパク・ウネだが、ドラマ『18・29〜妻が突然18才?〜』や『恋の花火』で垣間見せた小悪魔のような女性らしさを『アバンチュールはパリで』の中でも発揮している。一方、妻の手のひらの上で踊るような、三蔵法師の手の内にいる孫悟空のような男の稚気と粗忽さをキム・ヨンホが朴直に演じている。

 パリの韓国人、といえば古くはキム・ギドクの『ワイルド・アニマル』が思い浮かぶ。パリで出会う北と南の青年。『アバンチュールはパリで』にはパリで学ぶ北の青年が登場するが、『ワイルド・アニマル』の頃とは異なる、洗練した印象で描かれている。


韓国とアメリカ

 日本でもヒットした『ラスベガスをぶっつぶせ』に出演した韓国系米国人俳優アーロン・ヨーが今回釜山を訪れていた。そして、アメリカ人の原作、ニューヨークで活動中のソン・スボム監督、ソン・ヘギョ主演の組み合わせの『嫁入り/Make Yourself at Home』で、韓国とアメリカ、ふたつの社会が接近した時についてしばし考えた。


『嫁入り/Make Yourself at Home』

 金髪と黒髪、バーベキューとプルコギ、キリスト教とムーダン(巫堂)… スッキ(ソン・ヘギョ)が韓国系アメリカ人に嫁いでからアメリカ東部の住宅街の静けさは破られ、プールには韓服が浮かんだ。アメリカと韓国、アメリカの中の韓国、ふたつは対照的に浮かびあがるが、その文明の接近と衝突を無機的に描くのではなく、嫁に行く女性の姿、新しい家族になるという意味で嫁ぎ先の文化と融け合い、同化し、根を張り、たくましく生き延びる姿が有機的に描かれる。

 文化の融合、「嫁入り」により新しい文化に有機的に溶けこむ瞬間をホラー映画の視点で捉えて恐怖感を呼び覚ますストーリーテリング。


延辺の朝鮮族

 清清しく、しかし胸が痛む哀しさをたたえた作品は『青い河よ、流れゆけ/Let the Blue River Run』。延辺の作家、リャン・チュンシク、キム・ナミョンの原作をカン・ミジャ監督が映画化。


『青い河よ、流れゆけ/Let the Blue River Run』

 チョリ(ナム・チョル)とスギ(キム・イェリ)は恋人同士。毎日いっしょに自転車で高校へ通学し、帰宅すればチャットで夢を語り合うのが日課だ。両親と三人でつつましく暮らすチョリの家だが、母親がある日、韓国に出稼ぎに行くと言う。やがて工事現場で働く母親からは仕送りが送られ、そのお金で「バイクをプレゼントするから買いなさい」という手紙が届く。喜ぶチョリ。一方、スギは並んで通学していた二人の間にバイクが入ってくることによって、チョリとの距離が遠のくのを感じはじめる…

 延辺の朝鮮族の学生の恋心、純情、青春の痛みと悲しみを取り囲むのは、素朴な世界に押し寄せるインターネット社会と資本主義文明の物質的価値観。子どもたちも大人たちも、ひとの心は純真で素朴で伸び伸びしているのに、時代は彼らをそのままにしておかない。虚栄心や窮屈な価値観がもたらす苦悩に押し込めようとしている。

 Q&Aに登場した延辺出身のナム・チョルによると、同級生の9割近くの家庭は両親がそろっていないという。韓国などに出稼ぎに行く家庭が多いそうだ。

 チョリの父親が妻の黄色いチョゴリ(女性の伝統服の上衣)を洗って待つ姿、光を受ける黄色いチョゴリの色が詩のように心に光を残す。カン監督によると、黄色は母親を象徴する色、生命力を表すそう。チョリの教室で尹東柱(ユン・ドンジュ)の詩が朗読される時、朝鮮・韓国をルーツに持つ民が、遠く延辺に離れていても共に心に宿している詩の言葉の美しさ、国境を越えても相通ずる詩心のある魂に感じ入った。

 ヒロインを演じたキム・イェリは短編『春に咲く/Blooming in Spring』(チョン・ジヨン監督)でもそうだったが、韓国を代表するフィギュア・スケート選手、キム・ヨナのような涼しげなまなざしと清楚な姿が印象的だった。


『春に咲く/Blooming in Spring』

外国人の視線

 今回の釜山国際映画祭では、長編『かかしたちの土地/Land of Scarecrows』や『ヒマラヤ、風がとどまるところ/Himalaya, Where the Wind Dwells』、短編の『ハイブリッド/Hybrid』、『ミートピア/Meatopia』などで、それぞれ主要な人物として外国人が登場していた。もちろん多様化、多国籍化した現代社会の現状を表現しているのだが、外国人の視線を通して韓国の地、もしくは韓国人の生を相対的に捉え、描こうとしている印象を受けた。10年前のユン・イノ監督『バリケード』を原点とするなら、水がとどまらずにそこから四方に流れ続け水脈を継いでいる感もある。


トランスジェンダーと家族

 映画祭では、家族とトランスジェンダー(もしくはゲイ・ピープル)を描いた、ふたつの作品がそれぞれ受賞した。KAIST(韓国科学技術院)出身のノ・ギョンテ監督『かかしたちの土地』は、遺伝子は女性だが脳は男性というトランスジェンダー女性チャン・ジヨン(キム・ソニョン)が主人公。彼女は夫として父親として家族を作ろうとして一度失敗し、その時養子にしたフィリピン人の息子(チョン・ドゥウォン)とは生き別れている。時は流れ、新たに嫁として迎えたフィリピン女性(BICH Phuong Thi)はやがて家を出て、ジヨンの養子と出遭う…


『かかしたちの土地/Land of Scarecrows』

 トランスジェンダーは土地が汚染され、環境汚染によるホルモン・バランスの異常が原因と語って、家族やトランスジェンダーの主題を理系出身らしく科学的な話法にからませながら、科学が発達した現代でもムーダン(巫堂)に頼る人々を描いてシャーマニックな情緒と対比させ、韓国らしさを表現している。

 一方、ペク・スンビン監督の『葬式のメンバー/Members of the Funeral』は家族の中のゲイ・ピープルが淡々と描かれ、平凡に見えて平凡でない現代の家族像の奥行きが表現されている。


『葬式のメンバー/Members of the Funeral』

 両親と娘(キム・ビョル)ひとりの一家が、ヒジュンという男子学生の葬式でそれぞれ彼との関わりに思いをめぐらせる。家族に向けた内の顔ではなく、家族の外に向けた顔、ヒジュンにだけ見せた、それぞれの秘められたエピソードが枝葉のようにつながっていく。枝葉は末節に、ミニマムに広がりながらそれぞれのエピソードが塗り重ねられ、最後には家族の肖像がまとめられ、描き上げられる。葬式に集まったメンバーという、一つの閉じられた場所を舞台にした法廷劇のようでもある設定が、ヒジュンを中心に拡散し、やがて収束するスタイルに、ヒジュンの書く小説が虚実を追って家族像を立体化している。


俳優たち

 『ヒマラヤ、風がとどまるところ』で二年ぶりに映画に復帰したチェ・ミンシクは、釜山国際映画祭の名物、浜辺のオープン・トークでファンの熱い喝采を浴びていた。ヒマラヤで撮影する本作は「高山病の心配はあったが、好奇心から出演を決めた」と語る。


『ヒマラヤ、風がとどまるところ/Himalaya, Where the Wind Dwells』のオープン・トーク

 『黒い土の少女』のチョン・スイル監督の最新作でもある本作は、韓国に出稼ぎに来て事故死したネパール人ドルジの遺骨を持ったチェ(チェ・ミンシク)がネパールに降り立つところからはじまる。チェ・ミンシク以外の出演者はすべてネパールの人々。パク・チャヌク監督が韓国のネパール人労働者の実話を映画化した『N.E.P.A.L. 平和と愛は終わらない』(『もし、あなたなら〜6つの視線』の中の一編)と併せて観たい作品だ。

 大ヒットした『グッド・バッド・ウィアード』の舞台挨拶には、日本から集まったたくさんのファンを前にしたイ・ビョンホン、チョン・ウソン、キム・ジウン監督の姿があった。満州ウェスタンのキム・ジウン版は、『鉄鎖を断て』(イ・マニ監督、1971年)のようなユーモラスな描写で侵略者を揶揄して小さなカタルシスを表現しながら、他国に大地を奪われた、土地を喪くした人間が抱くささやかな夢の切なさも感じさせる。石油が湧き上がる場面は、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』に描かれた、業に近い強烈な欲望の表出とは対照的で、国も軍も大地も持たない者が本当に欲しかったものはこれではない、という気持ちを言外に感じた。


『グッド・バッド・ウィアード』の舞台挨拶
左からイ・ビョンホン、チョン・ウソン、キム・ジウン監督

アニメーション

 韓国では長らくフィルムが喪失したとみなされていた、シン・ドンホン監督の『洪吉童伝/A Story of Hong Gil-dong』(邦題:少年勇者ギルドン、1967年)は、日本に16mmフィルムが現存することが判明し、40年ぶりに韓国で上映されることになった。韓国最初の長編カラー・アニメーション。


『洪吉童伝/A Story of Hong Gil-dong』

 オープニングのタイトル・ロールには、日本のアニメーション会社名、日本の声優の名前などが現れ、『ドラゴンボール』で有名な声優の名もあり興味深かったが、はじまるまでは(もしかしたら日本語吹き替え版なのではないか)と心配してしまった。が、上映されたのはすべて韓国語音声でほっとした。映画祭のパンフレットによれば、日本に輸出されたプリントをもとにデジタル復元したようだ。

 チャドルバウィという、暗行御史に随行する房子(パンジャ)のようなお調子者のキャラクターが愛らしくユニークだった。原作にはないキャラクターだが、監督が創造した人物とのこと。がい骨が踊るシーンも楽しく、ユーモアたっぷりの作品は今見ても十分楽しい。ディズニー・アニメ『ファンタジア』と同じように、「まず音ありき」でサウンドから先に製作したそうで、登場人物の口の動きが音声にぴったり合っている。


『洪吉童伝』の監督がファンにサインしているところ
手塚治虫と交友があったそうで、ベレー帽姿が似ている?!

 現代アニメの代表は『オーディション/Audition』(ミン・ギョンジョ監督)。「『オーディション』を知らない女子はスパイだ」と言われるほど、韓国女子なら誰もが知っている人気マンガ、日本でいったら『NANA』や『花より男子』に匹敵する作品の初アニメーション化だ。そのせいか女性の鑑賞者が多く、「夢中で読んでいたマンガがアニメになったらどうなるのかと思って来た」という人も何人かいた。四人の男性主人公の、隠れた音楽的才能の豊かさを描写するエピソードが繊細に、感受性豊かに描かれ、がさつな女性主人公と対照的でおもしろかった。音楽にはL'Arc〜en〜Cielの『bravery』『THE NEPENTHES』が使われ、美術監督に河野次郎、ポスト・プロダクションにも日本のスタッフが関わり、韓日コラボレーション作品になっている。


『オーディション/Audition』

五月の思い出

 もうひとつアニメーション作品を観た。『五月の思い出/Memory of May』。タイトルでお気づきになる方もいるかもしれないが、光州事件をテーマにしたアニメーションである。アニメーションといっても、5編のミュージックビデオに近い趣もある。韓国を代表するアニメーター、チョン・スンイル監督によると、民主化運動の時に歌われていた歌がだんだん忘れ去られていくのが残念だったので、製作にあたって、まず曲を選んだそうだ。映画に使われているミッシェル・ポルナレフのシャンソンは民主化運動の時によく歌われていた、と386世代の監督は話していた。とても愛らしい子どもたちのキャラクターの背景には禍々しい戦車や、「戒厳令を解除せよ」の文字が映り、一部当時の写真や映像なども交えて、忘れてはならない光州事件を伝え、鎮魂している。


『五月の思い出/Memory of May』

韓国とイタリア

 韓国でヒットした『チェイサー』。女性派遣業のジュンホ(キム・ユンソク)はいなくなったミジン(ソ・ヨンヒ)を探すうちに容疑者らしきヨンミン(ハ・ジョンウ)に出会う。刑事だった時の嗅覚でヨンミンを追い詰めながら、まだどこかで生きているかもしれないミジンをも必死で追いかけはじめる…


『チェイサー

 舞台挨拶にはナ・ホンジン監督、主演のキム・ユンソク、ハ・ジョンウが登場した。『殺人の追憶』にも似た、公権力の無能さを前に感じる無力感がある、という意見も出されたQ&Aで印象的だったのはイタリアからの鑑賞者の発言だった。イタリアで毎年韓国映画祭を開催している、というその映画祭関係者が「来年はこの素晴らしい作品『チェイサー』をぜひ上映したい」と情熱的に語っていた。

 今回の釜山国際映画祭では、パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ兄弟の作品が回顧上映された。弟のパオロ・タヴィアーニ監督は映画祭にあわせて来韓し、マスター・クラスで映画について二時間近く語っていた。監督が韓国映画を好きになり、韓国映画を通して韓国も好きになった、ということが明らかに。韓国映画を世界で一番感銘深く観ているが、特に感銘深かったのはキム・ギドクの『サマリア』だそうだ。監督は『サマリア』について「すでにみんな観ていると思うが…」と言いながらあるシーンをていねいに再現しはじめた。イタリアの巨匠の眼にはそのシーンの巧みな演出が驚きでもあり、深く感銘を受けたそうだ。タヴィアーニ監督がキム・ギドクの演出の跡を辿るところにも韓国とイタリアの縁を感じてエキサイティングな時間だった。


パオロ・タヴィアーニ監督

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