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第12回釜山国際映画祭リポート

Reported by 鄭美恵(Dalnara)
2007/11/14



 第12回釜山国際映画祭で出会った映画と小景を、写真をまじえてリポートする。

 作品鑑賞チケットが取れずに、思っていたようにたくさんの作品を鑑賞できなかったけれど、今回釜山国際映画祭に行ってほんとうに良かった、と思えたのが、ドキュメンタリー映画『ハルメ花』に出会ったこと。ハルメはハルモニ(おばあさん)の方言表現。2007年釜山国際映画祭雲波賞(最優秀ドキュメンタリー賞)受賞作品。


『ハルメ花』

 20世紀初頭から3代にわたって語られる、監督の祖母の人生を中心とした家族の物語。ある地方の村の階級間の対立、イデオロギー対立、キリスト教を信仰する者と信仰しない者、という3つの二項対立を時間と空間を行き来して立体的に描くドキュメンタリー。

 韓国だけでなく、北朝鮮、日本まで一家が離散して暮らす現実を考えると、朝鮮半島が近現代史の中でどれだけ波乱万丈の歴史の波にもまれてきたか、考えざるをえない。上級と下級(支配者と被支配者)、右翼と左翼、聖と俗の区分や対立が入り組んだ構図は、むしろ内戦を経験した欧州などの人々の心に響くような普遍性を持っている作品と感じた。祖父を殺したのが母親の親友の父親だった、という事実と静かに折り合いをつけ、思いを心に秘めてその後を生きていかなければならない世界は、朝鮮戦争や文化大革命の時にはそこここで起こった「恨」かもしれない…。

 歴史の中で多くの価値対立が同時に押し寄せてくるような、入り組んだ経験は日本ではまだ経験されていないので、日本で上映しても物語の普遍的価値は伝わらないかもしれない。南欧や旧ソ連、南米や中国でより理解されるのでは、と思っていたが、製作会社によると現在日本での上映も計画しているとのことだ。ムン・ジョンヒョン監督作品。


『ここではないどこかへ』

 大学卒業後、ぐずぐずとまだなにもしていないスヨン(チャ・スヨン)。リバプールに留学して音楽の勉強をしたいスヨンは母親から留学費用は出せない、と言われて家を飛び出し、大学の同級生、軍隊から除隊したばかりのドンホ(ユン・ハジュン)の家に転がり込む。ドンホとふたり、バンド活動をはじめることになったスヨンは韓国で音楽活動を続ける決心をするのだろうか、それとも、ここではないどこかへ行きたいと思い続けるのだろうか…。

 思い通りに自分の夢をかなえられずもがき続け、夢とはかけはなれた現実と折り合いをつけられないためか、あまりにも自己中心で身勝手なふるまいを続けるスヨン。自分の居場所が見つけられなくて周りを傷つけながら自分を傷つける、モラトリアムな季節を送る彼女の軟着陸した場所を描くが、あきらめられない音楽への夢、という点で『私のちいさなピアニスト』も頭に浮かぶ。

 主人公の姿に学生時代を思い出す観客も多いだろう。葛藤しながら最後に未来への希望をかすかにほのめかせたイ・スンヨン監督は、2006年に短編第1作を発表し、長編映画はこの作品がはじめて。製作は中央大学ほか。スヨンの父親役イ・オルと怪物のようにとつぜん画面いっぱいに登場する校長先生役キム・ビョンオクは友情出演。


『スペア』

 日本のやくざと韓国のチンピラが、あることをきっかけに邂逅し、言葉が通じないながらもいっしょに走り回るアクション映画。グァンテ(イム・ジョンイル)はヤクザのミョンスに借金を返せずに旧友のギルド(ジョンウ)に相談したところ、臓器売買を持ちかけられる。買い主は日本のヤクザ佐藤(虎牙光揮)。グァンテを迎えに来た佐藤は、借金をまだ返していないグァンテと一緒にミョンスに追われてしまう。

 映画ではふたりの狂言回しが最初から最後まで姿は見せず、天の声のように声だけで映画のあちこちで茶々を入れる。逃亡シーンやアクション・シーンではケンガリ(朝鮮半島の農楽に使われる鉦)と農楽(サムルノリという名でも呼ばれる)のチャング(長鼓)がバックに流れて、監督が中学高校生時代に夢中になったという香港のアクション映画とは異なった雰囲気、韓国らしさを演出している。

 言葉が通じない、そのもどかしさを日本語で話し続ける佐藤と韓国語で話し続けるグァンテの頭上にそれぞれの言語の吹き出しを入れ、コミュニケーション・ギャップをユーモアたっぷりに表現する。イ・ソンハン監督第1作。柏原崇共演。


『千年鶴』

 イム・グォンテク監督の100作目の本作は、『風の丘を越えて〜西便制』『春香伝』に続き、パンソリ(唱劇)をテーマにした作品としては3作目。監督によると、2003年にユネスコ世界文化遺産に指定されたパンソリのソリクン(歌い手)の世界を、映像を通して見せ、伝えたかったという。イム監督は、パンソリという文化を韓国の人だけが享受するのでなく、映画を通して世界の人と共有し普遍化したい、と思ったと製作の意図を語る。『風の丘を越えて〜西便制』同様、ユボンという養父に預けられて兄妹になったドンホ(チョ・ジェヒョン)とソンファ(オ・ジョンヘ)の物語だが、監督によると『風の丘を越えて〜西便制』とは全く別の作品だそうだ。

 記者会見には監督と50年の付き合いになる撮影監督チョン・イルソンと、主演のチョ・ジェヒョンが登場。

 記者会見後のレセプションには監督や撮影監督と長い交流のあるカン・スヨンも駆けつけた。


『よいではないか(家)』

 『マラソン』のチョン・ユンチョル監督の第2作『よいではないか(家)』は、教育や家族の問題をコメディ・タッチに描く。インターネットでの告発など、『恋愛の目的』にも通じる学校で起こる問題や韓国映画ではめずらしい更年期の問題、普通の専業主婦が苦悩し現実から逃避したくなる姿など、さえない普通の人々の悩みを等身大に描き、リアルだ。

 さえない一家シム家の子どもたち、娘ヨンソン(ファン・ボラ)と息子のヨンテ(ユ・アイン)はもはや両親を尊敬していない。父親(チョン・ホジン)はヨンソンの学校で英語教師をしている。母親(ムン・ヒギョン)は古くなってご飯も炊けない炊飯器に悪戦苦闘した末、ベルトを巻いてどうにか毎日ご飯を炊き、家事に苦労する日々。母親の妹、売れない小説家オ・ミギョン(キム・ヘス)も同居する5人のシム家にある日とんでもない事件が起こる。ヨンソンを煙に巻く非常勤教師役にパク・ヘイルが友情出演。


『M(エム)』

 売れっ子作家ミヌ(カン・ドンウォン)は婚約者(コン・ヒョジン)との結婚をひかえた幸せな日々を送りながら次回作の執筆に悩んでいた。そんなある日誰かに監視され、後をつけられているような感覚に襲われる。思い出せない、ミミ(イ・ヨニ)との初恋の記憶が錯綜する夏の日を描く。

 『M(エム)』の記者会見は、久しぶりに記者の前に登場する主演カン・ドンウォンを撮影しようとする内外の取材陣であふれていた。共演したふたりの女優についてカン・ドンウォンは「ふたりとも背が高かったので今回は楽でした」と照れながら語る。身長186cmのカン・ドンウォンは相手役の女優の背が低いと猫背になって演技しなければならないのだが、今回の共演者はちょうど良い身長だったらしい。

 初恋の切ない思い出と記憶喪失がもたらすサスペンスを織り交ぜた作品は、夏の日を描きながら、映像から暑さは感じられない。空はいつも薄い膜を張ったような不透明さがあってエンディングに流れるBoAの歌『アンゲ(霧)』のように霧がかかったような映像。


『ハピネス』

 都会で事業にも恋愛にも失敗し、肝硬変の治療のため逃げるように田舎の療養院にやってきたヨンス(ファン・ジョンミン)。彼はそこで8年前から静養しているウニ(イム・スジョン)と出会い、やがて恋に落ちたふたりは療養院を出てふたりだけのつつましい、幸せな生活を始めるが…。

 ホ・ジノ監督が描く純愛と心変わりの物語は、男と女の間のひとつの流れを描いた作品でありながら、陰陽のような二項対立、清貧・聖と、奢侈・俗が対比する。愛し合いながらも価値観が隔絶し、わかり合えないさまは、単なる男女間のすれ違いにとどまらず、社会にある価値観の亀裂をも投影させているよう。二度来る別れの間のどこに幸福があったのか、愛のambivalence(両面性、二義性)の揺らぎの中で、出会いと別れの間の幸福な時間を反芻し追体験してしまうような作品。

 舞台挨拶でのイム・スジョン。「本当の純愛を描くこの作品に出演できて幸福だ」と語る。


デジタルPIFF小景

 今回u-RFID(ubiquitous-RFID=ユビキタスRFID)という名の「RFID携帯電話」が登場すると聞き、レンタルしてしばし体験した。u-RFIDは、RFIDタグ(UHF、Dual)を読み込むチップ(RFID SoC)を内蔵した携帯電話(Samsung社製)がレンタルで提供され、釜山国際映画祭各会場に設置してあるRFIDタグを読み込むと映画祭の各情報を携帯電話で取得・表示できる。

 使用方法は、RFIDタグ(ICカード)の上に携帯電話機を乗せ、電話機左側面にある「RFID Hot-Key」を1回押すと、画面に該当情報が表示される。情報表示までの所要時間は3秒から5秒程度。必要な情報に短時間でアクセスでき、携帯電話の特性上移動しながら情報を確認できるところが便利だった。

 今回提供された映画祭の各情報は、プレス・ゲスト向け、一般観客向けに開示内容が区別されている。プレス・ゲスト向けには映画情報、上映スケジュール、映画祭ニュース、イベント情報、チケット前売り・残席情報、釜山観光情報のほかに、ゲストのスケジュール、パーティーのスケジュールなども提供されていた。各情報は毎朝サーバーに最新情報をアップロードし、WAPで提供される。

 予告編動画が登録されている作品については予告編も観ることが出来る。

 韓国国内の携帯電話ユーザー向けには、既存の携帯電話にDongle(3×2×1cm程度大)というRFIDリーダー内臓の付属品を取り付ければ、RFIDリーダー内臓携帯電話と同様にタグを読み込んで映画祭の各情報を取得できるようにしている。今回のテスト運用を企画したSKテレコム社担当マネージャーのキム・ヨングァン氏は、「日本をはじめ海外企業の参加を誘致してサービスを実用化したい」と語っていた。

 『ここではないどこかへ』の映画情報を取得しようとしているところ。


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