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Review 『許されざるもの』

Text by 鄭美恵(Dalnara)
2007/7/1


『許されざるもの』

2007年執筆原稿

 軍の規律の中でも、規律を規律そのままに適用し適応できる場合と、適度にゆるくカスタマイズして適用し適応させる場合などがあり、適用される人間の側も、疑問を抱かずに長いものには巻かれてしまう容易に適応できるタイプと、ゆるやかな箍(たが)の中でだけ適応できるタイプ、理想主義で規律も秩序も序列もすべてを構築しなおしたいタイプといて、その三者三様が描かれる。

 問題なのはジフン。義務と従属が減ったのをよいことにそこに甘んじている感がある(『ワイルド・アニマル』のチョンヘも思い出す)。理想と現実のせめぎあいの中、理想と現実を天秤にかけ、現実にそぐわない理想は現実に歩み寄らせ、人を見て(相手を見て)理想的な体系を「現実的に」適用する術を若い兵スンヨンはまだ知らない。

 相手を間違ったとしかいいようがない。とは言え20代の社会経験のない若者が上下関係と権力支配が渦巻く軍隊生活に突然投げ込まれて先輩として指導する立場になった時、相手を、人物を見極めて秩序と序列と規律の手綱を締めたりゆるめたりできるものだろうか。人間の脆弱性がもたらすシステム(秩序)の落とし穴に気づけるものだろうか。一律に厳しくし、悪習と慣習を引き継ぐ胡散臭いやり方に背を向けたくてもその塀の中から外には出られない…。しかし厳しい規律と秩序と序列は一律にひとしなみに人間の弱さ、とシステムの弱さを隠蔽するためのものでもあると気づく(気づかされる映画)。理想を抱きすぎて軍に適応できない人間も、まだまだ弱くて軍に適応できない人間もどんなタイプも概ね包含できるようなシステムを作り、運用するためにヒエラルキーと軍律を装備して弱さと弱点を押し込めている。軍の秩序という隠れ蓑の中で軍隊というシステムの持つ脆弱性、そして人間の弱さを隠蔽しつつ表面的に平均化してどうにかシステムを稼動させてしまう…。そんな映し絵も垣間見えて興味深い。

 軍隊というシステムの中の規律ある生活は社会生活の中にも見ることができるし、兵役についている男性だけの問題ではなく社会が世界が抱えている普遍的な問題が炙り出される主題だった。限定された時間や空間での人間同士のやり取り、適応・不適応は実は地球上どこもこんなはず。ただ社会経験のない若者が軍隊という擬似社会で厳格なヒエラルキーを伴った「社会生活」を余儀なくされるのは、その弱さの帰結を考えるとあまりに痛ましい。

 人間の作ったもの、国家も社会も軍隊もシステムもおしなべて作った人間、使う・運用する人間側次第という、世界に偏在するあらゆるシステムの持つ壮大な問題(脆弱性)が透けて見える。システム対人間についての、監督の考察にも思える。登場人物も多くない、個人的・私小説的な映画のようにも見えるが、どうして普遍的な「システム不全」(この場合のシステムは国家や社会、軍隊、家族、経済、機械的システムなどすべてを包括する)を描き出している。そして人間の弱さと、理想にぶつかって斃(たお)れた魂を感じる。プラトンの『国家』なども読み返したくなる。ジフンは監督が演じていた。


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