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Review 『美しき野獣』『まわし蹴り』
『下流人生〜愛こそすべて〜』

Text by カツヲうどん
2006/2/11


『美しき野獣』 ★★

 この作品は、アクションの体裁を装っていますが、中身は純然たるフィルム・ノワールかつ絶望のアンサンブル。イ・ビョンホン主演作『甘い人生』も似たような作品でしたが、さらに輪をかけた救いのないお話です。韓国映画は、商業ベースが中心なので、極端に暗いものやテーマ主義的な作品はここ数年、鳴りを潜めていましたが、ある程度枠を外せる余地が出てきた今、やたらと暗く陰湿な作品が目立つようにもなりました。クリエイターたちの反動かな、と感じつつも、一見脳天気に見える韓国社会が持つ、負の部分を垣間見るようです。しかし、映画『美しき野獣』が持つ、ひねりのない暗い率直さは、時代錯誤というか、子供っぽさすら感じさせ、なんだか二十年以上前の日本の刑事ドラマのようです。かといって、深い人間洞察や社会的なリアリズムがあるわけでもなく、アクションが卓抜しているかといえばそうでもなくて、「巨悪の連鎖の前には、貧しい正義はなんの役にも立たず、ただ抹殺されるのみ、自己の正義を貫くには自ら犯罪者になるしかない」という展開も、考察不足が否めません。

 登場人物たちも、行動は一見極端ですが、かなりステレオ・タイプな設定で、彼らに共感することは難しいでしょう。クォン・サンウ演じた刑事チャン・ドヨンは「美しき野獣」というよりも「汚い狂犬」。そこにはハリー・キャラハンのようなダンディズムも、ジミー・ドイルのような愛敬も一切ありません。融通の効かない人生を駆け抜ける彼の姿は、率直というよりも愚直です。ユ・ジテ演じるクールなオ・ジヌ検事は、「狡猾だけど要領の悪い狐」といったところ。彼もまた正義を貫こうとする人物ではありますが、エリート過ぎるのか、人間味に欠け、結局は「策士、策に溺れる」の道を歩んでしまいます。この二人が立ち向かう凶悪な相手とは、暴力団のトップにして事業家、あらゆる方面に顔の効くユ・ガンジン(演じるは『大統領の理髪師』で名を上げたソン・ビョンホ)。彼は冷酷で殺人や暴力をいとわない人物ですが、いかなるときでも理性的であり、社会との折り合いも欠かしません。そんな知力・財力・経験率を備えた大物に、なんの力もない非常識な凸凹コンビが立ち向かうわけですから、結果は最初から見えています。

 最近の韓国の暗い映画を観るたびに思うのですが、その絶望感が昔の韓国映画とは違い薄っぺら、ファッションの一端として作られているようで説得力がありません。『美しき野獣』には、今の韓国における政治や企業への不満が反映している、ということなのかもしれませんが、それらは恵まれた人間の視点から描かれた社会への不満や絶望であって、なんだか嘘臭く感じるのは私だけではないと思います。また、『美しき野獣』にしても『甘い人生』にしても、描かれる人間たちの行動理念に説得力がなく、お人形しているだけで、空しくアクションだけが炸裂している点も共通しています。確かに『美しき野獣』におけるクォン・サンウの演技は高く評価すべきでしょう。彼のキャリアの中で、初めて俳優としての可能性を感じさせてくれる演技でした。彼の身体能力の高さも素晴らしいものです。しかし、ドヨンにしてもジヌにしても、彼らの人生といったものが全く感じられないのです。だから、そんな偏った怒れる二人の若者に、実際の人々が共感できるか、観ていて、かなり疑問に思いました。

 コメディやメロ・ドラマを製作しなければやってゆけない状況に対する現場の気持ちもわかりますが、ただ暗く悲惨なだけでは、結局は観客離れを促進するだけなのではありませんか?


『まわし蹴り』 ★★★★

 似たような青春学園ドラマが乱立した2004年度韓国映画群の中でも、この『まわし蹴り』は、ダントツの面白さであり、ベスト1といってもいいくらい、見応えのある作品だ。ただし、韓国では小規模公開で終わってしまったため、隠れた秀作になってしまったことは悲しい。地味な配役に、今の若者の流行に合わない題材と、興行側が公開に力を注がなかった理由はわかるにしても、こういう素晴らしい映画が、すぐに劇場から排除されてしまう韓国内映画興行事情の熾烈さは、一種の全体主義のようで、ちょっと心苦しいものがある。

 映画は一言でいえば、相撲をテコンドーに変えた、韓国版『シコふんじゃった。』。日本映画の影響がかなり濃厚に感じられる作風だが、明るくテンポよい作風は、まさに今の韓国映画の勢いそのものだ。目立った作家性はないものの、定番のストーリーを感動的に盛り上げ、随所に巧みな笑いを散りばめた新人監督ナム・サングクの腕前は、かなりのものである。ちょっと、ポン・ジュノに通じるセンスの冴えを感じさせる。特に、イ・ギウ演じる大男ソッポンが登場し、その正体を明らかにするまでの過程は巧みで、大爆笑のオチが待っている。

 万世高のメンバーを演じた面々は、皆個性的でキラキラ輝いている。本当にこれからが楽しみだ。一途で融通の利かないミンギュ(ヒョンビン/なかなかの美青年)、根は真面目なヨンゲク(キム・ドンワン/SHINHWAのメンバー)、いい加減なジョンデ(キム・テヒョン/堂本剛にちょっと似た三枚目)、落ちこぼれのソンワン(チョン・ジェヒョン/若手の超個性派)、謎の巨漢ソッポン(イ・ギウ/『ラブストーリー』テス役でブレイク)と、多彩だ。ダメ師範(キム・ヨンホ)も、スターではなかったからこそ、逆に際立っているし、頭痛持ちのソク校長演じたキム・ガプスも、久々に三枚目全開で笑わせてくれる。

 この作品をシネコンで観た際、最小キャパの単館というハナからひどい扱いだったものの、映画が進むにつれて、観客たちは大興奮、最後には歓声と拍手が客席から上がっていたことが、非常に印象強く心に残った作品だった。日本でも何らかの形で是非上映して欲しい作品であると共に、韓国でもクチコミで人気が出る事を切望したい一本である。


『下流人生〜愛こそすべて〜』 ★(再掲)

 この映画を観て私は驚いた。いや、正確にいうと「映画を観ていた韓国の若い観客たちの反応」に驚いた。映画は最初から最後まで、観客の失笑が絶える事なく、時には大爆笑、映画が終わると立ち上がって嘲りの拍手をする者まで出る始末だったからだ。特に嘲笑が集中していたのがヒロイン・ヘオク役のキム・ミンソンだ。カットが変わって彼女が出てくるたびに、客席から笑い声が上がる様は、あまりにも悲惨だった。主演のテウン役、チョ・スンウも、力んで汚い言葉を怒鳴るたびに、クスクス笑いが起こる有様だ。

 この『下流人生〜愛こそすべて〜』という映画は、テーマ自体は、非常に真面目である。激動の韓国戦後史を舞台に、成り上がろうと苦闘する一人の若いヤクザの生き様を描こうとした作品で、十年位前まで、東映が好んで作っていた現代仁侠物によく似ている。だが、映画は演出スタイル、物語共、今の観客からは完全に相手にされない古臭い出来映えだ。生気のない登場人物、メリハリのない物語、誤魔化しに過ぎない字幕による説明と、まるで巨匠イム・グォンテクの「つまらない節」集大成のようであり、若い観客から笑いが起こるのも仕方ない。コケにされた一番の原因は、唐突で不自然なカット変わりだろう。

 前作『酔画仙』を観た時、そこから漂ってきた製作者側の高慢な態度に、私は非常な怒りを感じたが、今回の『下流人生〜愛こそすべて〜』の場合は、怒る前にあまりにもみじめで可哀相になってしまった。イム・グォンテクの映画は、かつて観るべき価値のある作品が何本もあった。近年は、『風の丘を越えて〜西便制』と『祝祭』を最後に、ろくでもない作品を作り続けているようにも見えるが、どの国の巨匠もそうであるように、映画監督という仕事はピークと衰退、変化が必ず訪れるものなのだから、それは仕方がない。逆に、第三者によって、過去の実績や栄光を、いつまでも掲げられ、同じ物を期待される事の方が、本人にとっては辛いだろうと思う。

 キャリアを積んだ中堅以上の監督たちが、全く作品を撮れず、かといって初心者監督に映画を撮らせては大失敗、手堅く作り続けている監督も、次は失敗しないかと戦々恐々、という厳しい韓国の映画界において、昔の映画全盛期から生き残った監督チームが映画をコンスタントに撮り続けている事は凄いことだし、移り気な若い観客に媚びず、自己の作風を固辞し続けることは、後世に何かを残す上で時には大切な事だ。だが、過去の栄光、「なんとか賞受賞」とか「観客動員数何人」とかいう事柄は、一過性の出来事にしか過ぎない。世界の一流のクリエイターたちが、こうした受賞歴をあえて、忘れる努力をしているのは、過去の栄光にしがみつくことが、どれだけ自身のクリエイター寿命を縮めるか、よくわかっているからだろうと思う。

 決して観客に媚びるべきではないけれど、いつまでも過去の栄光と業界でのキャリアにかじりつき続けることは、まさに老害以外の何ものでもないだろう。『下流人生〜愛こそすべて〜』が、ここまで観客たちになめられ、馬鹿にされた、という事実を、製作者側は果たして理解しようとしているのだろうか? 人間、引き際が大切であることを教えてくれる、教訓に満ちた、悲しい悲しい悲しい映画である。


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