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全州国際映画祭2005 リポート
『いろいろなお話』

Reported by 井上康子
2005/5/31



『いろいろなお話』 2005年 英題:If You Were Me : Anima Vision

 2005年5月1日 全州市メガボックスにて上映
 ゲスト:全6作品の監督

 『五つの視線』と同じく、韓国人権委員会の製作によるオムニバス人権映画の、こちらはアニメ・バージョンです。

 韓国人権委員会は、なぜ、アニメ・バージョンも作ったのか? 子供に見せるためなのだろうか? と思いつつ作品を観ましたが、子供が観ることを前提に作られていると思われる作品は少なく(子供が観ることを前提にはしていないが、実写版よりも子供に理解し易い内容の作品が多いし、アニメは特性として子供に親しまれやすく、どの作品も充分子供が興味を持って観ることが出来ると思いました)、アニメ・バージョンも監督の自由な発想にゆだねられて作られていることがわかりました。


ティーチ・インで集合した監督達

 観終わってみると、「人権」という抽象的な概念を描くのに、アニメという抽象的な映像世界は媒体として適しているのではないかとアニメ・バージョンの必要性を納得しました。


1.『昼寝』
 英題:Day Dream
 監督:ユ・ジニ

 手脚に欠損がある女の子を主人公にした作品。家の中で、優しい父と二人で昼寝をする女の子の姿は平和そのものだが、家を一歩外に出ると、人の意識や建物が大きな障壁となって二人の前に立ちふさがり、女の子はバスにも乗れなければ、幼稚園に通うこともできない。

 パステルカラーを主に使った、優しい色調が、この作品が障害を持つ小さな女の子の視点で描かれたことを示している。


2.『動物農場』
 英題:Animal Farm
 監督:クォン・オソン

 羊の群れが飼われている農場に、一匹だけいる山羊は羊たちに散々いじめられるが、そこに元気な牛や豚やあひるもやって来て、農場の中の一匹だけの別種のマイノリティでなくなり、いじめられることもなくなって、めでたしめでたしというお話。子供が観ることを意識して、マイノリティといのは相対的に変化するということをわかりやすく伝えている。

 人形を使った立体アニメで、顔の部分はクレイも使っていて、動物の表情が豊かに表現されている。


3.『彼女の家』
 英題:At Her House
 監督:キム・ジュン、パク・ユンギョン、チョン・ヨンジュ、チャン・ヒョンユン、イ・ジンソク

 仕事、育児、家事のすべてを一人でこなさざるを得ない女性が主人公。夫は家の中のことは何もせず一人でくつろいでいる。赤ん坊を抱え、疲れ果てた彼女は、掃除機で家の中のものを何もかも、最後には夫も吸い込んでしまい、初めて微笑むのだった。

 5人の監督は女性だけでなく、男性も含まれている。


4.『肉多骨大女』
 英題:The Fresh and Bone
 監督:イ・エリム

 代々、大きな頭に、大きな骨を持つ先祖から生まれた女性が、それらを遺伝的に受け継ぐのは自然なことなのに、社会は女性に画一的な容貌を押し付け、彼女の怒りはついに爆発する。

 代々の先祖を説明するのに、「むかしむかし、大きな頭に大きな骨を持つ人が・・・」という昔話のような繰り返しが楽しく、古美術を思わせるような独特の描画が注目を集めた作品。


5.『自転車旅行』
 英題:Bicycle Trip
 監督:イ・ソンガン(『マリといた夏』)

 アジアの貧しい国から韓国に出稼ぎに来た不法就労者が、取締りから逃れようとして、自転車を走らせるが、事故に遭って死んでしまう。心を残したままの彼は見えない姿で自転車に乗って仲間を探すが、もはや誰の行方もわからない。

 自転車自体がまるで意志を持っているかのように静かに動き出す場面は印象に残る。自転車の動きを美しく描けているのはアニメならではの成果だろう。


6.『人になりなさい』
 英題:Be a Human Being
 監督:パク・チェドン監督

 学校の門はアウシュビッツの収容所の門を模して描かれていて、そこには「人になりなさい」という標語が記されている。暗く、荒れた、まさに収容所のような学校の中へと、動物の顔や手足を持つ子供たちが整然と入って行く、という冒頭の場面のインパクトの強さに圧倒されてしまった。この子供たちがいる世界では良い大学を出なければ人の姿になることはできないのだ。

 韓国の学歴社会を痛烈に批判した作品。


 いかがでしょうか? アニメ・バージョンも個性豊かでおもしろいですよ。


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