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全州国際映画祭2005 リポート
『デジタル三人三色』より『魔法使い(たち)』

Reported by 井上康子
2005/5/31


はじめに

 第6回(2005)全州国際映画祭が4月28日から5月6日まで韓国・全州市において開催され、31ヶ国176作品が上映されました。

 オープニング・フィルムには、毎年映画祭がコストを全額支援して製作しているデジタル映画プロジェクト『三人三色』が、今年初めて選定されました。また、メインプログラムの名称が、デジタル・スペクトラム(コンペ部門)であることや、デジタル・フィルムについてのワークショップ・会合も開催されていることなどから、映画祭側がデジタルによる新しい実験的な試みを支援しようとしている姿勢が感じられました。

 同時に大衆性の高い作品を集めた「シネマ・パレス」部門を強化したり、昨年発見された日本統治時代の作品を特別上映したりと、多くの観客を取り込めるよう多様なプログラムも準備されていました。

 このリポートではオープニング・フィルムとして上映された3人の監督によるオムニバス映画『デジタル三人三色』より、ソン・イルゴン監督作品『魔法使い(たち)』と監督独占インタビューを紹介し、続いて、韓国人権委員会製作によるオムニバス人権映画『五つの視線』と、おなじく人権映画のアニメ・バージョン『いろいろなお話』について御報告します。




『魔法使い(たち)』 2005年 ※ オープニング・フィルム『デジタル三人三色』より
 DigiBeta/40分/英題:Magician(s)
 監督:ソン・イルゴン
 主演:チョン・ウンイン、イ・スンビ、チャン・ヒョンソン、カン・ギョンホン

 2005年4月30日 全北大学にて上映
 ゲスト:ソン・イルゴン監督、チョン・ウンイン、カン・ギョンホン

 雪の降る大晦日の夜。江原道の森の中にあるカフェで、ジェスン(チョン・ウンイン)とミョンス(チャン・ヒョンソン)はバンド時代の思いで話で盛り上がっている。彼らはかつて『魔法使い』という名前のバンドを結成していたが、ジェスンの恋人だったジャウン(イ・スンビ)が3年前に自殺し、今夜は彼女の命日なので、バンドのメンバーだった3人が集まることになっているのだ。3人にとってジャウンの自殺は大きな心の傷になっており、また3人はそれぞれ愛する人を失った喪失感を抱えているのだった。


『魔法使い(たち)』


レビュー

 かつて、バンドを結成し、音楽の世界で生きてきたメンバーたちが、音楽の世界を喪失し、また愛する人を喪失してしまっている。この作品に満ちているのはこの喪失に伴う悲しみだ。

 作品中、最も美しいと感じられたのは、作品後半、舞台が森の中に移され、恋人同士だったジェスンとジャウンが語り合う場面だ。森の中を、2人が手を取り、あるいは抱擁する様は幻想的で美しく、会話は互いを思いやる愛情に満ちている。しかし、これらがすでに失われたものだとわかっているので、観ていると胸が痛くなってくるのだ。純粋に相手を思いやる気持ちというのは、描き方によってはとても陳腐になってしまうおそれがあるのだが、登場人物のペイントを施したメークや、江原道の夜の森という舞台設定により、非日常的で幻想的な世界が描き出されており、こんなに純粋な思いもあるのだと素直に感じさせてくれる。また、これはインタビューでの監督の発言(「心が純粋であれば夢は叶う」という発言)から感じたのだが、監督自身が「純粋な思い」というものを本当に信じているからこそ、描くことができたのだろう。

 場面は過去と現在を行き交い、演劇的な要素を多用した斬新な作品だ。今回、オープニング・フィルムの一編として上映されたのは40分の中編バージョンだが、95分のロング・バージョンもあるそうなので、そちらもぜひ見てみたい。


インタビュー ソン・イルゴン監督

2005年4月30日 全州市内のカフェ「TOM N TOMS'」にて
聞き手:井上康子

ソン・イルゴン
 1971年生まれ。1994年にソウル芸術専門大学を卒業。1995年よりポーランド国立映画学校で学ぶ。1999年、『遠足』でカンヌ国際映画祭短編コンペ部門審査委員賞を受賞。2001年、『フラワー・アイランド』で、ヴェネチア国際映画祭「デビュー監督」賞、釜山国際映画祭ニュー・カレンツ賞(新人監督賞)、TOKYO FILMeX最優秀作品賞を受賞。2004年、『スパイダー・フォレスト/懺悔』がTOKYO FILMeXコンペ部門に招待され、この作品は2005年に劇場公開された。その他の監督作品には、2004年韓国・環境映画祭で上映され、2005年に韓国劇場公開された『羽根』などがある。

● 『魔法使い(たち)』製作の経緯

Q: 『魔法使い(たち)』は映画祭側が製作コストを全額支援するプロジェクトで作られたそうですが、どういう経緯で監督なさることが決定されたのですか?
A: 全州から電話がありました。「参加しませんか?」と尋ねられて、「します」と。『スパイダー・フォレスト/懺悔』を作るのがたいへんだったので、すごくストレスが溜まっていて、自分なりにデジタルでちょっと遊んでみたいという気持ちがあったんですね。そういうタイミングでお話を頂いて、良いチャンスなので参加したいと思いました。

Q: 監督が選ばれた理由はお聞きになったんですか?
A: よくわかりませんが、私が韓国の監督にしてはデジタルの経験が多いからだと思いました。また、全州の関係者の話だと、オープニング・フィルムの3人の監督(他の2人は、塚本晋也監督とタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督)にある程度の共通点が見出せるからとのことでした。


『魔法使い(たち)』

● 『魔法使い(たち)』について

Q: 『魔法使い(たち)』では登場人物が顔にペイントを施しているのが印象的でしたが、監督はペイントについて、どういう意図をお持ちだったのでしょうか?
A: 登場人物たちは、以前は魔法の力を信じている、本当に魔法使いになりたいと思っていた人たちなのです。私は心が純粋であれば、そういう夢は叶うと信じているので、そういう人物を設定したんです。そして、ペイントを施して演劇的で強烈なメークにしようという意図を持ちました。それで、メークはすごく演劇的なのですが、服装は普通の服にしています。この作品には95分のロング・バージョンがあるのですが、その中では、たくさん、女優たちのクローズ・アップが入れてあって、メークもはっきりご覧になれますが、涙の跡のメークとか、すごく演劇的なメークにしています。私はそういう演劇的な強調されたメークがとても楽しかったですし、効果的だったと思っています。

Q: ミョンスが森に出る前に、鏡の前で顔にパフをはたいていましたが、あれは森に出るための準備だったのでしょうか? また、『スパイダー・フォレスト/懺悔』でも森が重要な場面になっていますが、この作品でも森が重要な場面になっていました。監督は森について特別な興味をお持ちですか?
A: ミョンスのメークについてですが、私は今回、映画の空間をすごく大きい演劇のセットの感覚で作りました。演劇だと幕間に俳優が楽屋でメークを直したりしますよね。私はそういう過程を観客と共有したかったのです。今回の中編バージョンにはないのですが、ロング・バージョンではそれぞれの登場人物がメークを直したり、着替えたりする場面も全部入れてあります。それで、場面や設定が変わることも伝えようとしています。照明や音楽も、過去・現在・未来を区別するために工夫したりもしました。森についてですが、個人的に森のイメージがすごく好きなのです。私はずっと都市で生活していますが、森だと都会のような騒音もないし、自分がすごく浄化される感じがするんですね。瞑想して休めて、美しいものも多いし、いろいろな面が好きです。本作のロケハンでは江原道に行って、カフェがあって、奥に森がある場所を見つけた時はうれしかったです。


『魔法使い(たち)』

Q: 作品で時間の流れを錯綜させたのはどういう効果を意図されてのことだったのでしょうか? エンディングのジャウンの自殺の場面にインパクトを持たせるためだったのかとも思いましたが?
A: 今回上映された中編はドラマとしての起承転結を明確にさせるよりは、ある瞬間の感情を表現して観客に見せた方が良いと思ったのです。中編では時間がだんだん過去に行っています。それから、ジャウンの自殺は3人にとってはすごく大きい心の傷になっていて、それが最も伝えたいことだったので、エンディングにインパクトを置いて見せるようにしました。ロング・バージョンでは、時間の流れはだんだん過去に行って、また現在に戻るというようにしてあります。

● 監督自身への質問

Q: ソン監督は自分が作りたい作品を作り続けて来ていらっしゃいます。いわゆる商業的でない作品を現在の韓国で作り続けるというのは、これまでも低予算で作品を作っていらっしゃいますが、資金の調達といった面で苦労が大きいのではないでしょうか? また、『フラワー・アイランド』のプロデューサーに韓国の方ではない方のお名前もありましたが、国外でも資金調達されているのでしょうか?
A: 素材の問題で、自分が作りたいと思う作品になかなかお金が集まらなくて、今まで低予算で映画を作ってきました。まだ、若かったし、それが楽しかったので続けたんですね。でも、今は歳も取ったし、考え方も少し変わって、お金の問題だけではなくて、もっと多くの観客と出会いたいという気持ちも強くなりました。それで、これから計画している映画は商業映画の予算の大きいものが何本かあります。そういう作品も撮りながら、低予算の作品も撮っていきたいと思っています。『フラワー・アイランド』を作った時は、フランチェスカ・フェデールさんに、フランスでのポスプロ作業の支援をしてもらいました。ご存知のようにアジアの監督で、作家主義の強い監督たち、例えば韓国ならキム・ギドク監督やホン・サンス監督たちは、自国ではお金が集まらないのですが、ヨーロッパにはそういう資金もあり、オファーもあります。次回作は日本のボックス・オフィス1位を狙っています(笑)。

Q: 映画監督になったきっかけを教えて下さい。
A: 勉強するのがいやだったんです(笑)。本当に特別な理由はなくて、映画科に入学したのです。映画もそんなに好きじゃなかったんですよ。入学して、作業を始めてから楽しいと思うようになったんです。


インタビューを終えて

 がっしりとたくましい体躯でいて、すらりとした長身。パク・キョンヒ監督の『微笑 ほほえみ』に主演もされているが、被写体として見ても本当にかっこいい。トレードマークの黒のキャップをかぶり、静かな暖かい笑顔で対面してくださった瞬間、なぜか突然、『フラワー・アイランド』を観た時に作品から感じた暖かさを思い出してしまい、ああこの人が本当にあの作品の監督さんなのだと一人で納得。

 この日は取材やサイン会でソン監督は予定が立て込んでいらしたのだが、本当に穏やかに、ていねいに質問に答えてくださった。

 『フラワー・アイランド』が2001年に韓国で公開された時は「興行をまず考えたら、それは映画じゃありません」という発言もなさっていたが、今回「もっと多くの観客と出会いたいという気持ちも強くなりました」と伺い、監督自身の中でもいろいろな変化があったんだと実感した。私が「次回作が、日本のボックス・オフィス1位にならなくてもいいのでは?」と言ったときも、「狙うだけは狙います」と笑いながらおっしゃっていました。

 20代にしてカンヌで受賞し、どの作品も芸術性の高さを評価されているが、今回の『魔法使い(たち)』の前の2作品を見ても、『スパイダー・フォレスト/懺悔』は脚本だけで2年を要したとのことだが、人間の無意識を素材にした深みのあるミステリー・タッチの作品であるのに対し、『羽根』は『スパイダー・フォレスト/懺悔』を撮った疲労の反動で気楽に撮ったとの弁だが、初恋を描いた童話のような作品であり、ソン監督のキャパシティの広さも感じさせられる。これから、大作の予定もある一方で、低予算の作品も作り続けていかれるとのことなので、どちらの作品も期待しています。



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