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『Birthday Boy』 絵本のような短編アニメーション
〜SIGGRAPH 2004から〜

鄭美恵(Dalnara)
2004/9/23受領


1951年の朝鮮半島。
男の子がひとりで遊んでいる、熊の歌を歌いながら。
今日は誕生日。
そして今日もふだんと変わらない陽の光。
誕生日の男の子マヌクは釘を持って鉄道の線路に向かって行く。
もうすぐ汽車が通る時間。
釘をレールの上に置いて汽車が来るのを待つ。
やがて汽車の車輪が釘の上を滑っていく。
ふと見上げると、台車の上には戦車が載っていた。
つぎの台車にも、また次の台車にも。
戦車は鉄道の上をどこかへ運ばれていった。
釘は平らになり、マヌクの磁石になった。
家へ帰ると小包が届いている。誕生日のプレゼントだ、そう思って開けた箱に入っていたのは・・・

 この短編映画の漢字タイトルは『祝生日』。マヌクの日常生活が朝鮮戦争によって変わってきていること、そして誕生日と未来までもが戦争によってこわされていることが静かに伝わってくる。

 CG(コンピュータ・グラフィックス)で製作された3D作品『Birthday Boy』で、初めてSIGGRAPH 2004(以下「シーグラフ」と表記:コンピュータ・グラフィックスの最も権威ある祭典)の短編アニメーション映画の最優秀賞を受賞したのは、韓国出身のパク・セジョン氏。シーグラフの最優秀賞はアカデミー賞にエントリーされる資格を自動的に得るという。韓国人の映画でこうしてアカデミー賞にエントリーするのは史上初めてかもしれない。アカデミー賞の短編アニメーション部門で受賞する可能性もある。

 パク・セジョン監督はこの作品でカメラ・ワークを重視したという。審査員もCGの技術よりはそのストーリー性と子どもの視点をカメラ・ワークで表現した、映画の演出技法に着目して賞を与えたそうだ。

 シーグラフに出品されるCG作品の昨年ころからの傾向として市販のソフトウェアを使用しての製作があげられる。パク・セジョン氏の作品もアドビ・フォトショップやマヤなどの一般に流通しているソフトで製作された。もはやCGが限られたユーザーのための先端技術ではなくなり、市販のソフトを利用してもCG製作が可能になったために、CGそのものの技術よりは手段としてのCGで何を表現するか、といった作品性に重きが置かれ始めているようだ。ムーアの法則(注1)に快哉を叫びたい。

 パク・セジョン氏の作品と共にシーグラフのコンピューター・アニメーション・フェスティバルにエントリーされていたのは、『シュレック2』やこの冬に公開される『ポーラー・エクスプレス』だったことからも受賞が先端のCG技術だけによるものではないことがうかがえる。実際、審査員の弁も「この作品にはストーリーそのものに見る人の心を動かす魅力があるので、3D技術は映画のための手段になっているくらいだ」といったものだった。

 セリフのない抑制の効いた表現手法とマヌクの可愛らしい表情、子どもの視点からのカメラ・アングルが戦争の破壊性をより色濃く映し出している。アニメーションとはいえ、ライティング担当、テキスチャー重視の美術担当というふうに、それぞれ専任をおいて製作した細やかさも感じられる。子どもの無垢な姿と戦時下の現実の生活を対比したかった、という監督の言葉通りに緻密な構成に仕上がった映画だ。

 音楽の世界では、ポップスに限れば10年以上前から海外組・帰国子女の活躍がめざましかった韓国。一方、映画の世界で活躍が目立っているのは圧倒的に国内組。386世代(注2)や韓国映画アカデミーの出身者が多くの良質な作品をたゆみなく世に送り出している。パク・セジョンも386世代、だが韓国を飛び出しオーストラリアの映画学校で学んだ映画界の海外組。留学先がLAでもなくNYでもないところが興味深い。

 オーストラリアはダウン・アンダー(注3)と呼ばれていたほどに同じ英語圏でも北半球にある国々からは文化の後進国とばかりに、田舎扱いされていた。しかし、最近ではピーター・ウィアー監督や俳優のニコール・キッドマン、ラッセル・クロウなどアカデミー賞受賞者や候補者を輩出して映画界での輝かしい活躍ぶりが目立っている。南半球の国オーストラリアと、アジアの小国韓国というハリウッドにおいてはマイノリティなバックグラウンドを二重に体現するようなパク・セジョンが、地上最後の分断国家の原因となった朝鮮戦争をテーマにした短編映画を携えてレッド・カーペットを歩いていく光景は想像するとかなりユニークだ。伝えたいことは映画で伝わる、CGでも伝わるのだ。

 『Birthday Boy』は、今年10月の釜山国際映画祭でも上映される(注4)。


注1 ムーアの法則
 元々は、「半導体の集積密度は18〜24ヶ月で倍増する」という法則。広範な意味ではソフトウェア、ハードウェアの価格が下がる一方、機能は向上している状況を指す。
注2 386世代
 現在30歳代で80年代に大学に通った60年代生まれを指す。団塊ジュニアの一回りくらい上の世代になるだろうか。
注3 ダウン・アンダー/down under
 下の下。北半球の英国から見て南半球のオーストラリアは下の下にあることからそう呼ばれていた。
注4 『Birthday Boy 버스데이 보이 』 釜山国際映画祭での上映予定
 10/8 14:00 デヨン・シネマ1館〔上映コード 011〕、10/10 14:00 メガボックス5館〔上映コード 315〕にて『Human Touch』と併映予定。


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